ISASメールマガジン 第352号 【 発行日− 11.06.21 】 [ISAS/JAXA]
私がJAXAで、このソーラーセイル計画に関わったのはまったくの偶然でした。
14年前、大学生の時、宇宙工学をかじり始めた私は、大面積の膜面に薄い太陽電池をいっぱいに貼って、冥王星を探査する宇宙船の実現性について研究していました。
実験もしました。いろんな膜面材料を集めてきて、屋外でヒモに吊るした膜面をモーターで回転させ、遠心力で展開させる実験をしましたが、なかなかうまくいかない。薄膜電池を膜面に貼って発電させるのも、意外と難しいことでした。ほどなく、小さな人工衛星として仕立てあげるには難しすぎる、ということでこの計画は諦めてしまいました。
その後、私はJAXAに就職しました。
全く新しい仕事が待っていると思っていたところ、携わることになったのは「ソーラー電力セイル」計画。見ると、直径50mの薄膜太陽電池を遠心力展開することで、木星を探査するのだという。ちょっとした安心を覚えました。
一学生が考えた冥王星探査のアイディアがそれほどひどいアイディアではない。とても似たアイディアを、ずっと深い思考レベルで、プロの研究者たちが研究していたのですから。
私として嬉しいのは、14年前の学生時代から積み上げてきた実験や研究による知見がこのIKAROSにすべて詰まっていること。
大成功。
2010年6月9日、IKAROSの10m級セイルはきれいに展開しました。私にとっては、13年育てた花が、ついに大輪を咲かせた瞬間でした。それが、SFの領分でしかなったソーラーセイルという技術の実現性を、日本が世界に対して拓いたことと重なったことが、望外の幸せです。
後の津田さんである。