金星探査機「あかつき」に関する記者説明会 2012.01.31

本日宇宙開発委員会にも報告された「あかつき」に関する説明会ですが、NVSさんの中継から質疑応答部分を中心に起こしてみました。


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司会:本日午前の宇宙開発委員会調査部会、そのうちJAXAから説明した2つの資料「今後の改善事項1-1」「現状と今後の運用について調査1-2」を中心に説明
本日の登壇者はISAS宇宙科学プログラムディレクタ稲谷芳文教授、PLANET-C中村正人プロマネ


稲谷PD:(資料の説明・これまでの経過)
中村PM:(資料の説明)2015年に金星に接近して逆噴射をする。遠近点が反時計回りに動いて太陽の向きと逆になり摂動を受け遠金点で減速され近金点高度も下がる。それを避けるためには極軌道。それに対し2015年にスイングバイだけして太陽方向に1回脱出、約200日後(1金星年)に再接近し逆噴射して長楕円軌道投入、太陽摂動が遠金点の向きと同じなので加速を受けて近金点も上がる。赤道面内に入れられる可能性が出てくる。ただし確定した軌道というわけではない。ここでは2016年と書いてあるが詳細な軌道設定をして2017年になるという可能性も。このような2つの軌道、2015年だと極軌道、2016年以降だと赤道面が可能。それぞれの軌道でどのようなサイエンスができるか。赤道面に近い軌道だと高速大気循環メカニズムの観測については当初の軌道と非常に近い軌道。遠金点が非常に遠いために空間分解能が下がるが概ね当初の計画通りの大気の運動を連続モニタできる。雲や雷の観測も。極軌道に近い軌道のケースだと遠金点の向きが南向き。設計上探査機はあまり上下に振れないため金星を見ている時間が短くなる、観測時間に制約が生じる可能性。雲や雷の観測は赤道面に近い軌道と同様。
今後の運用、2015年に再会合までに近日点7回。温度上昇。紫外線照射試験で確度の高い温度予測が可能になってきた。アウトガスによる熱制御剤への影響、それによる内部機器の温度上昇に留意しつつ運用する必要がある。

質疑応答

読売:逆止弁、今後不具合が起きても大丈夫ということについて。最大の圧力になっている、ブローダウンで出し切れば十分軌道に乗せられるという意味だと思うが、2016年(軌道投入)とすると2015年は逆噴射しない?
中村PM:噴射しないケースも考えられるし、少し噴射してパワースイングバイで調整するなど色んなバリエーションが考えられ、検討中。

読売:2015年は少し逆噴射し、そのまま逆止弁が閉じちゃってる状態でも大丈夫と。
稲谷PD:図。CV-Fが動作不良を起こした逆止弁。上の高圧ガスタンクから供給するがCV-Fが完全閉塞でも燃料タンクに圧力がかかる、有効な体積に圧力がかかっている。有効な押し出し方をできる。詰まったままでもその運用ができる。

読売:2015年、16年とかだけだと大雑把なので、例えば2015年の何月とか?

稲谷PD:1回目の会合は日にちまで言えると思うが2回目はやり方によって少し変わる。2015年11月にまず到達する。金星の1周期後なのでその次は約200日後

(2016年の6月…?)

読売:遠金点と近金点の距離
中村PM:遠金点はまだ分からない、近金点は当初通り300km、それに類似した高度を狙う。
稲谷PD:分からないというよりもどの作戦をやるかによってそこが決まる。15年の時点で探査機がどのような状態にあるかというところに密接に関係。今これが確実にできるというよりもその時点の科学成果を最大化すると。


共同:2016年以降というと機体の劣化で条件が悪くなっていくと思うが、次の2017、2018年という判断になる状況という状況がよく分からないが
稲谷PD:スイングバイで少しずつ望ましい軌道に変えていける。無限にスイングバイを繰り返していいとなると非常にいい軌道に入れられる、回数が増えるほど自由度が増える。一方で時間がかかるので探査機の状態が悪くなるだろう。状況を見て決めたい。原理的に有り得るという話。

共同:15年のスイングバイ後の計算で16年で入れられる軌道があまりよろしくないと分かった時点で17年18年にしないといけないと分かってくる?
稲谷PD:16年に入れるのであれば15年の入れ方はこうすると決めてしまうから、1回通過してから次の作戦を決めるということは多分しない。1回目の前に次の作戦を全部決めて2回目はこうするので1回目はこうしよう、計画としてはそういうやり方になる。


