国際宇宙ステーションから放出する小型衛星の報道公開 2012.06.25

今回もNVS様がニコ生中継されていました。結構面白い内容だったのでまた勝手に文字起こし…しようと思ったら思ってたより結構大変な分量だった(;´Д`)


RAIKO

和歌山大学 秋山教授:
 和歌山大東北大の連合衛星という事になっているが、正確には和歌山大を中心とした6大学機関のUNIFORMプロジェクトという文科省超小型衛星開発プロジェクトの一環として実施。
 先日宇宙関連の新たな法案が通ったが、今後色んな産業化を進めていくという時に我々としては小型衛星を使った産業を作りたいと思っている。ところがみんながみんなユニークな衛星ばかり作っていて、お金がかかって仕方が無い。それを標準化して世界中に使ってもらおうと考えているのがUNIFORM。日本が標準的なバスや技術を提供して世界各国と協力して時間分解能の高い地球観測網を作ろうというのが目的。
 いくつか問題、ひとつは打ち上げ手段がまだまだ小型衛星といえど高い。もうひとつは、とはいえいろんなユニークな実験をして新しい技術開発をしなければいけない。打ち上げ手段はまだあまり解決していない。今回ISSから放出される衛星、ものすごく安くて振動条件などが緩い、非常に良いことだが、大きさの問題というより、やはりISSからの軌道になってしまうので、我々が800km、1200kmと飛ばしたいと思った時にちょっと及ばないかなと。ただし我々としては今後、HTVそのものはISSから放出された時にまだ燃料を持っているので、今回の経験を踏まえながら、ISSから離れたところでHTVから出すとか色んなオプションは考えて欲しいなと。ちょっとまだ先の話。
 我々がRAIKOでやりたかったことというのは、標準的なバスを作るというのにも様々な技術開発が必要。そのためには格安の実験方法やたくさんの機会が必要と思っている。RAIKOは我々UNIFORMに必要な地球への帰還を早める機構について実験を行いたいと思っている。JAXA&6つくらいの大学でいっしょにやっているが、今回のRAIKOの製造に関してはすべて東北大でやっていただいて、阪本先生、うしろにいる学生の皆さんに一生懸命作って頂いた。


