H-IIBロケット3号機/こうのとり3号機 打上げ前Y-1ブリーフィング

ということで、今回もNVSさんの中継から勝手に起こさせて頂きました(USTミラー)。質疑応答の部分です。敬称とか色々略。

―明後日に迫った打ち上げに向けての意気込みを
宇治野:今まで培ってきたことの最終仕上げ 改良ポイントなどを確認できる場として着実に打ち上げていきたい。
小鑓:HTVは3号機から国産スラスタなどを積んでおりいわゆる運用機だが、HTVとしては開発の総仕上げ。その成功をもって本当の定常運用に入れる、ということで是非成功させたい。
川上:ロケット・HTV・それ以外という立場で言わせてもらうと、地上設備やロケット追尾する射場系、飛行安全系、地上の安全を司る保安系について、人・設備とも最高の状態。また天候の状態も問題ない。この状態を維持して是非きちっと打ち上げて成功させたい。


―宇治野さんへ、H-IIBは4号機から三菱重工に民間移管との予定だが3号機の打ち上げをどのように位置付けているか。それぞれの担当者に「こうのとり」とH-IIBの開発費を。
宇治野:事業計画としては民間移管していくと考えているが、まだ未定というか3号機の成果も踏まえて調整を図っていくという状態にある。一部で民間移管されることが決まったかのような報道もあるがそこは結果を踏まえて調整していく。
小鑓:(HTV)運用機は平均140億円。
宇治野:H-IIB開発費として試験機打ち上げまで271億円。機体製作費用以外にアビオニクスなど枯渇部品の再開発で50億円ほど(H-IIBプロジェクトとは違う位置付け)。今号機のロケット制作費用は民間移管で商業受注の話もあるので差し控えたい。


―宇治野さんへ。当初は打ち上げ時刻が11時18分だったと思うが11時06分へと10分あまり早まっているが要因は。
宇治野:どちらかというとHTV側から求められている。HTV側から説明を。
小鑓:ISSがちょうど種子島上空を通るタイミングが1日1回あり、その時に打ち上げる。18分と出したのが多分半年ほど前のISS軌道から割り出したもの。また昨日ISSがリブーストして軌道変更。機能の最新のISS軌道から計算して06分になった。


―小鑓さんに、i-Ballについて。REBRのほうは温度情報が機微な情報で開示不可ということだが、どういった点で機微なのか? i-Ballのメリット
小鑓:REBRはNASAのデータ収集装置。温度は設計情報に関わるキーの部分なので我々には開示されない。i-BallJAXAIHIの共同研究で進めているので全てのデータはJAXAに開示。REBRだと非常に高高度の加速度・角速度は我々は得られたが、一番欲しい下の方の加速度・角速度・温度データも取れる。リエントリしてHTVが破壊されるところの画像も上手くいけば撮れる。高高度の位置もGPSで取る計画。REBRより多くのデータが取れる。データ量が多いのでパラシュートで降ろしてから伝送する。


―再突入データは今回でほぼ得られると考えているか?
小鑓:NASAの例もあるように、沢山のデータを積み重ねて落下分散域の計算等に活かせるためには多くのデータが必要。まだ2回のデータなので今後も積み重ねていきたい。
宇治野:ロケットも同じように考えていて、i-Ballをロケットの2段目に搭載することも考えている。搭載場所を決めて搭載方法を考えているところ。HTVと違う材料のものがどう壊れていくかというのもこの分野の技術蓄積になる。


