だいち2号(ALOS-2)の初画像に関する記者説明会 起こし

今回もNVSさんの中継映像から起こさせて頂きました。ありがとうございます。



登壇者:
JAXA ALOS-2プロジェクトマネージャ 鈴木新一氏
JAXA 地球観測研究センター 研究領域総括 島田政信氏

(以下敬称略)

運用状況の説明
現在「だいち2号」は正常に動作し初期チェックアウト作業を計画通り進めている。6月12日に太陽電池パドル展開動画を公開。これを初めて見た時には歓声が上がった。本日6月27日にPALSAR-2初画像を公開。今後は8月中旬に定常観測開始。初期校正を行い11月下旬には一般ユーザーへのプロダクト提供を開始。災害観測の要請があれば未校正でも提供する場合がある。

島田 「だいち2号」が取得した初画像について

6月19日より日本を中心にデータを取ってきた。一番最初の画像が合計30秒で200kmほどの領域を取得。そのうち170km・幅67km、分解能3mモード。PALSAR-2のなかでも高い分解能に部類されるモード。夜間の富士山を撮影した画像も同様に分解能3m。非常に深いダイナミックレンジで取得できたと思う。これまで主として3m・6m・10mモードで実施。本日は東京・伊豆大島・西の島・富士山周辺・ブラジルについて観測能力を紹介。


衛星は左右どちら側も観測することができるが、この時は過去のJERS-SAR(ふよう1号)・PALSAR(だいち)同様にPALSAR-2も右を向いて観測した。過去の加増と比べどの程度の分解能の向上があるか。1992年に打ち上げられた「ふよう1号」、同じくLバンド合成開口レーダーを搭載している。分解能18m。2006年に打ち上げられた「だいち」では分解能10m。今回3mの分解能で観測したところ更に分解能の向上が認められる。ディズニーエリアの駐車場などの詳細が判別できる。
少し南下した海上には白い点が写っているが、これらは航行している船舶。このようなものも見分けることができる。


伊豆大島の観測画像。全体的に緑がかっているが、今回の運用では波長24cmのLバンドを用いている。横に震動する波を持つ電波を発射した。反射して帰ってくる電波は横と縦に振動するものがあり、2台の受信機を使用しデータを取得している。横に発射し横で帰ってくる電波を「HH」(赤)、横に発射した手に帰ってくる電波を「HV」(緑)、その比率をHH/HV(青)として色付けしている。これらをRGBとして合成すると疑似カラーとなり、緑は植生、暗い所は裸地や水面。去年10月に発生した土砂災害の箇所が黒く筋状になって見受けられる。3mの分解能で災害時の応用に適用できると考えられる。
この画像を「だいち」のPRISMによる観測データで作成した数値標高モデルに投影するとこのように三次元的に表現可能。


西の島の観測画像。西ノ島の南方から左向きに30秒間で観測。直後に方向を変えて富士山を観測した。今年2月4日に我々が保有している航空機搭載合成開口レーダーにより観測した画像があるが、幅約1kmに成長した島が写っている。今回6月20日深夜にPALSAR-2で観測したところ幅約1.7kmにまで成長していることが分かる。ピクセル単位では0.67平方km増加したと考えられる。1000km離れている地点においても瞬時に切り替えることで観測が可能。遠方における災害やモニタリングに貢献できると考えている。


次はその直後に観測した富士山周辺画像。ビームの角度を右向きに変更。150秒間で観測した。地上距離にすると1000km、南から北上し日本海に抜けていく観測。伊豆大島と同様に色付けしている。富士山は植生が多く、ふもとの都市部は紫色に見える。PALSARによる10mの分解能でも火口内の特徴は見えるが、PALSAR-2の3倍の分解能ではより多い情報量が得られる。宝永火口のディテールもよく見える。火山監視や地表の情報を得るのに非常に適切ではないかと考える。PALSARでは見えなかった富士山スカイラインも見える。性能が出ているかを確認するため現地部隊を置いた。白い点が写っているが、これはコーナー反射鏡である。レーダーのキャリブレーションを校正するためのもの。通過時刻の夜11時ごろは現地でも雲が出ており、気象衛星画像でも確認できる。山頂付近にも雪が残っている状況。PALSAR-2ではくっきりとした画像が得られている。機能は十分に確認できたと考える。


最後にアマゾン。同じく6月20日に観測。ブラジルは幅約4000kmと広大だが、最も北の州の上空からレーダーの電源を投入し、アマゾン川北部から約1000kmのデータを取得した。森林伐採で最も有名なのはロンドニア州やペルー近くのリオブランコ。分解能を少し落として10m、偏波はHH+HV。2009年にPALSARで取得した画像。2〜3kmスケールの大きなパッチ状のパターンが見える。伐採の痕跡と思われる。同じ地点をPALSAR-2で観測。初めて撮った画像なので完璧な校正がなされておらず、西の方向が暗く写っている。8月からもう少しデータを取り端から端まで変わらぬ明るさで取れるようにする。両者を比較することで伐採領域の変化が分かる。赤い部分が拡大した領域。1kmほどの領域がぽつぽつと増えていっている。この領域で約25平方kmの森林減少が見て取れる。森林観測に適したLバンドの波長を用いたPALSAR-2により今後世界規模の森林観測が可能になる。その結果、森林管理や気候変動に大きく関わりがあるとされるバイオマス量の推定に貢献できると期待できる。
 

富士山付近の動画。数値標高モデルを用いると3Dビューで表示できる。山岳地帯の詳細な理解もできるのではないか。HHとHVの2つの偏波で観測したが、これはそのうちHHだけを用いた画像である。富士スピードウェイの比較、非常に分解能が上がっているのではないか。アマゾンの画像、白く見えている部分がある。洪水により木の下に水が溜まっていても電波を透過するためこのように非常に強力に反射して見えるため、川の周りの洪水領域を見つけてくれる。


