M-V7号機打ち上げ関連・各紙社説

あまりネタを引っ張るつもりはなかったんですけど、各紙が一斉に社説を打ってきてちょっと驚いたのでさわりを纏めてみました。 

ロケット 必要なものに絞って [朝日]

新型ロケットの開発は、決して容易ではない。過去に失敗した例もある。GXの開発は難航しており、当初計画より5年遅れる見通しだ。宇宙開発委員会が計画を再評価することになっているが、開発中止も含めて見直す必要がある。
ロケット技術も大事だが、肝心なのは、衛星を使って宇宙空間を活用したり、科学観測をしたりすることだ。そのためにどんなロケットがどれだけあればよいか、納税者の視点で見極めなければならない。
長年の研究と開発経費をかけたM5ロケットの技術も、しっかり生かしてもらいたい。

【主張】最後のM5 固体ロケットの技術保て [産経]

ひのでを軌道に乗せたM5は、固体燃料を使うタイプとしては世界一の性能を持つ機種である。ペンシルロケットから出発した純国産ロケットだ。しかし、今回の7号機で最後となる。

M5廃止の背景には、同機で科学衛星を打ち上げてきた宇宙科学研究所宇宙開発事業団と統合され、宇宙航空研究開発機構JAXA)になった事情がある。事業団のH2Aロケットと比べて、M5は割高であったのだ。

JAXAはM5の後継で、小型の固体ロケットを開発するとしているが、実用性と信頼性の高さが必要だ。

小惑星イトカワに到達した「はやぶさ」など、科学衛星による宇宙研究は日本のお家芸である。ポストM5においても、その伝統は保持したい。

社説:M5ロケット 宇宙探査支える技術継承を [毎日]

だが、GXロケットの開発は難航しており、開発費が膨れ上がる恐れもある。コストがかかり過ぎた場合には、取りやめにならないとも限らない。

次期小型固体ロケットにも気がかりな点がある。かつて、M5の前身とH2Aの前身を組み合わせて開発したJ1ロケットは、コストがかさみ1回飛行しただけで中止になった。異なるロケットの一部を組み合わせるのは技術的に難しいとの指摘もある。

日本の科学探査は「はやぶさ」でもわかるように、世界のトップレベルにある。これを支えてきたロケット技術を継承し、さらに発展させることが重要だ。その背景として、国が日本の宇宙開発のビジョンをしっかり描いておくことも大切だ。

[最後のM5]「迷走するロケット開発政策」 [読売]

M5より小型のロケットを開発する計画だが、性能や打ち上げ方式などが決まらない。載せる衛星も未定だ。10年前にも、統合前の宇宙研と事業団が共同で固体燃料のJ1ロケットを開発したが、コスト高で頓挫した例がある。

別の計画として、液体燃料を使う中型衛星用「GXロケット」が官民共同で開発中だが、M5の後継ロケットと能力が重なる。役割分担をどうするか。GX開発自体も技術的に難航している。

M5の退役で当面、日本のロケットはH2Aだけになる。トラブルが起きれば日本の宇宙開発がすべて止まるリスクさえある。放っておけば、M5までの開発で培われた固体燃料技術も失われる。迷走している暇はない。

意外に熱が込められているのは「はやぶさ」効果でしょうか。 総じて技術継承と明確な発展性を求める意見になっているように読めます。 その点では良い傾向ですね。
日本の宇宙開発はかなり先鋭的な事もしているのに政治力不在で散発的、という印象があります。 そのためか未だに「最近打ち上げ失敗が多い」などという印象を持つ人も少なからずいるくらいですから*1、コンセンサスを得るのも一苦労でしょう。 現状の枠であれもこれもと負担を盛り込む予算配分にも疑問は多いですし、「今後10年独自の有人計画を持たない」という後ろ向きな目標を掲げるのにもうなだれます。 宇宙開発とは将来にわたるインフラであり、日本にはそれを率先して行なえるだけの技術水準があります。 それを活かすも殺すも政治力のなせる業でしょう。 軍需で信頼性が買えない以上、充分なテストや改良が必要であり、また現状の予算は決して充分とは言えません。
幸い、技術者さん達の不屈の努力によりH-IIAは10機の打ち上げを行ない初期成功率90%という優秀な成績で三菱重工に民間移管されました。 今後は営業を活発化していく方針だそうなので、官需を含めてより一層実績を積み重ねていくでしょう。 宇宙科学分野ではISASが「はやぶさ」をはじめ数々の素晴らしい成果を挙げ、更に意欲的な探査計画も持ち上がっています。 新小型ロケットやGXロケットが未だその姿を見せぬままM-Vが廃止されることは一抹の不安を覚えるというのが本音ですが、M-V主任の森田氏は惜しみつつも後続機開発に頭を切り替え『Mという名前を付けるに値する優れたロケットを是非とも作りたいと思う』と熱意を持って語っておられます。 この勢いが決して挫かれないよう、万全の態勢をもって臨んで欲しく思います。

*1:2005年2月からH-IIAM-Vで合計7機連続成功