データ中継技術衛星「こだま」(DRTS)の軌道上運用10年達成に関する記者説明会 起こし

毎度の事になりますがNVSさんの中継から起こさせて頂きました。以下敬称略。

宇宙利用ミッション本部高畑(こうはた):データ中継技術衛星「こだま」(DRTS)軌道上運用10周年達成、これまでの運用の成果についてご報告。「こだま」はJAXAにとって非常に重要なミッションを持った衛星。一般に対し直接的に成果をアピールできる衛星ではなく、なかなかご報告する機会が無かった。先週で打ち上げてから10周年を迎えられ、これまでどういう事を行ってきたかご説明を。


「他の衛星の役に立つ衛星」。データ中継衛星とは、周回衛星が観測したデータなどを地上局に降ろす。衛星は秒速8kmという速度で周回しているため、1つの地上局に降ろせる時間は10分弱。データ中継衛星を静止軌道上に置いておき、広い可視範囲の中で中・低高度(300km〜1000kmくらい)を周回する衛星から「こだま」に送り、「こだま」が中継して地上局に降ろすという機能を担っている。最大の特徴は広い可視範囲。地図で比べてみると地上局の上を通る可視範囲は狭く1回で数分〜10分程度、「こだま」1機で全球の2/3という大部分の領域で通信可能。これにより大容量の伝送を確保でき、広い範囲で補足する事によるリアルタイムでの運用が可能になる。1つの地上局に対し1機の衛星で10〜20倍くらいのデータを伝送できる。つまり10局以上の能力。


これまでデータ中継衛星はNASDA時代含めステップバイステップで開発。第1段階は1994年打ち上げの「きく6号」でデータ中継技術の実証実験を行った。大体10Mbps。第2段階は1998年打ち上げの通信放送技術衛星「かけはし」。更に高速な伝送、ハードウェアの基礎をここでほぼ開発実証。この2つはデータ中継だけではなく他の通信ミッションなどを実施。「こだま」はデータ中継に特化した実験衛星として2002年9月10日に打ち上げられ、先週10周年を迎えられた。最初の2つの衛星は静止軌道に至らず、ミッション期間もある程度短く限られた。その中で可能な実験・実証を行い「こだま」に引き継いだ。無事静止軌道に投入され、6つの宇宙機ADEOS-II・OICETS・ALOS・ENVISAT・SDS-1・JEM)との通信実験に成功している。
「こだま」の技術的目標は衛星間通信技術であり、これは衛星同士の通信。直径3.6mのパラボラアンテナを搭載し、これを周回衛星の動きに合わせて高速で指向し通信回線を確保する技術を確立。2番目はデータ中継運用技術。衛星のみならず地上を含めたシステムとしての運用技術。3番目は中型静止三軸衛星バス技術。質量としては前の衛星に比べ小さい1.5tという中型の静止衛星の技術を実証。バスを製造したのは三菱電機で、その後の「きく8号」を経て三菱電機静止衛星の商業受注に至る貢献。このような成果を出している。


開発の体制やスケジュールについて。開発時はJAXAのもとに三菱電機が衛星システムをとりまとめ、NECIHI・旧東芝が副契約として入っている。打ち上げ以降の運用体制は現状は私が実責任者となっているが、実質的な運用については地上ネットワークに対しスペースネットワークという形で実験を行っておりその主体として統合追跡ネットワーク技術部が全体の運用を行っている。その中で業者としてMELCO・NECなど衛星システム、追跡管制システムなどと共に運用してきた。

