三菱重工技報 第48巻 第4号 航空宇宙特集 [三菱重工]

色々上がっています。その中でいくつか。

H-IIBロケット第2段による制御落下実験の成功

脱計画として下記2案を候補としてトレードオフを行った(図2).
【案A】 HTV 分離後速やかに軌道離脱燃焼を行い,南太平洋に落下させる案
【案B】 HTV 分離後,軌道を1周回し,種子島局可視範囲内で軌道離脱燃焼を行い,南太平洋に落下させる案
案Aは赤道上空付近でHTV を分離した後,南太平洋に落下させるため,軌道離脱燃焼の際に大きな減速が必要となる.このため打上能力低下が大きくなることから不採用となった.案Bは種子島局上空で軌道離脱を行うことから,減速量は案Aの1/6 程度で済み,打上能力の制約を満足する見込みがあること,既存の地上局が利用できる点からも有利であるため案Bをベースラインとして開発を行った.

案Bでは減速量は50m/s程度なのだそうです。んで減速量が小さいため通常の燃焼では過大になることからアイドルモード燃焼を採用したと。

宇宙利用のライフサイエンス分野における新たな展開

H-IIA ロケットを利用した生物実験システムは,小動物(マウス)の打上げから地上帰還までの実験環境を提供するため,輸送インフラとなるバス部と小動物実験のインフラとなるミッション部で構成される.特にミッション部は,環境制御・生命維持機能,汎用的な実験機能の各系統を有する(図2).

H-IIAピギーバックで打ち上げるマウスの回収ミッションについても。

宇宙ステーション補給機(HTV)の安全設計

(a) 推力発生
推進系は大きな軌道変換やISS からの退避に用いるメインスラスタ4基及び並進/回転制御に用いるRCS スラスタ28 基(主系14 基/従系14 基)及から構成され,1FO/2FS となるように遮断弁/調圧弁が配置され,最大約2.4 トンの推薬(MON3/MMH)を搭載可能である.
ISS に接近する際には,RCS スラスタ主/従系により1FO を満たし,両系とも故障した場合にはメインスラスタの作動にてISS から退避し2FS を満たす.再突入時のマヌーバではメインスラスタ2基作動とし,故障発生時には残りの2基に切替えてマヌーバを継続することが可能である.

(7) 構造系
HTV 構造系は,地上作業,打上げ,単独飛行及びISS 結合時の荷重に対しミニマムリスク設計により強度/剛性を確保している.また,HTV はISS に結合中はISS の一部になるため,軌道上の宇宙塵デブリ)の衝突からHTV を防御するためのデブリバンパーを搭載した.

(a) 搭載推薬量
搭載推薬量は,ISS 軌道高度,ISS に接近する軌道,運用時間,スラスタ運用,機体質量及び外乱により算出される.また,1FO/2FS の要求を満足するため,ISS への接近の再試行分やISS から退避する推薬を余分に搭載する.なお,実運用では補給物資搭載後の打上げ質量に余裕がある場合は運用のフレキシビリティを高めるために余剰推薬を搭載する.
(b) 一次電池搭載数
一次電池太陽電池により発生される電力のみでは不足するフェーズの電力供給に使用される.太陽電池の発電量はHTV 機体姿勢と太陽方向,消費電力は搭載機器の消費電力とヒータ電力により決まるため,標準的な飛行計画(ISS への接近の再試行分やISS から退避分含む)を策定し,最悪の環境条件(太陽方向と温度環境)での電力不足分及び電力系機器故障の影響を評価し必要台数を算出し,1FO/2FS の要求を満足する最小限の台数とした(HTV1 はデモフライト分を含め11 台,HTV2 以降では7台).設計上の最悪条件での成立性を図っているため,実運用時には一次電池の電力量があまるという状況となっている.

やはり非常に堅牢な構成になっていますよね。

LE-Xエンジン開発へ向けた取り組み

副燃焼室でタービン駆動ガスを発生させる方式では,酸化剤と燃料の流量比(混合比)を制御してタービン駆動ガス温度をコントロールしており,制御安全型のサイクルといえる.つまり,制御している混合比がバルブの不調など何らかの異常で変化してしまうと,タービン駆動ガス温度は最高3 500K 程度に達することとなり,カタストロフィックな破壊に至る可能性がある.これに対して,エキスパンダーサイクルでは燃焼室を冷却したガスをタービン駆動ガスとして利用しており,燃焼室の混合比が変化してもタービンガス温度に与える影響は小さく,本質安全なエンジンサイクルといえる(図3).

副燃焼室でタービン駆動ガスを発生させる方式では,エンジンの推力を副燃焼室のパワーでコントロールしており,副燃焼室の燃焼ガス流量を増加させることで比較的容易に大推力化することが可能である.また,エキスパンダーブリードサイクルでも燃焼室を大型化し,タービン駆動に必要な吸熱量を得ることにより,200ton 程度の大推力化に対応できることがこれまでの検討で示されている.一方,フルエキスパンダーサイクルでは,タービン駆動ガスを燃焼室へ戻していることからポンプ吐出圧力が増加し,タービン駆動に必要な吸熱量を得るための燃焼室が非常に大型となり現実的でないものとなる.

エキスパンダーブリードサイクルによる大推力エンジンを成立させるにはエンジンパワーを決定するターボポンプのパワーの確保が重要な課題となる.このため,LE-X エンジンの成立性のkey 技術となるのが,
・ タービン駆動ガスを高温化するために燃焼器の吸熱技術・製造技術(大型化)
・ 水素ターボポンプのタービンの高性能化
であり,現在,上記2コンポーネントの研究を中心として研究開発を進めている.JAXA 主導の下,当社は燃焼器を,IHI(株)は水素ターボポンプを担当している.
燃焼器の計画を図9に示す.この開発では,3.3.1 項の高信頼性設計への取り組みを適用するとともに,新たな製造技術も取り込み,信頼性向上とコスト低減の目処付けを行う.

従来,燃焼そのものに関わる評価は経験や実験,あるいは実機の燃焼試験結果に負うところが大きかったが,LE-X では当社及びJAXA が開発した種々の解析技術(図10)をエンジン設計に適用することで,短期間かつトラブルの少ない開発を目指している.現在までに,燃焼器の設計はほぼ完了し,製造のための素材手配,治工具設計を開始しようとしている段階である.

なんか既に推力が147tとなってるんですがw 完成すれば非常に信頼性の高いエンジンになりそうで期待。