研究の失敗に寛容な風土はできるか [日経]

イトカワに着陸成功と言ったかと思えば、小惑星の試料採取は失敗の可能性ありと言い、さらに地球への帰還は姿勢制御エンジンのトラブルで3年延期と発表、本当に戻ってくるのか定かでないままだ。太陽系の起源を探る上で小惑星探査の意義はあるにしても、成功も失敗もあやふやにして逃げを打つようなプロジェクトの進め方は、科学技術への失敗に寛容な風土を築くという点ではマイナスではないか。

はやぶさ」一つでやる事は山ほどありまして、成功したミッションもあれば失敗したミッションもあるんですよ。 この記事で具体的に何が失敗だと言っているのかは分かりませんが。 リアルタイムで全ての状況を掴める性格のものではないし、そもそもいまだ現在進行形のものを一くくりに成功か失敗かの二元論で単純化することって果たして成果を正しく理解できるものなのでしょうか? とてもそうは思えません。
例えばサンプル採取の成否について。 記者会見の全文を読めばわかりますが、断片的なデータの中に採取を行なう弾丸発射失敗の可能性を含む情報もあれば弾丸発射がなされた事を示す発射装置の発熱情報もあるわけなので、現時点では誰も断言できないのは当然です。

『「...確実にサンプルが採取できたかどうかの判断は、1)弾丸発射のための火工品がきちんと作動したかどうか、2)着地時のレーザーレンジファインダーによる姿勢データによって正しい姿勢で着地したか——の2点をもって確認したい。これらのデータはまだダウンロードできていない。これから姿勢を立て直し、できれば臼田局の可視時間内にダウンロードしたい」』

当初から発言している通り、むしろ得られたデータから激務の合間を縫って可能な限り正確な現状報告がなされているわけでして。 それをあやふやと言われちゃ報われませんね。 何度も書きますが、複数のミッションが同時進行中であり、それらの成否は明確に記されています。 「成功したのか、失敗したのか分からない」と言うのが「素人」の読者ならまだしも、まさか情報のプロたる記者がそうであるとは思いたくないものです。

宇宙開発では目標を明確にして確実にそれを実行する技術が求められる。故障しても修理に駆けつけられるわけでもないし、指令を送っても時間がかかるから高度な技術も必要になる。信頼性を重視するのはそのためだが、その思想がない探査機ではいい加減な成果でよいということなのだろうか。

前段と後段が矛盾しているのでは。 どれほど信頼性を固めてもトラブルというものは起こり得ますし、ましてや前人未到の宇宙空間はそのへんの道路を走っているのとはワケが違います。 「いい加減な成果」と切り捨てておいでですが、これほど極限的な環境で多くの「世界初」を成し遂げていることが「いい加減」なわけがありません。

機構内でははやぶさは将来の宇宙探査に向けた「技術実証」が狙いだから、イトカワ到着で一応目標を達成と言っているが、飛行だけが目標と言うのではあまりに情けない。

ぇ-。 新開発のイオンエンジンをぶっつけ本番で長期間ノントラブルで運用し惑星間航行を行なうという世界トップレベルの技術開発が「情けない」なんて… そもそも本来は複数の探査機で行なわれるものを単体で成功させるにはまず目標天体に到達することが大前提である事は言うまでもありませんよね。 しかもあれだけ高精細な科学観測にも成功してるのに。 加えて小惑星を対象とした複数回の離着陸を成功させた事は過去に前例のない大成果なわけですが。
もちろん、これらのミッションを行なって浮上した問題点を改善して新たなミッションに活かすことこそ本来の目的ですよ。 むしろここまで出来てしまったからこそ「出来て当たり前」みたいに取られてしまうのかも知れませんが。

科学技術の研究開発には新発見やイノベーションにつながる発明、そして一つ一つの技術を組み合わせ、全体システムをつくりあげるような技術開発プロジェクトがある。前者は未知の世界の挑戦という性格があり、失敗なしに成果を挙げるのは至難の技である。一方、後者は着実にシステムをつくることが前提であり、出来上がったシステムが動かなかったり、目標を達成できなかったりすれば失敗であり、無駄な研究開発ということにもなる。

つまり、前者では失敗は許容され、後者では失敗は許されないということになる。はやぶさは後者になるが、研究者が意図しているかどうかは別にして成否のあやふやな発表をみる限り、失敗の責任逃ればかりが前面に出ているような印象を与える。

まるで「はやぶさ」のミッション全てが「失敗であり無駄な研究開発」だとでも言いたげな印象をもちましたが、未知の環境で新開発の技術をもって複数のミッションを全て失敗無しに成果を挙げることは至難の技ではないのだろうか。 「はやぶさ」はむしろ前者です。 まあそもそも

安い開発費では目標を達成できないというのであれば、失敗しないだけの開発資金を要求すればよかったではないか。

と言っているあたりまるで打ち出の小槌か何かと勘違いされているフシがありそうに思えます。 日本の宇宙開発が如何ほどに万年金欠であるかは今更言うまでもないのですが。 記事の結論もそれ自体は良しとしても引き合いに出した「はやぶさ」が結局何なのかは良く解からない「あやふや」なものですし。
科学研究の意義を思索するのは大いに結構なのですが、特定のネタを持ち出すならもうちょっと理解を寄せて欲しいですよね。

P.S

松浦晋也氏がこの記事についてTBを募っておられたので拙文ながらTB発射させて頂きます。