東北大学 阪本助教
 RAIKOの仕様について。50kg級からスピンオフした2.6kgのハイスペック2Uサイズのキューブサット。我々東北大学で50kg級衛星を作っている。雷神2、ALOS-2の相乗り衛星として開発。これまで50kg級で培った技術で今回この小さな衛星でどこまで転用出来るかというのに挑戦したのが今回の衛星のコンセプト。衛星の主な機能、撮像して地上にDLするのがメインの機能。3台のカメラ、ISS・地上・星を撮像。それぞれ微妙に特徴、1つはカラーの広角のCMOS、視野角がだいたい90度、放出される時に宇宙ステーションの方を見る。衛星放出から30分以内にISSの画像を46枚撮像するタイマーのシーケンスを仕込んでいる。これが成功すると地上局から観測が始まった時にまず46枚の画像をDLして撮れているか見て運用がスタートする。他には140度くらいの広角のカラーの魚眼CCDを搭載。もう1つモノクロCCD、スターセンサーとしての用途。このように50kg級に入る機能に近付けていこうと。タイマーコマンドを地上から送り任意の時刻で全てのコマンドを実行できる機能を持っている。日本上空を通過する時に限らずどこにいても撮像出来る。もう1つ、キューブサットとしては異例だと思うが高速データ通信機能をいくつか持っている。通常は38.4Kbps、おそらく普通のUHFアマチュア無線の4倍くらいの速度。最高では500Kbpsまで通信することが出来る。通常は2.2GHzの送信機を使う。これもおそらく普通のキューブサットは430MHz。高速データ通信実験に13GHz帯の送信機を搭載。3つめ、1辺50cmの膜を展開して高度300kmからの急速軌道降下実験を運用の一番最後に。普通300kmくらいに到達すると1か月半くらいで緩やかに降りてくるが、膜を展開することで5日間くらいであっという間に落ちてくる。膜を開いた時点で通信出来なくなるが、その後の軌道の軌跡で5日くらいで落ちてくれば「膜が開いたんだな」と。他の50kg級衛星などにこの膜のシステムを使うことが出来る。今後の50kg級衛星に向けた13GHz帯送信機、膜展開機構、今後の将来の衛星を見据えて事前に技術確認をする目的。
 今日JAXAに引き渡して衛星そのものの開発は一旦区切りだが衛星が上がった後にどのような観測をするかということが重要。我々の仕事は運用開始まで2か月いろいろ残っている。地上局の体制を整備。東北大に口径2.4mのパラボラの受信設備、これがメイン局。鹿児島大の口径1.4mの受信局とこの2つの地上局でそれぞれコマンド送信とデータ受信が出来る。実はコマンドとデータで周波数が全く違う。東北大と鹿児島大それぞれで上りも下りも別々の回線で通信するところが面白い。
 福井工業大が持っている10m級の非常に大きなパラボラ、あともう1つは和歌山大に口径3m、和歌山大は2つ持っていて大きい方は今回の衛星に対応しないが3mの方でデータを受信する。データ受信専用局。
 作ってる最中だが可搬型小型ビーコン受信システム、13GHz帯のビーコン波、ずっとデータが入っているわけではなくトンツートンツーで電波が出続ける。可搬型のシステムを使い海外に持って行き、具体的にはインドネシア・ドイツ・アメリカ・ベトナムを予定している。私自身が手荷物で受信システムを持って行きセットアップして受信を試みる。これをすることで将来的にキューブサットの軌道の決定を
 することが出来るということに向けた基礎実験。
 この衛星は実際の現場としては私と学生3人でほぼ100%の時間で作ってきた。私自身は搭載ソフトウェアと地上局の運用のソフトウェア。他の3人はそれぞれ構造、基板、もう1人は諸々の細かいテストをしてもらった。一番最初は私自身がコンセプトを描いてそれを再現してもらおうかと思ったが、ただ学生が彼らの技術でどこまでできるかというところにギャップがあってはいけないので、悪く言えば丸投げ、かなりの面で彼らの出来る範囲でやってもらっていいということで始めた。最終的に出来上がったRAIKOを見ると、最初はここまで本格的な衛星が完成するところまでいけるとは実は思ってなかった。彼ら自身もかなり大きな責任を負って頑張れば頑張るほどはまっていった、衛星を作るのが面白いと彼ら自身のこだわりで作ってもらったと思っている。このような体制でこの1年頑張ってきた。


