ISASニュース 2010年1月号(No.346) [ISAS/JAXA]

例えば,新しい固体ロケットの管制室は個人用のコンテナに収まるくらい小さなものにしよう(コンテナ管制)という当初の目標は,もはやノートパソコンを小脇に抱えるくらいコンパクトなものになろうとしています。世界でも初めての夢のような「モバイル管制」の登場です。それから,面倒なロケットの点検作業をこれからはロケット自身にやらせようという試み(自律点検)はさらに進化を遂げ,異常が見つかったときの原因究明までもロケットにやらせようとしています。まさにSFのような知能を持ったロケットの誕生です。加えて,もともと世界最軽量のM-Ⅴのモータケースをさらに軽量化,かつ製造プロセスも簡素化して,高性能と低コストの両立を図ろうとしています。このような,新しい固体ロケットのキーとなる研究テーマに対しては,小さいながらも試作試験などを行うことによって実現性の確認作業を進めています。こうした慎重な取り組みは「フロントローディング」と呼ばれていて,本格的開発の段階に入ったときに,手こずってコストの超過やスケジュールの遅延を招いたりすることのないようにするための大切なステップです。
さて,ありがたいことに,最近になってようやくJAXA内の審査に合格し,開発へ移行する準備が整ったとの判定が下りました。固体ロケットの未来に向かって大きな前進です。これから宇宙開発委員会での審査などがありますが,あともう少しでこの船も出港です。申し分のない航海となるでしょう。

次期固体ロケットの森田プロマネの話。動きが少ない中でも地道に前倒しで研究を行ないいよいよ開発が本格化するようです。期待。

はやぶさ」の地球帰還に向けて,引きちぎれそうな細い糸を今回は何とかつなぎ留めることができましたが,今後も多くの困難が予見されており,依然として予断を許さない状態です。

はやぶさ」プロジェクトのイオンエンジン担当國中先生。これまでは厳しい見方をする川口プロマネのバランスを取るようなポジティブ発言をされてこられましたが、その國中先生をしてこの言葉。

クロス運転とは,中和器故障のためすでに運転を中止したイオンエンジンBのうち作動可能なイオン源Bと,イオン源不調で待機状態にあったイオンエンジンAのうち中和器Aとを,バイパス回路を介して電気接続し,新たな一式のイオンエンジンとして動作させるものです。この回路構成は,「こんなこともあろうか」と打上げ前にあらかじめ組み込んであったものです。

つ、ついに中の人も「こんなこともあろうかと」認定しましたww

この運転方式がマイクロ波放電式イオンエンジンの宇宙作動にて実現可能かどうかは未検証でした。電気推進技術として大変興味深く,技術者としてかねてより宇宙実験したいと思っていましたが,図らずも「はやぶさ」ミッション存亡にかかわる重要案件となってしまい,挑戦の機会が与えられ,幸運にも成功することができました。
マイクロ波放電式イオンエンジンが宇宙において1万時間(連続作動にて約1年2 ヶ月)運転できているということは,電気推進技術としてある一定の完成の域にあると信じています。しかし深宇宙探査においてはさらなる寿命が要求されており,それに対応するにはまだまだ技術的に未熟であることが明らかとなりました。さらなる技術向上に努力しなければならないことを痛感しています。

かなりイレギュラーな運用もありましたが、逆に見ればまだまだ発展・応用の素地があるということで、「はやぶさ」による電気推進実証は大きな成果をもたらしてくれていると思います。やはり中和器周りの劣化がネックになっているようなので当面はその辺の改良にも期待したいですね。