数々の失敗を乗り越えた国産ロケット [Voice]

これはなかなかの良記事。

 種子島は欧米の発射基地と比べて狭い。これにより生じる危険を回避するため、H-2はかなりの小型・軽量化をせざるをえなかった。それにともない小型・稠密化を図った第一段エンジン(LE7)は、日本にとって実績はわずかだが高推力を出せる液体酸素、液体水素の燃料を使った二段燃焼サイクルの、野心的で背伸びしたコンセプトを選択した。このためLE7はデリケートで扱いが難しく、トラブルを重ねて成熟させるのに時間を費やしたのである。

 そんな現場の内情を少しは知っていたので、初回の打ち上げに成功したとはいえ、まだまだ「試作品」の段階に等しいことを強く指摘した。この成功に驕ることがないようにとの思いを込めて。ところが、打ち上げ成功に水を差すこの原稿に対して、宇宙開発事業団NASDA)の幹部からクレームがついた。編集部(私を含む)とのあいだで何度か批判、反批判の応酬があったことを思い出す。

 その後のNASDAは、N-1ロケットから数えてH-2の4号機まで、「連続29回の打ち上げをことごとく成功させた」として、その信頼性の高さを強調した。「信頼性は抜群」といった自信過剰の発言も飛び出すようになった。“成功神話”がいつの間にか独り歩きしはじめていた。

そこでH-IIの連続失敗が起こるんですよね。

 この間、請われてJR東日本会長の山之内秀一郎が、NASDAの改革と立て直しの使命を担うべく理事長に就任していた。マスコミによるH-2批判が最高潮に達していたそんな時期に、率直な発言で知られる山之内理事長にインタビューしたことを思い出す。

 インタビューの取っつき、山之内理事長はとりつく島がないほど激昂していた。「マスコミは、リスクがきわめて高いロケット打ち上げの失敗を許容しない」。その一方で、「打ち上げの『スケジュール優先』を主張する周囲の反対を押し切り、トップダウンで、『打ち上げのスケジュールを後にずらしても、H-2Aの基本的な要素であるポンプの設計変更を行なうべきだ』と押し込んだ」と、「半年延期する」英断を下していたことも語った。そこから垣間みえたものは、明らかに、米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトル打ち上げ失敗後の調査レポートでも指摘されていた官僚化の表われといえた。4年後にも、H-2Aの6号機が打ち上げに失敗した。

 ロケット先進国の欧米の例と、H-2およびH-2Aとを見比べるとき、合計10機程度の打ち上げ実績しかない当時は、まさしく「試作段階」でしかなかったのである。冷静に振り返ってみるとき、マスコミもNASDAも、見方がいささかせっかちで近視眼的であった。ともに善し悪しの判断を決め急いだ感は拭えない。

H-IIに至っては初の純国産液体大型ロケットでしたから、実績はほぼ無いと言っていい段階でしたが、N-I〜H-IまでとH-II5機の連続成功をNASDA自身がひっくるめちゃったんですね。当時の空気は知りませんが、その分手の平返しが凄まじかったようです。「判断を決め急いだ感」は上手い表現に思えます。ポンプの設計変更とはLE-7Aのターボポンプのことでしょうか。

「今回のH-2Bの打ち上げ成功で、H-2Aから数えて95%の成功率となり、対外的に高い評価が得られるようになってきました。でも、打ち上げの回数からすれば欧米諸国と比べてひと桁少なくて、まだまだH-2シリーズは初期段階ということです」

 最近のマスコミはJAXAを持ち上げる論調が目立ってきた。だが、何度も苦汁を味わってきた遠藤はそんな見方に安易に乗ることなく、至って醒めた口調で語った。

「何か派手な隠し球の策があったわけではなく、地味な努力と改善の積み上げが、いまの高い信頼性につながっている。失敗したH-2A6号機の原因は、本質的にはもともと内在していた問題で、われわれがそこまで掘り下げて十分に問題を認識できていなかった。リスクをリスクとして認識していなかったところが問題でした」

「事前に各社から意見を吸い上げて、(秘密主義を取っ払うなどの)各社が納得できるいろいろな取り決めを行なったが、それがうまくいった。H-2Aの技術はかなり成熟してきて、運用面ではわりと安心してみていられるレベルまで達してきたかと思う。でも、この状態は、ものすごく努力をしないと維持できない。そのことを各界に訴えてはいるが、なかなかストレートには理解されていない」

結局のところは地道に数をこなしつつ信頼性を上げるのが基本的に一番大事なんですよね。

 それは、従来のロケットの噴射で達した軌道でいったん静止させて、周回軌道のもっとも遠い距離の地点に来たときに、再度噴射させてから衛星を切り離して静止軌道に送り込む。それにより燃料消費を少なくして衛星の寿命も延ばす。しかも打ち上げる衛星のトン数も5割ほど増やすことができる。「これならば競争力が出てくる」と遠藤は自信のほどを示す。「これは予算がついておらず、プロジェクト化はできていないが、今年の宇宙開発の基本計画の見直しに際しては、産業基盤の強化も含めてまずやらなくてはならない。90億円ほどで実現でき、すでに研究開発の基本的な種々の技術実験は行なっている」と強調する。

 だがこうした高機能化の改良をするにしても、「H-2シリーズは基本計画からほぼ30年がたち、ロケットとして陳腐化してきている。その一方で、需要の多い中型クラスの次世代衛星を効率的に打ち上げられるシステムが必要になってきている」と力説する。

 そこで浮上してくるのが次世代ロケットである。「“H-3”といった呼び方をする向きもあるが、われわれは“H-2Aの発展型”と呼んでいる。すでに三菱重工などとともに研究を進めているが、基本コンセプトはきちっと決まってはいない」。遠藤やその他の情報からすると、H-2シリーズのような2段ロケットではなくて3段式である。

「このロケットの1段エンジンはすでに先行して研究を進めている。H-2Aの2段に使っている、日本が独自に開発したLE5Bの方式を採用しており、(それを3基ほど束ねることで)その推力を10倍くらいにまで高める。デリケートで扱いが難しいH-2AのLE7Aと違って、本質的に安全で使い勝手もよい」

次期基幹ロケットについても。