機関誌JAXA’s 028号 [JAXA]

ということでH-IIBが表紙を飾り、当然特集が組まれています。インタビューはチーフエンジニアの遠藤氏。

第1段の直径が5・2mと太くなっていることも、設計上は未知の領域であることは確かなのですが、実は計算シミュレーションで
予測がしやすい部分です。機体の接合やドーム部分などに適用したFSW摩擦攪拌接合)といった新技術も、検査まで含めたコスト低減に大きく貢献してくれていますし、今回からバージョンアップしたアビオニクス系(誘導制御のための電子機器)は、今後のH-IIAシリーズにも流用できるようにしました。H-IIロケットの開発費は約2700億円、H-IIAが約1200億円でしたが、H-IIBではさまざまな工夫を重ね、非常に少ない費用で開発を完了しました。三菱重工業が負担した分を含めて、当初予定の200億円こそ上回ってしまいましたが、約270億円(JAXA分195億円、三菱重工業分75億円)。世界のロケット開発の相場からすれば「インクレディブル(信じがたい)というより、クレージー(あり得ない)」なものだったと思います。それが可能になったのも、H-II、H-IIAと続けてきた「継続の力」があったからです。

どうやらH-IIBからアビオが刷新され、H-IIAにも適用されていくようです。「クレージー」というのはH-IIの時から言われている台詞ですがw、逆を言えばそれは適正予算ではないという話なんですよね。しかしH-IIBはH-II・H-IIAで培った既存の技術とノウハウを組み合わせた物なので、これだけ短期間・低コストで開発することが出来たと。やはり経験は物を言います。

今回の成功で「有人輸送にも使える宇宙輸送系を手にした」という声もありますが、ちょっとそれは気が早すぎます。そのポテンシ
ャルがあるのは確かですが、潜在能力があることと実際に乗れることとはまったくちがいます。

日本がこれから有人ロケットをやるとするなら、テストを重ねデータを取って、判断の基準を導き出してという、コストも時間もかかる前世紀のやり方を取ることは、あり得ません。
クリティカルな判断を必要としないような、判断すべきことが同時多発しないような宇宙輸送のシステムをつくらなければなりません。そもそも人を乗せる前提で設計されていないH-IIA/Bの改良では済まない、まったく新しいチャレンジが必要になります。

遠藤氏は即有人化の声には慎重のようです。有人で打ち上げるためには信頼性水準の面で設計思想から見直す必要があるとの考え方。それはおそらくH-Xとして具現化することになるのでしょうか。