松浦晋也氏に訊く、はやぶさ2と宇宙のテクノロジーのこれから [ASCII]

日本の宇宙開発は、次々と無理をせざるを得ないという状況がここ十数年あって。最初のハレー彗星探査機『さきがけ』のプロジェクトは成功しましたけども、次に打ち上げた火星探査機の『のぞみ』は火星の周回軌道に入れませんでしたし、はやぶさの次のプロジェクトだった金星探査機『あかつき』も、スラスターが壊れて、現在は再投入のチャンスを模索している状況です。

要するに、まともにやっていたら勝てないんですよ。この30年で探査機4機を飛ばした国と、2年ごとに火星へ1機か2機飛ばして、さらに金星や木星にも飛ばしている国とは普通に考えたら勝負にならないんです。だから初代はやぶさを作ったわけですよね。

米露は宇宙開発競争初期に青天井の予算をつぎ込んで試行錯誤を繰り返して膨大なノウハウを持っていますが、そうでない所はなかなかそうはいきませんよね。大型国産ロケットもH-IIからH-IIA初期までは苦労しましたが、おかげで今は非常に安定しています。トラブルは無いに越したことはありませんが、こと宇宙でとなると実際に飛ばしてみるしかありませんからね。日本の探査機は2桁に到達する前に本格的なソーラーセイルを飛ばしてしまうことになりそうですから、いかに一発勝負かという感じです。

インドの計画は大きなアナウンスなしに延期することもあるので、実際にいつ上がるかは分かりません(笑)。でも、日本は(有人の計画を)やってないですから。やってない奴とやっている奴の差は果てしなく大きいわけです

全くそうで、たとえばいくら中国の神舟ソユーズのパクリだとか言ったところで実際に運用しているのとそうでないのとではやっぱり全然違います。有人というのはやはり遂行能力とか責任能力とかそういうところなんだと思いますね。

当時はGPSの誤差の測定を調布にある航空宇宙技術研究所でやっていたんですが、湾岸戦争が近づくにつれ、それまで20メートル前後で推移していた数値が100メートルにまで広がったそうです。ところが、開戦直前になるといきなり精度がぐんと上がって、5メートル前後にまで縮まった。それは要するに、スクランブルをかけていない状態なんです。何があったかというと、軍用コードのGPS受信機の生産が間に合わなかった(笑)。

GPSリモートセンシング衛星のように軍事技術で発達したものは多いですが、民生に頼らざるを得なくなった結果として高精度なモードが解放されたというのはちょっと逆説的ですね。最近はリモセンもその流れです。もしかしたら有人もそこに続く可能性はありそうです。