平成20年1月9日付け読売新聞(朝刊)記事について [RESTEC]

今更気付いたのですが、陸域観測技術衛星「だいち」のデータを取り扱っているRESTECより読売記事への反論文(pdf)がUPされていました。

(ア) 記事の事実誤認について
・ 「基本図の修正・更新の際に使う構想であったが、現地測量を追加しなくてはならないため、約4,300面ある日本の基本図のうち完成したのは硫黄島など52面にとどまっている」との記述について

1. 現地測量については、「だいち」に限らず航空写真についても追加で実施する必要があります。
2. 衛星打ち上げ後から正式にPRISMを採用するまでの間は検証期間であるため、検証期間中である現在は、試行的に離島の更新作業等に利用している状況です。
3. 完成した面数が52面にとどまっているのは、画像の精度の問題ではなく、現時点でまだ検証作業中であるためです。
4. 他方、日本ではすでに全国の基本図がほぼ整備されていること、及び、地形図の変更を要するほどの地殻・地形の変動の少ないわが国では、その修正・更新に必要とされるのは主として人工物の建造、河川・湖沼等地物の変化情報であることから、「だいち」はその高い水平精度によって、これら地物の変化情報調査にも使用されています。


・ 「同衛星が2006年10月に運用開始してから年間700面のペースで画像を利用する予定だった」との記述について

1. 「年間700面」とは、国土地理院殿における平均的な年間の全更新面数であり、今後はこれまでどおり航空写真も利用しつつ、地域によってはPRISM画像により更新することになります。
2. 今後の実利用段階においては、その利用面数は大きく伸びることが見込まれます。

・ PRISMデータ(画像)における、利用に際しての2種類の課題について
1. 画像の幾何精度(特に高さ精度)
(ア) 記事中の「誤差の大半が6m前後に集中している」との記述は、この課題に対応するものです。
(イ) PRISMが目標としている「高さ精度5m以内」は、非常に高いレベルを要求される国の基本図作成基準(基本測量作業規程)を基として設定されており、記事のとおり現時点ではまだ安定しては達成できておりません。
(ウ) 国の基本図作成基準での課題につきましては、JAXAが引き続き精度向上に努めているところです。なお、世界各国が打ち上げている地球観測衛星の中で、高さ精度を含めたPRISMの幾何精度は非常に高く、現時点においても世界最高レベルです。
(エ) なお、6mという標高精度検証結果は、PRISMにより取得されるステレオ画像より自動で抽出した標高情報の検証結果です(自動で標高情報を抽出する際には、大きな誤抽出が少なからず含まれるため、精度評価結果が低く出る傾向があります)。
(オ) 他方、国土地理院殿において実施する標高情報の抽出作業は、RPCファイル(精密幾何モデル(有理多項式))及び電子図化機を用い、且つ、地上基準点を設定して(水平3点、垂直1点)実施する手動での等高線抽出作業となります。そのため、地図作成・修正作業へのPRISM画像の採用判断に際しては、「(エ)」の精度検証結果が直接適用されるわけではありません。(国土地理院殿における作業方法においては大きな誤差が生じ得ないため、PRISMの画像についても実際の使用環境においては5m以内という精度を達成しています。)

衛星画像の利用状況や地図作成手順について、記事の確認不足であった点が見受けられます。
記事ではまるで精度不足のせいで基本図利用が52面にとどまっているかのように書かれていましたが、実際は基本図作成が検証作業中なためであり、大幅に利用されるのは検証終了後、実利用に入ってからとなっています。 「単独での基本図作りは絶望視」も誤りで、実際は航空写真であろうと現地測量を併用しますし、国土地理院における基本図作成作業で適用できる精度を達成しているとのこと。 また、姿勢制御にも問題は無く、合成開口レーダーなどの他のセンサーは想定以上の性能を達成しているそうです。