秋山教授
 小型衛星の実験で今回の機会を非常に歓迎しており、このような機会を与えて頂いたJAXAに非常に感謝している。今後も是非続けて頂きたいと思っている。


FITSAT-1

福岡工業大学 田中教授:
 FITSAT-1という記号を付けているが「にわか衛星」という愛称も付けている。博多にわかという、江戸の小咄や大阪の漫才みたいなものがあり、そこから名前を付けた。実施体制、福岡工業大に小型衛星プロジェクトを作り情報工学科の私が責任者になっているが、もう1人知能機械工学科の河村先生が協力して下さっている。コンピュータや通信に関わるところを私が担当し、メカニカルな部分や熱・振動などは機械工学科の河村先生が担当。卒検生・大学院生すべて合わせて20名くらいの規模のプロジェクト。
 メインミッション、小型衛星用の高速送信モジュールの実証実験。科技振興機構のお金が貰えて小型衛星用の高速送信モジュールを作り、その実験をしたいということでJAXAに応募し認めて頂いた。今まで小型衛星が使う周波数はUHF430MHz帯が多いが、よく使われているのは1200号と言って1秒間に1200bitの信号を送る。その場合日本上空を通過中に送れるデータが少ないので切手サイズの絵しかなかなか送れないが、5.8GHz帯をアマチュアバンドの無線を使って100倍くらいのスピードで信号を送ろうというもの。切手サイズが絵はがきより大きいサイズに。もう1つ特徴はアマチュア無線のバンドを使っているので世界中のアマチュア局に協力してもらえる。先日も5.8GHz帯の協力をしたいというメールが来て、アマチュア無線のバンドを使うということは世界中の協力者を見つけることが出来る、素晴らしいと思った。
 5.8GHz帯になるとどうしてもアンテナがパラボラになる。うちの場合は本格的な仕組みではなくうんとアマチュア的にやろうとしている。元々天体望遠鏡を動かす赤道儀というものがあるが、これとパラボラを組み合わせている。ISSはかなり明るく見える。マイナス1等星。目で見て狙いを定められる。今回放出される衛星はほとんど同じ軌道を通る。1周あたり200m、少しずつ遅れていく。放出後何日かで違ってくるが、望遠鏡・パラボラで狙っておけば必ず何秒後かには同じ所を通ってくれる。非常にアマチュア的な仕組みで高精度で信号を受信する。
 高出力LEDによる可視光通信実験。簡単にいうと人工衛星ではなく人工星をつくろうというもの。衛星自らピカピカ光らせる。レーザー光で通信しようという衛星があったとは思うが、単純に衛星をピカピカ光らせようというのは初めての試みではないかと。計算では4〜5等星くらいになるのではとなっているが、信号が微弱な場合は反射望遠鏡に取り付けたフォトマルチプライヤーというもので取り出そうと。双眼鏡くらいで見えるんじゃないかなという計算にはなっている。もう1つ光らせるモードを持っており、夜空にモールスコードで字を書いてみると面白いんじゃないかと思っている。カメラのシャッターを開放にしておくと飛行機のような線で動いていく様子が写る。モールスコードで点滅させると夜空にツー・トン・ツー・トンというように描けるのではないかと。これが上手くいけばもっと楽しいことになるのではと思っている。こういったことをFITSATのページで書いていたところ、シリコンバレーの方が是非実験に協力したいと言ってこられた。「自分はシュミットカメラ(非常に広角で微弱な光を捉える)を持っているので」となるとサンフランシスコ上空でも光らせなければならないなとハッと気付いた。リレーコマンドで「今から何百秒後に光らせる」ということができるので、サンフランシスコ上空で光らせることも出来る。今夜はサンフランシスコ、今夜はパリ、ロンドンの上空で光らせるので見て下さい、というようなことをすると面白いと思う。
 小さい衛星なので本格的な姿勢制御の仕組みは搭載していないが永久磁石を積んでおり、ちょうど方位磁針が空を飛んでいるようなもので必ず南北を向いてくれる。磁力線が日本あたりではだいたい斜め45度ぐらいで地中に入っている。福岡だと47.5度で地中に入っている。ということは自分の観測地点から斜め45度ぐらい南側を通っている時にLEDライトもアンテナも観測者の方を向いている。図の赤い線を通る3分間あたりが一番の狙い所。この間に高速通信・ピカピカ光らせる実験を行う。すると光のメインビームもこちらを向くし、カメラも地上を狙うことが出来る。LEDを光らせるのが南半球だと宇宙の方を向いてしまって地上を向かない。オーストラリアやNZやアフリカの人たちに見て貰えないなと気付いて、じゃあ反対側にもLEDを付けようと、自動車なら後ろは赤なので赤ランプを付けようと思い、赤いLEDを後ろ側に取り付けている。
 RAIKOとちょっと似ているが、この衛星は前後のカメラを持っている。前にはグリーンのLEDと前カメラが付いており、後ろには赤のLEDと後ろカメラが付いている。衛星放出直後から10秒ごとに1枚ずつ前・後ろと撮っていく。すると前カメラには先に放出された衛星が多分何個か写っている。後ろカメラにはだんだん小さくなっていくISSが写っている予定になっている。


