宇宙基本法可決関連の社説

宇宙基本法―あまりに安易な大転換 [朝日]

法案は宇宙開発の目的として「我が国の安全保障に資する」との文言を盛り込んだ。「平和の目的」に限るとした1969年の国会決議を棚上げし、宇宙政策の原則を大転換させるものである。

約40年前の国会決議のころとは宇宙をめぐる事情は様変わりした。多くの国が軍事衛星を打ち上げている。自衛隊も事実上の偵察衛星である情報収集衛星をすでに使っている。核とミサイルの開発を進める北朝鮮の動向を探るためなら、宇宙から情報を得ることに多くの国民が理解を示すだろう。

基本法の背景には、日本の宇宙産業を活性化したいという経済界の意向もある。衰退気味の民生部門に代わり、安定的な「官需」が欲しいのだ。

だが、宇宙の軍事利用は、日本という国のありようが問われる重大な問題である。

衛星による偵察能力の強化は抑止力の向上につながるという議論もあるだろうが、日本が新たな軍事利用に乗り出すことは周辺の国々との緊張を高めないか。巨額の開発、配備コストをどうまかなうのか。宇宙開発が機密のベールに覆われないか。そうしたことを複合的に考える必要がある。

宇宙基本法 政治主導で戦略を練り直せ(5月10日付・読売社説) [読売]

民主党が、国際的に異質な足かせをはずすため、与党と法案を共同提出した意味は大きい。

北朝鮮によるテポドン発射を機に03年から導入された情報収集衛星の能力は、民間衛星と同等にとどめられている。ミサイル発射を探知する早期警戒衛星の開発も封じられてきた。

日本が高い技術水準のロケットエンジンを開発しても、軍事衛星を打ち上げる可能性のある米国企業には売却できない、という問題もあった。

宇宙基本法が成立すれば、こうした制約にとらわれずに、宇宙利用を進められる。

新興国の中国、インドなども、米露や途上国と協力し、宇宙開発・利用に本腰を入れている。

日本が取り残されないようにするためには、縦割り行政による意思決定の遅れを返上し、宇宙利用の長期戦略を明確に示して産官学の連携や各国との協力を強化しなければならない。

宇宙開発・利用の“司令塔”が、これまで政府にはなかった。首相を本部長として設置される宇宙開発戦略本部で、政府が一体となって戦略を再構築すべきだ。

【主張】宇宙基本法 国の守りと科学の両立を [産経]

宇宙基本法の基本理念は、国民生活の向上と経済社会の発展に置かれている。宇宙開発は、一国の科学力と技術力を示す総合的な指標であり、若い世代が科学技術に夢を広げる糸口となる未来への領域でもある。

法案通りに成立すると、内閣に首相を長とする「宇宙開発戦略本部」が置かれ、担当大臣も任命される。この新体制は、強力な牽引(けんいん)力を持つはずだ。そこで、いくつかの注文をつけておきたい。

第1には、日本の宇宙開発をバランスよく発展させていくことである。予算配分が防衛分野に偏り過ぎて、宇宙科学や宇宙ビジネスの分野が先細りになるようなことがあってはならない。

日本の宇宙科学は、世界をリードする位置にある。これを損なうような事態を招けば、あぶはち取らずになってしまう。研究者の配置も10年、20年先を展望してビジョンを描くことが必要だ。

第2には防衛分野での透明性を可能な限り確保することだ。残念ながら、現在運用中の情報収集衛星については、その成果がまったく国民に伝わっていない。

宇宙開発は巨費を伴う。実効的なチェック機関や機能がなければ、税金が有効に使われているのかどうかもわからない。加えて、極端な秘密主義は、技術研究の発展を停滞させがちだ。

機密なしの防衛はあり得ない。その一方、透明性なしには科学技術の発展も望めない。この二大命題の両立に、関係者は議論を重ね、知恵を絞ってもらいたい。

朝日が「宇宙科学」に言及せず産経が言及するというのが意外でしたが、防衛利用については基本的に容認する意見で各紙共通しているようです。 個人的には防衛分野と科学分野の両立を求め、IGSの運用のあり方を問い掛けた産経社説に一番同感。 朝日が述べた「周辺の国々」の話ですが、それはもう各国の現状からしてコンセンサスが取れたも同じではないかと思うところですw 読売社説にあるロケットエンジン輸出規制も実際あった話ですよねえ。 例えばデルタ4Mの第2段機体はH-IIAのそれと共通ですがエンジンはLE-5Bではなくなっています。 こういったところの実績も商業受注に影響してくると思いますし。
これまでより上位の機関に配置されることでより戦略的・積極的な宇宙開発が推進されることに期待するところです。 宇宙関連予算の一割以下のISASの宇宙科学ミッションへの予算的影響はまあ無いと思いますが、日本のその分野は特に世界的評価が高いのでミッション遂行にあたってもより挑戦的なことが出来るように推し進めて行って欲しいですね。