ドラゴン宇宙船とHTV「こうのとり」比較

でちょくちょく検索されてるようなので、NASAのファクトシートなどを参考に簡単な比較を。


重量

  ドラゴン  HTV
機体重量(物資除く)  4.2t  10.5t
ISSへの輸送能力  最大3.31t  最大6.0t
与圧部  最大3.31t  最大5.2t
非与圧部  最大3.31t(拡張トランク仕様) 最大1.5t(曝露パレット搭載)
ISSからの回収能力 1.5t

ドラゴンとHTVは共に与圧部と暴露部を有していて、ドラゴンの無人版はドッキング部の規格がHTVと同じCBMなので1.2mx1.2mのハッチを通すことができます。またドラゴンは帰還能力もあるので2.5tの与圧物資を持ち帰ることができます。ちなみに一口に物資と言っても物によって容積に対する質量の違いなどがありますので、いずれもスペック表の数値通りの質量を積めるとは限りません。またHTVの曝露パレットは様々な規格に対応した「おぼん」のようなもので、取り回しや柔軟性に優れています。
スペースシャトル引退後はソユーズ宇宙船のみが回収機能を有しており約60kgを回収可能でしたが、ドラゴン宇宙船はISSから最大1.5tの与圧物資を回収することができます。実験試料はもとより、故障した機器を持ち帰って調査することが可能になるなど利便性がかなり向上しますね。HTVに回収機能はありませんがISSの廃棄物を大気圏再突入時に燃焼廃棄するという重要な役目を担っています。HTV2号機では2.8tの廃棄物を燃焼廃棄しました。また現在HTVは回収機能を付加したHTV-Rを開発中(ただしなかなかまとまった予算が付かず)。
しかし考えてみるともし回収機ばかりになると廃棄物処分どうするんでしょう。搭載容量は減りますし、ゴミばかり回収するのもアレですし。

打ち上げ費用

  ドラゴン HTV
推定額 16億ドル/12回=1.33億ドル(105.6億円) 110億円(H-IIB)+140億円(HTV)=250億円
物資1tあたり 1.33億ドル/3.31t=0.4億ドル(31.9億円) 250億円/6t=41.6億円

2012年5月28日現在の1ドル79.4円換算。そのへんはいわば時価ですがw、コスパとしては共に高い水準だと思います。ATVとかもっとお値段しますしね。

ただしドラゴン宇宙船は3号機までの打ち上げで搭載された物資はそれぞれ0.5tほどにとどまっています。


ちなみにドラゴンは12回の打ち上げで最低20tの輸送を16億ドルで請け負っていますので、単純計算で1回あたりの輸送量は平均1.66tとなり、これを当てはめると1tあたり63.6億円。HTVの運用機は1機140億を下回る見込みとされ、またH-IIBの価格は民間移管を念頭に非公開となっていますが2号機までは147億円で、3号機からは140億円にコストダウンされると報じられています。運用機の目標は1機110億円。H-IIBの価格を現状の140億円で計算すると1tあたり46.6億円となります。これらを踏まえると以下のようになります。

  ドラゴン HTV
推定額 16億ドル/12回=1.33億ドル(105.6億円) 140億円(H-IIB)+140億円(HTV)=280億円
物資1tあたり 1.33億ドル/1.66t=0.8億ドル(63.6億円) 280億円/6t=46.6億円


円高でこれです。現状のISS輸送業務としてはHTVのコスパは抜きん出ていると言えますね。


あと上記はどちらともISS最大輸送能力で割っていますが、物資によっては軽くても容積がかさばるものもありますので必ずしも上限まで搭載可能というわけではありません。あくまでカタログスペックであります。ただしHTVはそのカタログスペックの9割ほど(4号機:5.4t)まで搭載した実績があるので、かなり余裕を持った設計ではないでしょうかね。
また単純に往路の輸送能力でいうと現状HTVの方がコスパは高いと言えそうですが、ドラゴンには復路の回収能力という付加価値もありますので双方にアドバンテージがあります。今後はATVが2014年予定の5号機でISS輸送を終了しますので、その分をドラゴンやHTV、プログレスの増発でカバーする可能性がありますね。実際にドラゴンやHTVはオプションで打ち上げ追加を検討しています。

ドッキング方式

共にキャプチャー&バーシング(把持・結合)方式。ISS下方10m付近で相対停止しカナダアーム2で掴み、ハーモニーモジュールに結合します。これは日本がISSへの輸送義務を遂行するにあたって発案したオリジナルの方式ですが、提案当初は(安全性が無人規準ということもあり)NASA側からかなり難色を示されたというのは有名な話。ただしそこからNASAの要求する膨大な有人の安全基準を着実にクリアしていくことでHTVの実現にこぎ着けました。また、この方式はISS側からのアーム操作による把持が前提となっているので、そのカナダアーム2を開発したカナダの技術も非常に重要と言えますね。そしてこれらのノウハウを活用してドラゴンはスムーズな実現を果たせたわけです。また、同じく商業輸送を目指すOSC社のシグナスにはHTVの近傍通信システムが導入されています。


ちなみにアメリカ側モジュールのCBM(共通結合機構)は前述の通り径が1.2mx1.2mの四角で大型物資を搬入できますが、自動ドッキングに対応していない規格のためアームで押し付けた状態でボルトで結合する作業が発生します。ドラゴン有人版はスペースシャトルと同じくPMA-2などアントロジナスドッキング機構を用いると思われますが、こちらは径が狭くなります。ロシア側モジュールのドッキングポートは自動ドッキングに対応していますが、こちらも同様に径が80cmの円形と狭くなります。