打ち上げ以降の運用スケジュールは平成14年9月10日打ち上げ、1月10日に定常移行。当初のミッション期間は打ち上げから7年としており平成21年度には無事定常段階を終了した。それ以降は後期利用段階として本日まで運用を継続している。この間実験対象の宇宙機ADEOS-II、OICETSという光通信衛星、17年度はALOS「だいち」。ALOSは一番「こだま」を利用した衛星で、5年間にわたり。「だいち」の成果はご存じな部分もあると思うが、その影には「こだま」あってこそと考えている。海外の衛星として欧州のENVISAT。海外との相互利用の確認がポイント。平成20年度には小型衛星SDS-1。コンポーネントの実証としてデータ中継開発実証。平成21年度の定常段階終了間際にはISSの「きぼう」との通信もスタートし、データ送受信の実験を行っている。今後は来年打ち上げ予定のALOS-2やその他についても可能な限り実験を行っていきたい。現状予測だと平成26年度一杯までは推薬がもつのではないか。


「こだま」の成果。衛星間通信技術に関する各技術の実証として6つの項目に分けて実験を実施。
先ほども説明したデータ中継運用技術。全体システムとしての運用。実験衛星ではあるが今後継続してデータ中継を確保するという観点においては衛星のみならずシステムとして検証しなければいけない。結果として99%以上の運用率達成。ほぼ実用的に使えるという目処が立った。
通信技術。大容量通信をするためには速いデータレートで実験。ALOSが打ち上がってからは278Mbpsという高速なデータ伝送を行った。「こだま」と地上局とのデータ伝送にはKaバンドという周波数帯が使われている。一般的に雨に弱い。つくばと鳩山に受信局を置いて、局所的な雨にはこのサイトダイバシティというものにより99%の運用達成率をもって実証している。
国際相互運用については先ほども説明した欧州のENVISATと通信実験を行い国際的にやりとりできるという確認をしている。
6つの衛星と6つの運用期間とパス数、主な特徴の表。中には数パスしかないものもあるが、ALOSに至っては2万3千パス相当。直接的な比較はできないが、先ほど地上局の10倍という話をしたが、現在JAXAで直接衛星と通信している地上局は9局ある。これら合わせて年間トータルで1万パスくらいの運用を行っている。1局で1100パスくらい。ALOSは5年間で2万3千パスということで年間4千パス以上。4倍を確保している。地上局だと1パス10分くらいかとれないところ「こだま」だと連続40分くらい。かけて16倍という概算イメージ。10倍以上の能力があるということが実績からも明らかになっている。


ALOSミッションを題材に成果を書いた。ALOSが一番のヘビーユーザー。大容量データとグローバル観測で成果を上げているが、これは「こだま」による大容量・リアルタイム伝送によるものである。「こだま」だけではなく地上局で受信したりTDRSを使ったりもしたが、95%以上は「こだま」経由。「こだま」を利用した全観測量は5年間で654万シーン、1PB。鳩山のデータアーカイブ量の年度ごとの累計グラフがあるが、30年以上にわたり地上局で受信したのが約240TB。その後5年間でALOSデータが1PB。4倍以上のデータ取得。SPOTシリーズと比較すると5機25年間で1000万シーン、ALOSが5年間で654万シーンということでデータ取得効率が高い。これも「こだま」を使った成果と言える。
ALOSは特に災害時での緊急観測でリアルタイム性が問われる。東日本大震災や中国四川省の大震災などで活躍。国内57件、海外255件で計312件の緊急観測ができたのも「こだま」で広い通信エリアを持っていたことから達成できたと考えている。
ALOSの各センサがどれだけのデータを取得したか。全球を観測でき、場所によっては10回以上。これも「こだま」を使ったグローバルな観測結果。
ALOSのミッション終了直前、東日本大震災を受け緊急観測を行い、400シーン以上の観測画像のうち半分以上を「こだま」で取得した。また海外での緊急観測で貢献してきたことにより、海外衛星から5000シーン以上の提供を受けた。ALOSの画像は内閣官房内閣府防災など各省・帰還・自治体などにデータを提供している。