―宇治野さんへ。H-IIBは今回極低温点検省略やアビオニクス再開発などがあるがこれらは低コスト化や期間短縮などのメリットがあるか。
宇治野:H-IIAでは実際に極低温点検をやめており、H-IIBも同じ技術レベルに達していると判断。ひとつの低コスト化にはなる。アビオニクス再開発はものが手に入らないということと安定して何機分か確保した上で開発するということだが、ものづくりはものを作って試験するコストがほとんど。試験のコストに対して従来から変わったことはしていない。製造コストとしてゲインするところはあまりない。もともとH-IIA何機分か部品をまとめ買いして用意しておいた。部品が無くなるまで何機か作れた。そのストックが底をつく。流通在庫を含めてものが無くなっているので作れない。安定的に確保できる処置も含めて考えて再度開発している。共通的な部品を使うことでなるべく枯渇が起きないよう、部品枯渇で痛い目に遭わないよう、同じ轍は踏まないように色んな施策を取り入れている。H-IIA/Bのアビオニクスはほとんど共通。H-IIA用として用意したものが枯渇しており、H-IIBJAXAとしての打ち上げなのでJAXA開発のアビオニクスをなるべく集中的に搭載し、機器が変わっても全段システムとの整合性がとれていると確認できる。そのために我々は特別な試験を射場で実施したりしている。JAXAの打ち上げでなるべくまとめて打ち上げて実績を作ると共に確認も進める。なるべくH-IIに集約しているが既にH-IIAで飛んだ機器もある。間に合わなくてH-IIAで飛ばすしか無かった。なるべくまとめて確認する場。H-IIAにはここで確認されたものが適用されていく。
リアルタイムOSを初搭載とあるが
宇治野:JAXAで開発したリアルタイムOSを初搭載するということにはなるがそんなに大それたことではなく、CPUを変えるとOSをどうしようということで、JAXA内で高信頼のOSを開発していてそれを実際に適用する場となった。JAXAの他の衛星プロジェクトなどでどんどん使っていくことになるだろう。
―これらの変更点によりロケットの信頼性への影響は
宇治野:どの機器も従来の確立したやり方に従っており、信頼性に関して変わっているというものは無い。システムとしての最後の確認も同じように行っており、新しい機器で信頼性が下がるとは考えていない。


i-Ballと第2段の落下実験はHTV-Rや有人飛行に繋がるデータが得られると考えればいいか?
小鑓:将来的に回収しようとすると日本近海で行うのが一番リーズナブルだと思われるが、そうすると破片が落ちる領域をなるべく小さくしたい。それを推算する精度を上げるためにこのデータが使える。将来的な回収システムに活かせる。
宇治野:第2段の制御落下実験についてもi-Ballを積むことでどういう高度で最初の破壊がどう起こるかを捉えて温度や空力をどう受けるかを丹念に集めて、ロケットを落とした時にどういう範囲に分散するのか、どういう危険な面積があるのかを正確に求めていくことで安全に機体を処理できる技術に繋がる。有人・HTV-Rに先駆けて再突入の機会を維持してデータを取っていく。


―質問が被るが、将来のHTV-Rや有人に繋がっていくと思うが、それぞれ3号機打ち上げの意義を
宇治野:H-IIB3号機としては、2号機まででロケット単体としての性能は確立してきている。2回の打ち上げでいくつか検討するべき課題が出ているが、その対策をH-IIAに反映するなど実施してきた。3号機は再開発のアビオシステムを積んで全体システムとしての整合性をフライト検証する場となる。3号機の成功によってロケットの技術として確立したものになれば民間運用していける水準に達することになる。その点でひとつ重要な打ち上げ。
小鑓:HTVはご存じのとおり荷物を運ぶのが第一の仕事。その信頼度をどう上げるか。1号機・2号機を打ち上げてNASAから非常に信頼度を得ており、重要な機器をHTVで打ち上げて欲しい、他の機器だとちょっと心配、という話も聞いている。また国産機器のフライト実証。運用号機なのであまり無茶な冒険はできないが、今回は国産化したものを着実に実証して今後の運用に繋げていきたい。


