【土・日曜日に書く】東京特派員・湯浅博 CIAが嫌う日本の技術流出 [産経]

問題はこのシンポジウムの意義にある。中国が高度のレーザー技術を渇望していることは、安全保障の専門家で知らない者はいない。特に、米国内では中国の産業スパイが大量動員され、米国のレーザー技術をはじめとする先端技術を物色していた。

90年代末には、ロスアラモス研究所の中国系研究員ピーター・リーが、ある会議で中国人研究者に非公開資料を見せたことを連邦捜査局FBI)に見とがめられ、有罪になっている。

米国は「中国の積極的かつ広範囲なスパイ活動を米国の技術に対する大きな脅威」(2007年版中国の軍事力)とし、政府機関はもちろんのこと企業、大学からの技術流出を防いでいる。

防衛大学校の太田文雄教授はこの1月のワシントン出張で、レーザー技術問題で国防副次官から接触を求めてきたことを『インテリジェンスと国際情報分析』に書いている。副次官は中国の産業スパイがなお果敢に、レーザー技術を狙っていることを明らかにした。

レーザー兵器は1960年代から米ソにより開発されてきた。80年代になると、レーガン大統領がスターウォーズ計画(SDI)として、強力なレーザー光線を発射して、核施設や軍事衛星を破壊する計画が検討された。さらに、重水素を詰めた燃料球に強いレーザー光線をあて高温で圧縮すれば核融合を起こせる。

それらの技術を中国が見逃さないはずがない。今回のシンポジウムに関する英文資料も、実のところ米情報機関CIAから日本側に渡されたいわく付きのものである。米国は日本のレーザー技術が合法的に中国に流出していくことをもっとも恐れている。

この会議の事務局になる大阪大学の同センターには日本最大級の核融合施設があり、90年に太陽の中心密度の4倍という核融合の世界記録を持っている。

日中間で数年前から共同研究が行われ、昨年は日中協力事業として中国で第1回シンポジウムが開催された。経産省が技術流出を警戒しているのに、文科省管轄の国立核融合科学研究所からは日中協力事業として資金が出ている。

政府はいま、専門家からなる技術情報適正管理研究会をつくり、産業スパイを取り締まる法改正を進めている。米国で流出を防いでも、日本から流れていってしまっては話にならない。

昨年3月に自動車部品メーカー「デンソー」の中国人技術者による製品データ持ち出し事件で、大量のデータをもって中国へ3回帰国していても日本で逮捕できなかった経緯がある。

まして、大学の研究者の学術交流で合法的に流出することを防ぐ手だてがない。日本の技術が転用されてできた兵器が、その日本に照準を合わせていたらブラックユーモアではすまない。先端科学と安全保障のすり合わせは、一刻一秒を争うレベルにある。

確かにこの技術は軍事的にもかなりクリティカルですよね。 日本はこのあたりにかなり鈍感で、軍事に関わるものに限らずどんどん流出して行っているというイメージがあります。 もっと慎重に取り扱って欲しいですね。