誰も知らない「本当のはやぶさの奇跡」 [日経ビジネス]

ヒートシールドを担当した森田さん。

 森田 ええ、私がカプセルの外側の耐熱部分(ヒートシールド)の開発を担当したものですから。中には火薬が残っているかもしれないし、危険もあったからです。

 それにしても、カプセルの回収ができて本当に良かった。実は米航空宇宙局(NASA)の関係者も豪州には撮影のために来ていました。失敗すると思っていました。失敗の映像を撮影しようとしていたのです。NASAだけでなく、多くの専門家がカプセルの回収は難しいというように見ていました。

 ―― それはなぜでしょうか。

 なぜならば、カプセルの中にあった火薬の問題なのです。はやぶさのカプセルは大気圏内にものすごいスピードで再突入します。地上から高度10キロメートルぐらいになると、加速度計でその位置を知り、火薬が爆発します。その結果、パラシュートが開く仕組みです。ですが、その火薬が劣化していたら、パラシュートが開かないのです。はやぶさは、7年という長い宇宙飛行でした。

 私が豪州の砂漠でパラシュートを開いた後、カプセル本体からの電波がキャッチされました。その時は感動しましたね。宇宙空間は極低温です。零下200度ぐらいになっていたでしょう。火薬は零下20度ぐらいで劣化します。

海外の専門家はカプセルを無事回収するのは難しいと踏んでいたようです。はやぶさチームも機器の劣化を心配してましたし、それだけにあれだけ正常に事が運んだのは皆して凄い驚きだったでしょうねw

 ―― はやぶさのカプセル回収についての収穫は何でしょうか。

 細かくは言えませんが、実は今回のはやぶさの再突入ではヒートシールドが最初の想定よりも燃えていません。これは非常に重要なことです。次回からの惑星探査機のヒートシールドはかなり薄くできるのです。はやぶさでは地表サンプルの回収する部分がコップぐらいの大きさでしたが、次ではもっと大きくしたり、3カ所ぐらい違う場所で採集ができたりするかもしれません。今回得られた耐熱素材の知識は非常に大きなものです。

機密ww とりあえずヒートシールドは想定以上の性能を発揮したので、次回からはシールドを軽量化して搭載物に割くスペースを増やせるようです。

 ―― 最先端の耐熱材料技術は航空や防衛など幅広い分野で使われる可能性がありますね。

 はっきり言えば、耐熱材料は長距離ミサイルで重要な技術になります。はやぶさで示すことができた耐熱材料技術は世界を驚かせているのではないでしょうか。

 簡単に言いますと、米国からアジアに長距離のミサイルを撃つ場合、大気圏外に飛び出して、再突入してきます。そこでは、ミサイルの表面積1平方メートル当たり190メガワット(MW)の熱に耐える必要があるのです。つまり、1平方メートル当たり100Wの電球が190万本照射されていることを意味します。とてつもない熱です。それができるところが、米国の防衛技術が圧倒的に進んでいるところなのです。スペースシャトルでは同2〜3MWぐらいでしょうか。問題は耐熱性を実現するために、いかに材料を軽くできるのか。その技術では米国が突出しているのです。

 前置きが長くなりましたが、実ははやぶさヒートシールドはだいたい1平方メートル当たり17MWぐらいです。これは米国を除けば、世界の先頭を走るレベルだと思います。

かなりぶっちゃけた話になってますがw、相当自信を深めたようです。深宇宙からピンポイントで誘導したのも大きいですね。


そしてペネトレーターの話も。

 ペネトレーターで難しいところはまず、衝撃に耐えられる強度です。最も外側にあるのはCFRPです。ただ、内部で電子機器などを保護するのはエポキシなどを使った高分子材料です。CFRPと高分子材料の膨張係数が違う。月の表面では昼は200度、夜は零下200度のような世界ですが、月の内部はだいたい零下20度ぐらいで安定しています。ただ、この零下20度で言えば、CFRPがあまり収縮しないのですが、内部の高分子材料が大きく縮みます。そうすると、振動センサーなどの電子機器が壊れてしまう。

 ただ、今年5月には零下30度での低温試験をやりました。それで、内部が割れない高分子材料もメドがたちました。米国で衝撃試験をクリアできれば、ほぼ実用化に近い段階と言えるでしょう。日本の技術はロシアなど他国からも注目されています。ペネトレーターは月だけでなく、火星や木星とかの資源探査などに利用できますから。

現在も試験が行なわれているそうです。どうやら低温に耐える高分子材料を開発していたようですが、ほぼ目処が立ったようです。