―宇治野さんへ。先ほどの3号機の制作費だが2号機の時に1号機が147億円で2号機も同様という説明があった。今回も同様?
宇治野:その通り。


―総仕上げということで、H-IIBの開発を振り返って総括的な発言を頂きたい。1機当たり140〜150億円、米国では50億円という超低価格ロケットが出てきて世界のロケット開発の流れは今より低価格志向に。H-IIBについてはJAXA主導でやって来てあまりにハイスペックなもの、高価格なものになりすぎてしまったという考えはないか。
宇治野:海外ロケットとの比較という観点では為替レートの問題がまずあり、そこで既に倍半分の差が生じている。材料的に高騰があり、同じ材料を同じ作り方をしている限り、大きな変換を与えない限り価格自体はなかなか改善できない。海外のロケットは作り方を含めて製造業の構造を含めて変えた上でコスト低減しているところもある。そのようなアプローチは我々はまだできていない。
―色んな難しい状況があるのは承知しているが、H-IIAでは既にアリアン5と差があった。開発段階で海外ロケットとの価格面での差を考慮して設計開発されてきたのか。あまり念頭には無かったか。
―宇治野:H-IIBを開発していた時点ではまだコスト的には対抗できる状態にあり、実際我々が申し上げることではないが、MHIさんの方では市場性があったと理解されてたと思うし、JAXAMHIの共同開発は実現している。それなりの目処があり進めてきた中で海外ロケットについては為替に助けられているのと更に一歩先に行くようなことをしてコストダウンを図っている。主に欧米のロケットに関しては、ロシアのロケットなどは不要となったICBMを転用するような価格破壊があるので、それに対応するような革新的なやり方をしている。H-IIBを始めた頃にはそれなりの市場性があって進めている。


―物資の件で、小型衛星と放出機構はどのように梱包されているか。全部バラバラなのか放出機構に装填されているのか。また、星出さんがリクエストされた物資は。
小鑓:小型衛星は別々に梱包されている。軌道上で星出宇宙飛行士が取り出して分離機構に組み込みエアロックから放出する手順。
個人的な荷物はプライバシーのため公表できないことになっている。


―宇治野さんへ。今回もし打ち上げが延期になった場合、翌日の同じ時間帯に延びていく?
宇治野:ロケットに推進薬を充填した後の延期だと3日後。断熱材の点検等を行う。それ以前の延期だと1日ずらしも可能。他の制約に依存する。時刻についてはHTVから。
小鑓:種子島上空にISSが来るのは1日で24分早まるので、1日延期すると打ち上げ時刻は約24分早まる。
―小鑓さんへ。このタイミングでレイトアクセスを実施してみてその感じは。
小鑓:今回全部で60個のCTBというバッグを入れて、非常にスケジュール的にタイトだった。ロケット作業と干渉の無いように調整しないといけないので、なるべくならレイトアクセスはやりたくないがお客さんの要望を踏まえると我々は運搬屋であるのでなるべく要望に応えるということで今後もやっていきたいと思っている。


―宇治野さんへ。別の質問の確認だが、H-IIBでも今後コストダウンしていく余地はあるか?
宇治野:それは考えていて、1・2号機から合意の上でコストダウンしている項目はある。それは着実に積み上げてはいるがとても半額というレベルには達しない。
―具体的にここをコストダウンというのは
宇治野:主に作業を減らしたりという項目なのであまり大きくない。
―近い将来何%下がるとかは?
宇治野:社内である程度目標を設けているが、その半分しか合意できていない。目標とは1%レベル。


―今回夏休み直前ということで、島内の宿も満席の状況。子供連れも多いと思うので、打ち上げ見学者に宇治野さんに何か一言を。
宇治野:おそらく雲があると思うので、飛び上がって最初が肝心。そこを見逃さないように。上に行くとすぐ見えなくなると思う。
―快晴になることを願っています。


―小鑓さんへ。ドッキングの日程は延期した日数分そのままずれていくのか。
小鑓:今のところ(打ち上げ)1日遅れは(ドッキング)1日遅れると考えていい。
―2号機の時に種子島の水を積んでいたことが話題になったが、今回は
小鑓:今回はNASAから水を積んでくれという要求は無かった。飲み水としての水は積んでいない。レイトアクセスでメダカ用の水は積んでいる。これは飼育に使うため特別な処理をしたもので、種子島の水ではない。

NASA側からはかなり信頼されていますね。今回も無事それに応えられることを期待しています! 天気はやや微妙ですが、氷結層が出なければ打ち上げに支障は無さそうですね。今回かなりの見物客が集結していますし、いい打ち上げになればと思います。