昼夜にわたって災害観測・環境監視などへの応用や、地殻変動・極域観測などへの応用が期待される。


質疑応答

NHK伊豆大島のカラーの写真と西之島の白黒の写真を見ると精度が違うようにも見えるが分解能を変えて撮ったためか?
島田:分解能は3mで変わらないが、西之島自身のスケールが非常に小さいためこれ以上分解能は改善しなかった。
―カラーにする技法は帰ってくる電波の違いから擬似的に色を付けたということでいいか。
島田:特にこちらが恣意的な色を付けているわけではなく、レーダーがそのまま受信する信号にRGBを付けただけ。受信機が2つあり、各々が違った特性の信号を取得でき、それぞれに赤・緑・そして比率に青を付けている。将来的にはもう少し高度な手法が期待できる。今回は一番基本的な手法を用いた。

―立体画像になっているものは「だいち」で得られた標高データを組み合わせたものか?
伊豆大島の画像は「だいち」のPRISMの標高データを組み合わせたもの。数値標高データと呼ばれるものだが、現在国土地理院が持っているものや「だいち」で得られたものなど何種類かあり、それらを組み合わせることで立体化できる。数値標高データがあると勾配などの指標を作ることができる。勾配が強すぎると土砂災害の危険があるといった指標になる。
―富士山の動画は?
こちらは国土地理院の数値標高モデルを用いている。


―時事:鈴木さんへ。ここまでこぎ着けた感想と今後期待されることを改めて
画像がちゃんと出てくること、これは当たり前のことではあるがこれを確認できたことは非常に嬉しく思っている。最初に得られた画像を見て印象に残ったのは、橋が綺麗に見えていること。高分解能の効果があり、災害等に役立てられるのではないかと思う。技術的な話になるが、高画質なデータのため軌道上で圧縮技術を用いている。今回の東京の画像なども高めの圧縮率を用い両方の偏波を取ることを試みた。圧縮率が高かったわりには意外と綺麗に撮れており、今後も高い分解能と偏波を組み合わせることが期待でき、これまで見えなかったものが見えてくるようになる事で新たな利用が期待できる。


―産経:打ち上げ前の説明会などで性能について伺ってみるとは実際打ち上げてみて観測してみないと分からない部分があるという話があったが、実際観測画像を取得してみて災害現場などでどのような状況まで見えてきそうか。
鈴木:まだ初画像なので実はじっくり見る時間もあまりなく、かつ今回得られたのはまだストリップマップモードだけ。最も分解能の高いスポットライトモードはこれから確認することになる。そのため本当に最高の性能はまだ未確認。それでも3m分解能のストリップマップモードでも格段に見えるようになっているので、詳細な災害把握には使えるだろう。今後様々な防災機関とともに検証を進めていきたい。


NVS:鈴木さんへ。データ中継衛星用アンテナを搭載しているが、今回の初画像は「こだま」経由か、それとも直接伝送か?
鈴木:今回は直接伝送モードを用いて受信した。今週から中継衛星との確認も進めており、問題なく「こだま」を通じて伝送できることは確認しているが、画像データの伝送はまだこれから。

―「こだま」が使えるようになると大量のデータを取ってもダウンリンクがしやすくなっていくか。
鈴木:直接伝送も800Mbpsという世界最高速度であり、撮り溜めたものをおろすことでかなり取得できる。中継衛星経由だと278Mbpsと遅くなるが、衛星とコンタクトする時間が長くなるのでその分たくさんのデータを取ることができ、さらに衛星に対し指令を出す時間も長く取れるので、即時性という面でも中継衛星経由は効果がある。


―共同:島田さんへ。今回公開されているのは日本国内が3m分解能で、アマゾンが10mか。
―島田:その通り。アマゾンが10mで国内は全て3mで撮っている。アマゾンは6mでも撮っているが今回紹介したものには含まれていない。

―基礎的なことで申し訳ないが、カラー画像は明るい紫色や黄緑色は市街地、暗い紫が裸地を表すと記載されているが、富士山周辺の画像で頂上付近も明るい紫っぽく見える部分がある。
―島田:こちらの説明文はあくまで一般的にはこういうものだという意味で取って欲しい。紫色はHHとHH/HVが強い時に出る。人工構造物がそのような反射の仕方をするが、場合によっては自然の対象物でもゴツゴツしている氷などは反射が大きい。「だいち」でグリーンランド周辺部分が氷でゴツゴツしていて非常に白く見えたりしていた。南極もそうであった。過去の経験から、富士山頂もそのような状況になっている可能性がある。また観測時は電波を斜め方向に発射しているが、斜面に直交していると電波が非常に強力に帰ってくるため、これらいずれかの状況が紫になる原因ではないかと考える。先ほどの現地写真でも山頂が白くなっており、雪が溶けゴツゴツしている状態がまさにこれ。

―立体画像は「だいち」標高データを合わせたものとのことだが、当たり前だが観測したのは平面画像か。
―島田:レーダーで画像を撮り地上に降ろした時点ではまだ「絵」になっていない。軌道の位置情報・速度情報などを組み合わせ地上で高速コンピュータを用い処理することでここにあるような絵になる。ここで補正処理を行うが、その時に標高データを用いて行い、ある座標系に変換する。高い所は高く、低い所はそのままというように持ち上げ処理を行うことでこのような直感的な画像ができる。

今回の記者説明会で公開された資料は以下のページなどにも公開されています。西之島を左向きで観測した直後に富士山を右向きで観測するという機動性の高さは凄いです。わずか2分少々の間に姿勢を反対にしてビタッと安定させたことになります。素晴らしいですね。