「きぼう」運用への貢献。ALOSの場合だとALOSで取得した大容量データを地上局に降ろすために使われたが、「きぼう」では搭載した実験機器のデータを降ろすのと同時に地上側からデータを伝送する。音声通話やデータの送受信。日本独自の回線を確立できた。観測の設定ファイルを搭載機器にアップロードしたり観測データをダウンロードしたりする。また宇宙飛行士との音声通信。「きぼう」に搭載されたICSという日本独自のものが「こだま」との通信システム。有効性を示せた。


国際相互運用性。ENVISATで取得したデータを「こだま」経由で取得できると実証。


「こだま」の現状。設計寿命である7年は3年前にクリアし後期運用中。10件の不具合が出たが全て処置済みで、後期運用では新たな不具合は発生していない。可能な限り長く運用するために消費推薬の低減を実施しており、南北制御を停止し軌道傾斜角が徐々に赤道から傾く。サブシステムは特に支障なし。推薬が尽きるまで運用していきたい。
軌道傾斜角について。「こだま」は東経90.75度にあり、±0.1度の範囲で運用するという国際的な取り決め。消費推薬低減のため2010年11月に南北制御を停止した結果軌道傾斜角が徐々に増えており、現状1.5度を超えたあたり。軌道傾斜角が増えていくと準天頂衛星のように空間上の運動は8の字の描くようになる。大きくなればなるほど8の字の幅が出て来、0.1度の幅に入りにくくなってくる。この制約の中で運用していきたいと考えているが、このままのペースなら平成27年4月までには燃料が枯渇し運用終了する予定。運用サイドではこれより長く運用出来るよう鋭意工夫して頑張っていきたいと考えている。来年度はALOS-2が上がり、「きぼう」との通信も行う予定。将来的にはGCOM-CやALOS-3が利用する計画があり、将来的にはロケットもデータ中継衛星を利用することを検討。「こだま」もできる範囲で対応し、インフラ的に利用できるデータ中継機能についてはJAXAとしては継続的に確保していきたい。


最後に手前味噌ではあるが、旧NASDAからJAXA静止衛星の運用年数。「こだま」は10年だが、10年以上運用された衛星は6機。きく2号・5号・ひまわり1・3・4・5号。説明は以上。

質疑

NHK:「こだま」の後継機は具体的に決まっているか
高畑:研究開発衛星としては「こだま」で終わっているが、JAXAとしてはインフラ的に使っていきたい。JAXAが研究開発するのではなくサービス調達という形で準備を行っている。

―時事:単体として衛星を買うという話ではなくその時々で海外の衛星を使うということか。
高畑:海外の衛星を使うということではなく常時その機能を確保するということで回線を確保したいと考えている。固定したサービスを想定している。

―使う衛星としてはJAXA専用になるわけではない?
高畑:民間から調達したいと考えており、そういった機能を載せていただく。ホステッドペイロードになるかどうかは相手方による。分かりにくい?

―民間がほぼJAXA専用でサービスを提供するために新たな衛星を打ち上げるということか、あるいは既にあるJAXAを主目的としない衛星の機能を一部JAXAに提供して使う形になるのか。
高畑:データ中継衛星は専用的な使われ方をするので今の質問では前者のような形を想定。


―以前OICETSの後継をどうにかしたいという話があったがそれは結局諦めているか
高畑:諦めてはいない。今後のデータ量増大を考えるともう少し高速な回線が必要になると考えており、電波の通信では限界がある。将来的には光レーザー通信が有望であり、OICETSの実験を踏まえたものが出てくると考え研究を行っている。今のところ衛星プロジェクトとしては無い。


―サービスの調達は燃料枯渇後すぐ切り替えられる形で行われるのか。
高畑:そこは準備しているところでギリギリ間に合うかちょっと間が空く。27年度中にはサービスを受けられる形で考えている。


