届け、あかつきの星へ 第2話 平面アンテナが金星と地球を結ぶ [NEC]

「あかつき」に搭載された平面アンテナの話。もともと「のぞみ」の時に炭素繊維の織り方を工夫して従来の半分以下の重量にまで軽量化したそうですが、それは「はやぶさ」「かぐや」にも使われたらしい。

松浦:
その平面アンテナですが、具体的にどんなもので、どういう原理で動作するのでしょうか。写真を見ると金属面に、への字型の切り込みが無数に配置されているように見えますが。

尼野:
「ラジアルライン給電スロットアレイアンテナ」(RLSA)といいます。電波の放射面を見ると、への字型の切り込み(スロットと呼ばれる)が螺旋状に切ってあります。これらの切り込みすべてから同じ振幅、同じ位相で電波を放射します。そうなるようにコンピュータで大きさや配置を決めていく、この解析の技術とソフトウエアが設計上のノウハウということになります。

このスロットは一つ一つ長さや位置が違うらしい。うへえ…
あと構造がシンプルになった分配電部のエネルギー損失が減って効率が上がっているらしい。

松浦:
重量も軽くなったのではないですか。

尼野:
アンテナ本体の重量は1kgまで軽くなりました。ただしこのアンテナはパラボラと違って、異なる周波数の電波で共用できません。だから送信用と受信用でアンテナが2つ必要で、合計2kg。アンテナ部分に太陽光が当たって機体に熱が入り込まないようにするためのおおいを付けました。おおいはレドーム※4といいますが、これが2kg。合計4kgですね。「はやぶさ」では、7kgだったのが、「あかつき」では4kgになったわけです。

松浦:
ああ、衛星でもレドームというのですか。航空機でよく使う言葉ですよね。レーダーを覆うドームで、縮めてレドーム…でもドームには見えませんね(笑い)

尼野:
そうそう、平面アンテナですからドーム型ではなくて平面ですけどね。これも難物で、最初は重くなるレドームを使わずに、アンテナに太陽光を反射する白色塗料を塗ろうとしたんです。ところが、塗料に使う有機系塗料は、太陽光が強い金星軌道あたりでは変質して黒ずんできちゃう。

松浦:
黒くなったら熱が入って来ちゃいますね。

尼野:
そうです。ですから、変質しにくい塗料を使ったんだけど、2200本もあるスロットを塗ったのに、試験をしてみると性能が出なくて、結局レドームをつけることになりました。そういった試行錯誤は開発には多いんですよ。

塗料を塗ることで設計した特性が微妙に変わっちゃったんでしょうか?