機関誌JAXA's 031号 [JAXA]

最新号が出てます。今回やたらてんこ盛りで、「はやぶさ」特集もありますよ。

國中 当面の対策として、出力を5mN(ミリニュートン。約0・5g重)に絞って中和器の消耗を遅らせ、12月になって太陽に近くなり電力も得られるようになったら、2基運転で遅れを取り戻そうということになりました。しかし11月3日の夜、再び中和器の電圧が上がり、エンジンが異常停止した。

まだ発表できる状況ではなかった。何事もなかったかのようにポーカーフェイスで打ち合わせを続け、心の中で「ゴメン」と言いながら彼らの帰国を見送りました。各方面への調整を終えて発表できたのが11月9日。JPLメンバーに詫びたところ「気にするな。それより軌道設計のツールを貸そうか?」と申し出てくれて、ホッとしました。

JPLの中の人男前すぎる…

國中 1999年頃でしたか、「はやぶさ」(当時は「MUSESーC」)のエンジニアリングモデル(試作・検証用)から、フライトモデル(実機)を作るときに付加した回路です。特殊な運転パターンをしても変なところに電流が逆流しないよう、いくつかダイオードを付加しただけで、重量増も最小限。そもそもイオンエンジンに限らずエンジンは、同じ出力を出すのなら小さくして数を増やすのでなく、より大きな1基にしたほうが、構造もシンプルだし、効率もいい……。
ー それをあえて4基構成にした意味は?
國中 どれかがダメになっても生きている部分を組み合わせて動かせる。つまり「冗長性」が手に入る。これを生かさない手はない。4×4すべての組み合わせだけでなく、1つの中和器で2つのエンジンを動かす設定まで可能な回路を作っていました。
ー こんなこともあろうかと……。

はい出ました。出ましたよ。「1つの中和器で2つのエンジンを動かす設定まで可能な回路」。そりゃ言われてみればAの中和機とBのイオン源を組み合わせている時点で確かに何となくいけそうな気はしますが、この分だと一体どこまで「こんなこともあろうかと」の引き出しがあるんだか知れませんねホント。μ10は結果的に中和機の劣化が問題になりましたが、この冗長性はハンパないですね。

國中 振り返ってみれば11月の故障は、まさに"ここしかないタイミング"で起こった故障だったんです。もし1週間後だったら、臼田(長野県)にある直径64mの通信用アンテナが工事に入っていて使えませんでした。イレギュラーな運用には大きなアンテナが必要です。

また故障が1か月早ければ、太陽から遠いのでクロス運転を可能にするだけの電力が得られなかったでしょう。現に試行の最初の頃、電力不足でクロス運転は安定しなかった。まるで「はやぶさ」は何か考えがあって、その時期に合わせて「故障してくれた」んじゃないかと思うほどでした。

何とも神タイミング過ぎますね。誰がこのシナリオ書いてるんでしょうw スロットリング可能なイオンエンジンはこれが初めてで、スラスタAはこれが安定してなかったらしい。

ー05年11月26日の二度目の小惑星タッチダウンの後に、通信途絶。すぐに再び電波で「はやぶさ」を捕捉できたが、探査機のスピン
が止まらず、姿勢を変えるために使ってきた化学スラスタもダメになっていた。これでは、大きなアンテナを地球に向けたり、イオンエンジンを狙った方向に噴射することができない……。
國中 状況を聞いて、「ああ、これでもう出番はないな」と思いました。普通の宇宙機だったら、ここで運用をあきらめています。でも川口先生は違った。「イオンエンジンを噴け!」って言うんです。スピンしていてどっち向いてるかわからない状態で、危なくてコマンドなんて打てない。「ムチャ言うなぁ、この人」と思いましたね(笑)。

「物理的に無理」じゃないと納得しない川口先生らしいエピソードですねえ。

ー 結果的に「キセノン生ガス噴射」で姿勢制御を行うことにしたわけですよね。一部では「國中マジック」とも呼ばれるほど想定外の運用方法で、私も記者会見の席で驚きのあまり「ゥエッ!?」と呻き声を上げたのが、録音に残っています。さっきの口と鼻孔のたとえでいうと、「宙に浮いた宇宙飛行士が、鼻息だけで体の向きを変える」ようなことをやったわけですよね。

リアルうぇwwww このキセノンスラスタは比推力が10秒程だそうです。

カプセルの切り離しやビーコン信号(電波による位置通報)の電力は、すでに設計寿命をはるかに超えているリチウム一次電池を使うことになるが、事前に電圧の確認は行っていないという。「調べることはできるが、ダメとわかっても打てる手はなく、調べることで電圧も低下してしまう」からだ。

これは確かにちょっと恐い所ですね。