有人宇宙システムの構築に向けて (1)宇宙船概要 [宙の会]

ISTSとかでHTVの将来構想を発表しておられる中の人がHTV-hに関して連載するそうです。これは面白そう。

ソユーズ型のように軌道上居住モジュールを帰還カプセルの上に持ってくる案については、機体構成がシンプルになる反面、アボートシステムによって分離・離脱させるトータル重量が増すことが問題です。アボートシステムは我が国で開発した経験がなく、米国でも重量超過が課題になっている難しいシステムなので、極力負担を減らしたい所です。また、アボートシステムの推力は宇宙船の形態に最適化する必要があり、ソユーズ型では、一旦設計を固めてしまうと、将来軌道上居住モジュールを拡大する等の発展性がなくなります。加えて、アボートシステムによる10G程度の重力加速度や、アボート時の大きな音響環境に軌道上居住モジュールが耐える必要も生じるため、構造強度も余計に必要となってしまうこともソユーズ型のデメリットとなります。

他方、オライオンでは軌道上居住モジュールを持たず、再突入カプセルにその機能を統合しています。連結などがなく一見技術リスクが小さいように見えますが、再突入カプセルに開発リスクが集中し、開発途上で重量超過などが起きた場合、他のモジュールとの調整で吸収することができなくなります。また、発展性に乏しいことが大きな欠点です。最近のオライオンの利用方法として、同機を2機連結した拡張ミッションが提案されていますが、単体では発展性に乏しいことの裏返しと見ることができるかもしれません。

そこで、将来、打ち上げロケット能力の向上と歩調を合わせ、長期軌道上滞在などへの発展も考え、一番右側のコンフィギュレーションを選びました。この案はアポロ相似のモジュール組み合わせ順序ですが、ドッキング機構の代りにHTV曝露パレット機構を元にした軌道上転回機構によって方向を変えて、再結合する形態となっている事に特徴があります。

この形態では技術リスクとして軌道上転回機構の実現がありますが、HTVでの曝露パレットの機構をベースとして、開発が可能と考えており、次回で詳しくご報告します。一方、他の案よりも、アボートシステムの開発リスクを小さくできること、また、帰還モジュールに搭載しなければならない機能も最小化できるため、総合した技術リスクの最小化にもなる形態ではないかと思います。

また、この「エスケープシステム−帰還モジュール−サービスモジュール−軌道上居住モジュール」に分割した設計は、段階的な開発を実施する上でも有利に働きます。すなわち、サービスモジュール自体は現HTVの電気/推進モジュールの設計を踏襲でき、短期間で開発が可能であるため、開発の早期の段階で実現可能です。それに無人の帰還モジュール、エスケープシステムのみを段階的に組み合わせることにより、徐々に必要な技術を実証していくシナリオを描くことができます。

有人宇宙システムの構築に向けて (2)各モジュールの機能 [宙の会]

サービスモジュールを展開するための機構は新規開発となりますが、現在のHTVの「曝露パレット−非与圧キャリア」の機構系と相似する部分があるため、これを基にして開発が可能と考えています。

HTVの曝露パレットの機構系は、分離・スライド・引き込み・再固定といった機能を持ち、従来の宇宙船ではあまり見られなかったものですが、有人宇宙船で転回機構を採用した場合に、必要となる機構系に応用が可能です。

これまでに見たこともないようなあの構成案はこういう発想によるものだそうです。

スペースラジエータなどの能動的な放熱機器はHTVや「きぼう」では使用されていないため、基礎的なものから研究を開始しなければならず、開発が始まれば真っ先に手を付けたい分野です。

熱的なもの以外では、ハッチなどの気密構造、乗員とのインターフェース機器(操縦系統、画面など)、パラシュート系、耐熱スラスタなども新規に開発する事になります。有人宇宙船として基本的な所ですが、日本では経験がないため、海外の宇宙船、あるいは航空機なども大いに参考にしなければなりません。

熱制御については、HTVでは空気循環のみを担当し、清浄化と放熱については宇宙ステーション側に頼っていますので、有人宇宙船の居住モジュールではスペースラジエータを含む排熱システムが必要になると思います。清浄化についてはJAXA内で検討が進められており、要求が決まれば、完成に向けた開発を進めやすい状況にあると思います。ただ、その他の生活支援機器(トイレなど)については、あまり研究が進んでいるとは言えず、場合によっては海外品を搭載しなければいけないかもしれません。

大きな開発要素としては、これらを含めてあとアボートシステムなどがあるようです。