産経:今回の事故の原因はシール部分の透過、これは一言でいうと設計ミスとなる?
稲谷PD:言葉の定義になると思うが、ある種の現象について起きるということを想定しない設計をしていたということが原因。その事をもって設計ミスとするのか、設計条件を間違えていたというのか、どういう表現をするか
産経:酸化剤がシールを透過するということを想定していなかったということが大きい?
稲谷PD:知識としては勿論あろう事が0ではないという前提だが、有意にこれほどの量で透過するということと、それが塩を生成して固体の生成物となって動作の邪魔をするということまでは、一般的な知識としてそういうことが皆無だったかというと言い方が微妙になるが、今回の設計ではそれを想定していなかったということ。
産経:少なくともアメリカのメーカーの製造ミスとかではないと
稲谷PD:製造ミスの言葉の定義は私はこういう風に図面で「作りなさい」と指示して、その通り作られてなかったとなると製造ミス。という意味ではこれは製造ミスではないと思う。
産経:塩を生成するのを想定していなかった、その背景にあるのはJAXAの側としてバルブを作ることへの経験不足があったという事になる?
稲谷PD:経験不足の意味するところになるが、一般に部品を調達する際に中の全ての情報まで開示されるかどうかという問題がある。非常に本質的なところで、今回の事故に繋がるようなところが本質的なところだと我々は理解しているので、正しく情報を得た上でやったか、開示されるかどうかという問題がある。ブラックボックスで使うのであれば「試験はどうしないと危ないですよ」など対応は考えられるが、そこのやりとりで分からないのであればこういうやり方をすべきであった、と解決の仕方が一つ、分からないのであれば分かる前に突き止めなさい、と解決の仕方が何通りかある。例えば外国メーカーから物を買う場合、輸出入のコントロールがある状況の中で、開示される場合もされない場合もある。されない場合は向こう側にゆだねられないならこちら側できちんと調べる、という対応をやるべしと今回の改善事項に書かれている。


産経:調査部会でもバルブの不具合がこれまでにも何度かあって今回もこのようになってしまったという意見があったが、バルブの不具合によって探査計画が大幅に狂ってしまったことについて改めてどのように思われるか
稲谷PD:大変残念。設計の段階から想定していれば防げたことであったと思う。一方でこのバルブは実績がある、探査機がどういう運用の仕方をするかときちんと調べていればこういうことを心配しろという思いに至ったかも知れないという意味で大変残念。資料はその改善事項として纏めたもの。


ライター青木:いつ軌道に乗せるかということと、設計寿命の問題。いくつか観測装置が載っているが、どれが一番寿命が先に来るか。軌道はどの段階で決定し、また軌道に乗せてからでないと観測装置の劣化が分からないか? 事前にチェックしてこの軌道に乗せるということができるか?
中村PM:危ないのはCCDなどの撮像素子。どれも撮像素子を持っているがだんだん白傷ができてくる。どの程度放射線を浴びるか、太陽活動にもよるので経過を見ないと分からない。星を見て撮像することは可能なので時々そういうことをやってチェックしていくことになる。

ライター青木:そういうチェックをしつつ15年にするのかなど決めていく?
中村PM:判断材料の1つにする。
ライター青木:何が出来るか分かった時点で観測スケジュールを立て直す?
中村PM:基本的にはそうだが、今から考えておいてこのような観測が可能である、その準備をしていくことになる。投入した時点での地球距離を考えて間引いたりする。
ライター青木:太陽活動極大期を迎えるが、想定外のダメージは有り得るか
中村PM:想定していた以上の放射線を浴びるのは間違いではない。
ライター青木:対応はしようがない?
中村PM:耐えるんでしょうね根性で…(笑)


NHK:再投入時期の確認、ターゲットは2015年の11月、もしくは2016年の6月、いずれかに置いていると。オプションとしてそれ以降
中村PM:その通り。
NHK:11月の軌道変更でRCSの能力がある程度分かればどのくらいの軌道に入るか予測できるという話があったが、2016年の赤道面軌道に入れられた場合、一番いい場合の軌道周期、そのあたりの可能性は
中村PM:RCSは期待通りの能力を示しているのでベストな計算はできるが、実は計算している最中で、ここで2ケースだけ示しているのは他の計算ができていないから。もっといいケースもあるし、このケースだと途中で微修正が必要であったりで細かい検討をしないと確実なことが言えないので、軌道決定グループからは待ってくれと言われている。


フリーランス大塚:今後のオプションとして15年か16年以降があると思うが、最終的判断としてはいつごろまでにやらなければならないかなどの見通しは
中村PM:少し前でいいのではないか、2015年なら2014年など、考える時間はあるだろう。
フリーランス大塚:近日点マヌーバでのRCSの推力比推力の数字は出ているか
稲谷PD:だいたい予想通りだった。今数字を持っていないが…これだけΔVをやってこれだけ燃料を使うだろう、圧力の低下ということが全部のデータで辻褄が合っていたということだった。もちろん幅をもって見ないといけないが。必要な燃料消費量で必要なΔVが出せたというのが一番大事。