We Wish

明星電気 永峰氏:
 We Wishの名前、「World Environmental Watching & Investigation from Space Height(宇宙高度からの地球環境の監視および調査)」の頭文字を取ってWe Wishと名付けている。
主に2つの開発コンセプト。1つめは弊社の企業理念である「環境計測を通して人と社会の豊かな環境作りに貢献する」ということ、2つめが人工衛星による観測を一般化し、地球環境の監視・調査を望多くの人びとにその観測手段を提供する、というこの2つを開発コンセプトに挙げている。これらのコンセプトを実現するミッションの内容としては、ISS「きぼう」から放出されたのちに、搭載している小型熱赤外カメラによって地表面の温度分布を観測するというミッションとなっている。ミッションの流れとして大きく2つ、1つは赤外カメラから地表面を撮影し、地上局にデータを送信する。2つめは地上局で画像を受信し、そのデータ解析を行う、シンプルな流れになっている。
 寸法は10×10×10cm、質量1.2kg。送信周波数はアマチュア無線でよく用いられる430MHz帯、受信周波数は145MHz帯を使用。ミッション機器としては唯一、小型熱赤外カメラを搭載。地表の温度分布を測定し、温度が高いところは色が変わるというような画像が撮れる。この熱赤外カメラの特徴としては大きく4つ、まず小型であること、低消費電力、広視野角、通常熱赤外カメラは冷却して使うものが多いがこのカメラは非冷却で使用可能という特徴。
 衛星放出から30分後にタイマーが働き各部展開。展開部は主に4つ、1つが太陽電池パドル、地球側に向いている受信アンテナ、後ろ側に重力安定ブーム、そして送信アンテナの4つ。(展開試験の動画)まず片側の太陽電池パドルが開く。次にもう片方のパドル。その後に受信アンテナと重力安定ブームが同時に伸びる。最後に送信アンテナが伸びる。このように展開し、ミッションを遂行していく。
 このミッションによる主に2つの対効果。
 1つが小型衛星データの利用促進。植生・地表温度の観測データであったり海洋温度分布の観測データ、解析の結果が取れると考えている。市販のアマチュア無線機を持っていただければどなたでも画像を受信して見ることが出来る。弊社の中でも有志のアマチュア無線クラブを開設しており、そちらのHPから具体的なデータ取得方法・アマチュア無線機の情報を公開していく予定。
 もう1つは技術教育への貢献。We Wishを開発する中で近隣中学校・高校での講演を行ってきた。また弊社にお招きして開発の様子の見学会を実施する中で地域の技術教育に貢献していこうという活動を行っている。今後ミッションが進めば見学に来て頂いた学生さんたちにもデータ受信協力をお願いして更にこのような活動を続けていきたいと考えている。
 実施体制、通常の製品を開発する際と同じ、全社一丸の開発体制で行った。今後の運用計画、運用確認として最終確認とリハーサルを実施。初期運用を行い衛生を補足して姿勢・動作状況の確認調整を行ったあとフェーズ1運用という本格的な運用に入る。こちらで撮像データの解析・評価、データの公開、データを取得する中で運用体制の確立、そして中間報告会を実施。その後フェーズ2運用で撮像データを更に蓄積、データを沢山できるだけ取って最後に成果のまとめとして報告会と報告書を提出という流れになっている。

JAXA、国際宇宙ステーションから放出する超小型衛星5機をプレス公開 -後編 [マイナビ]

ひたすらそのまま文字を起こしたので、大塚さんのレポ記事も要点が非常に解りやすく纏められていてオススメです。どれも実に面白そうです。RAIKOは展開膜を搭載してますし、FITSAT-1は自分も是非カメラを構えて撮影してみたいです。We Wishは宇宙機器メーカーらしく実にスマートな衛星に仕上がってますね。冷却不要の熱赤外カメラなんてかなり本格的な科学センサまで積んでますしw みんな楽しみですねえ。