―入札など契約上の取っ掛かりはいつになるか。
高畑:直前まで準備をしており、最終的に関係省庁と話をしいつでもGOをかけられるよう待っている状況。

―予算関係か。
高畑:予算や政策的なところ含めて。

―目処としては年内か。
高畑:そうだ。


NVS:現在「きぼう」のICSの電源が故障している。ドラゴン宇宙船で故障部分を持ち帰り解析するというところまでは聞いているが、その後故障部分を解析し来年直した部品を送るという形か。
高畑:そこは私の担当外ではあるが、衛星側としてはいつ再開しても通信確保出来るよう準備している。
―現在は通信は全てNASA経由かと思うが、やはり日本独自の回線は早めに復旧させたい意向か。
高畑:私どもは通信を提供する側なのでいつでも準備は出来ている。使って頂ければと思っている。


フリーランス大塚:「こだま」スケジュールで26年度に南北制御再開とある。(軌道が)大きくなりすぎるという事か。
高畑:そうだ。8の字がだんだん大きくなり、経度方向±0.1度の制約幅を超えてしまい、維持が難しくなる。東にも西にも身動きが取れなくなる。トータル的に長く運用できる方策として南北制御の再開を考えている。
―26年度に再開する事で27年度に燃料が無くなるが、その後まだちょっと使える感じか。
高畑:今後の消費推薬量を詳細に確認しながら他にいい手が無いかどうか検討。ミッションが終わった静止衛星静止軌道の外側に持っていく。デオービットのための燃料を確保したうえで枯渇するのがこの時期。


―観測衛星「だいち」などで使われているが、他に「いぶき」「しずく」もある。衛星によって使ったり使わなかったりというのは何故か。
高畑:データ容量の問題。「だいち」のデータは非常に大きなもので、地上で10局・20局ぐらい配置しなければいけないと言われる。「いぶき」「しずく」はそれに比べるとデータ量が大きくない。地上局で対応できるレベル。衛星側にもデータ中継用機器を搭載しなければいけない。全体でトレードオフするが、メインはデータのボリュームが関連する。

―「いぶき」「しずく」は設計段階で地上局だけで大丈夫だろうということで上に向けたアンテナは持たないということか。
高畑:そうだ。


NVS:「いぶき」は極軌道で毎回北極圏を通るためノルウェーのスバルバード局で毎回データを受ける。このように毎回極域を通るという特性を用いたデータの降ろし方と、「こだま」のように中継して降ろすやり方を比べ「こだま」の優位性をお聞かせ頂ければ。
高畑:仰るように極域の地上局を使う事で100%ではないがほぼ通信を確保できる。例えば1日15周のうち12・13周。時間は10分に限られるが、「いぶき」「しずく」はその中で降ろしきれる。「だいち」は容量が大きいので降ろしきれない。地球の半分以上のエリアで通信できればより大容量のデータを降ろせる。リアルタイム性においても、極域以外で何かしたくても次の局まで待たなければいけない。中継衛星なら半分以上は見えるので災害観測などすぐ撮像したい時にも対応できる。


―環境問題が騒がれるようになり観測衛星が各国増えているが、例えば「こだま」後継機で他国にデータ中継サービスを提供するという話はあるか。
高畑:現状では無いが、先ほど申したようにESANASAと相互運用性について取り決めており、それに基づいてENVISATとの通信もできた。技術的適合性は確保した上で後継機についても進めていく。

やはり「ひまわり」などのように民間から調達する形になるようですね。どうやらこれから正式に契約し開発に入るようですが、基本的にこれまでの設計ノウハウというのはどう活かされていくんでしょう。国内企業で開発するとしたら三菱電機NECかですが、ここで海外メーカーとなると個人的には何かまた骨抜きっぽくて微妙な感じもしますw 運用はさすがに国内になると思いますが、というか運用も民間に委託するんでしょうか? 三菱UFJリースとかスカパーJSATとか。ちなみに宇宙政策委員会の資料(参考資料2の9)によると今年度は3億円ほど出ていて総事業費は364億円となっています。
というか三菱電機の指名停止の件はどうなんでしょう? 運用業者経由で孫受注する形でクリア出来るんでしょうかね。