?:先ほどの質疑で運用によって逆止弁の透過が起きたり起きなかったりという話が合ったが実際にはどういうときに透過しやすい?
稲谷PD:正確に訂正を。透過というのは、ある物質がこれ(紙を持ってジェスチャー)の前後にあった時、これを突き抜けていくのを透過といっている。今も酸化剤があれば起き続けている。一方ではほとんど捨ててしまったのでその量は非常に少なくなっている。バルブの動作不良が再現するかどうかと透過することは別の話として話すと、一昨年の軌道投入時にはバルブは閉塞していただろう、再度やってみるとそれほどでもないという結果が出てきた。詰まり方が時間経過で変わっていくことを示している。今後一切バルブがガスを通さなくても運用が大丈夫と確かめられている。今後の運用ではどう閉塞しているかどうかにかかわらず軌道変更はできる。
?:実績では詰まっていなかった。今回詰まったというのはバルブの使い方が今までとは違っていたということがあった?
稲谷PD:今回はこのようなことが起きると思っていなかったが地上で実験をすると再現された。塩が生成するということは、あかつきの形態で酸化剤が十分ある状態であれば塩が生成され動作不良が起きるのだろうと思っている。以前の他の探査機や衛星でバルブをどう使うか、配管やコンフィギュレーションやパーツは全部違うので、同列に単純には比較できない。
?:今回はたまたま燃料の種類の組み合わせなど…?
稲谷PD:推進系の配管・部品・他のバルブ・圧力供給の程度、燃料と酸化剤をどう仕切っているかというレイアウトによる。他の資料でバルブ配置の比較をお見せしたと思うが、他の探査機とで大きく違うのでバルブ単体では言えない。構成で考えないといけない。
?:2015年の会合まで何か観測する予定はあるか
中村PM:金星に近付く時には金星撮像を行う。金星の明るさに最適化してカメラを作っているのでそれを一番活かせる。太陽の向こう側を通って交信する時には通信のための電波が太陽大気を通る。周波数や方向が変わるのは太陽大気の動きを反映しているので観測計画に含まれている。


朝日:逆止弁の透過という現象だけとってみると他の探査機では透過現象はこういう形状のバルブであった場合は起きる現象だと思われるのだろうが、想定されてはいなかったか。他の探査機では透過を想定しなくても上手くいっていたということか。
稲谷PD:問題を起こした逆止弁以外にも色々なバルブが付いている。この逆止弁の内部構造の模式図でここにシールがあるが、このシールでせき止められているにもかかわらずシールをすり抜けていく現象を透過と呼んでいる。一方酸化剤タンク・燃料タンクからの蒸気が2種類の上記がどこで混ざるのか、いくつかの関所がある。あかつきではこういう配置だが探査機ごとの設計が違うので、どこにどれくらいの蒸気が流れてくるかは一般には推進系のレイアウトで異なる。透過するほどそこに酸化剤がやってこなかったか、来ても影響がなかったか。例えば「のぞみ」では他の不具合が起きたので顕在化しなかったと思われるが、実際にはこれを知った上では起きていた可能性は排除できない(のぞみの主な不具合の原因ではないが)。外国では何種類かについてこのバルブが使われた例があるがそういう不具合が起きた報告はない。ミッションの運用時間が短いなど「あかつき」と比較する上では考えないといけない。
朝日:こういったバルブでは透過が起きると想定しないといけなくなった?
稲谷PD:一般に透過は小さく管理されているはずだという先入観はバルブの内部構造を知った上での話にしないといけないが、内部構造の開示などの問題があるのも事実で、よく分かっていないのであればそれなりの対応をしないといけない、分かっていないのに対応しないのであれば今回のようなことが起きるかも知れないということに気がついたと理解している。


NVS:1月末に地球に対して発生した大規模フレアのダメージは
中村PM:幸いにも無かった。凄くドキドキした。
NVS:一般的な知識だが、地球の磁気圏を回っているよりダメージの影響としては大きいのか
中村PM:地球磁気圏内だと放射線帯の影響がある。地球磁場で太陽風の侵入が妨げられているという意味からは、太陽風プロトンなどからは比較的守られているが、物凄く大きなフレアが起きて地球磁気圏が圧縮されると磁気圏が小さくなるしそれによって放射線がエンハンスしダメージを被る。必ずしも惑星探査機が不利というわけではないが違う種類の影響を受けていると考えて欲しい。
NVS:フレアが来るまでに時間があった場合、踏ん張る姿勢というものがあるか?
中村PM:ある。一般的には燃料タンクを来そうな方向に向けて危なそうな素子を守るなど、こういう姿勢がいいと運用担当者が知っているのだろうと思う。衛星によって異なる。


?:今後長い運用になるが、中村PMから今後の抱負を
中村PM:皆さんの期待を担って打ち上げさせて頂いた衛星が数年後とはいえ(軌道に)入れる可能性が出てきたことは非常に嬉しいことであり、サイエンスの意味でも国民の皆様の期待からもそれに応えられる可能性がある。その小さなチャンスを決して無駄にしないように頑張っていきたい。国民の皆様からここまで支援いただいた事に心から感謝している。


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とりあえず先日のフレアの影響がなかったのは良かったです。燃料タンクを盾にする防御姿勢が存在するんですねw 2015年にするか2016年にするかは探査機の状態とのトレードオフですが、もし2015年まで良好な状態を保つことができれば半年程度は待てそうです。勿論その場合はあと4年あるので鬼が笑わないように気を付けないといけませんが。