祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【完結編】 「はやぶさ」の夢は続く、開発者が考えるその先にあるもの [ASCII]

遂にこの連載も最終回。本当に有り難うございました。

サンプルが入っていなければそこで終わってしまうかもしれませんが、「ない」と発表することもなかなか難しい作業で、すぐには言えないんです。本当にないんですか、全部探しましたかということを確認しないといけない。

あったらあったでそれを、貴重なサンプルが地球の大気に触れないように扱う、なくさないように扱うという非常に重要な作業がありますから、それをきちっとやりこなして、分析する人に渡す。また、そのデータをアーカイブして、世の中の人みんなが理解できるように整理する……1年では済まないような作業があると思っています。

カプセルをパカッと開けてすぐ判るというものでもないんですね。何せ目に見えないような微粒子の可能性もある。明らかな砂や石が入っていれば一発かも知れませんが、そうでなければイトカワ由来であることを分析して確認しないといけませんから。

吉川 「はやぶさ2」は、2014年、遅くとも2015年に打ち上げる必要があります。いずれにしても、今年から開発を始めないと間に合わない。残念ながら今年は予算がつかなかったので、制作には入れず、ごく小さな予算で研究的に始めています。

少なくとも来年度からは本格的に制作に入りたいし、今年中に先行して時間のかかる部品は発注しないといけない。来年度の概算要求に向けて、「はやぶさ2」プロジェクトを入れてほしいと思っています。せっかく探査機の分野では世界最先端をいっているわけですから、これをぜひ日本の特徴として育てていきたいですよね。そのためには次に伝えないと。

これ本当に切羽詰まってますよね。今回は工学実験探査機としてだったのでタイミングに目標を合わせましたが、次に狙うのは本番の理学目的なので目標にタイミングを合わせる必要があります。

アメリカもヨーロッパも同じようなミッションを考えています。アメリカは大きな天体にばかり行っていた。

ところが、日本がイトカワのような小さな小惑星に行ってみたら、非常に面白かった。そのことがわかっちゃったわけです。ここで日本が「はやぶさ2」をやらなかったら、アメリカがやってしまいますよ。

せっかく日本が最先端を行ったのに、アメリカに追い越されてしまう。別に競争だけが大事ではないですが、最先端のことをやっている、というのはとても大事なことです。やっぱり一番じゃないとだめなことはあるんですよ。

アメリカに比べたら、日本の宇宙予算は1/20くらいしかありませんから、すべての分野でアメリカに勝たなくてもいい。ただ、ある分野では勝っている、ということが重要。「はやぶさ」の予算は、探査機が約120億で、後は90〜100億ほど。「はやぶさ2」でも、衝突機の部分でプラスアルファくらいです。

それに比べて、アメリカやヨーロッパの予算では、人件費込みとか計算の基準が違う部分はあるにせよ、日本円で7〜800億です。探査機本体の部分だけでも2、3倍ではないでしょうか。いかに日本の計画は格安かということですよね。

全くその通りで、これだけのアドバンテージを手にしながら最先端の成果をみすみす逃すことはないんですよ。しかもNASAはOSIRIS等で明らかにそれを狙っている。

矢野 (2005年、第一回タッチダウンでスーパーバイザーを務め、探査機上昇のコマンドを決定したとき)振り返って考えると、僕が間違った答えを出していたら、川口先生がちゃんと修正したんだと思います。

川口先生というシステム工学のプロ中のプロと、衛星を知り尽くしたメーカーの方が同じ答えを出しているわけですから。あのときは、たまたま僕も同じ答えだった。

でも、僕にそれを考えさせるチャンスをくれた。あのピンチのなかでも川口先生は人を育てようとしていた。リーダーとして凄い人だと思います。

後進を育てる事にも余念のない川口先生。こんな局面でもそれを考えていたとは凄い話です。

吉川 ある意味非常に予想外。でも嬉しいですね。できるだけみなさんに親しんでもらえるよう、我々も努力はしていたつもりですが、ここまでとは。動画でいくつか非常に面白いのがありました。「宇宙戦艦ヤマト」にたとえたのとか、面白くうまく作ってくれて。多少の間違いはあるにせよ。

ただ、リチウムイオン電池に関するシーンの部分では、実際の担当者が「なんでこのキャラクターがバッテリ担当なんだよ〜」と嘆いていました(注:宇宙戦艦ヤマトの登場人物、佐渡酒造が登場する)。……でも案外似てると思うんですよ、私から見ると。こんなこと言うと怒られてしまいますけどね(笑)。

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2005年の「はやぶさ Live blog」で栄養ドリンクのビンが増えていくくだり、あれは泊まり込みで大変だからと、2箱買ってきたんですよ。で、箱を台にしてその上にキーボードを置いてブログを書いていたんです。

順次飲んで作業していたのですが、「はやぶさ」からの写真は定期的にしか降りてこないから、間が持たないんですよね。

それで寺薗君(元カメラ科学観測及び広報担当 寺薗淳也氏)とふたりで「じゃあブログ書いてる風景でも撮りましょうか」「何か面白いことしないとね」「ビン並べようか。どうせ増えていくし」って。それでだんだん数が増えていって、最後は10本並んでいるわけです。

順次ww 身体に悪そうwww

吉川 いつも宇宙研では、ミッション紹介ビデオを作るんですけど、リラックスして見られるのにしましょうと私が提案したところ「祈り」というコンテンツが誕生しました。それがまた発展しまして、大阪市立科学館などで上映されている「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」につながっていったわけです。

2作品を比べると、「祈り」のほうではカプセルについてのみ言及していて、本体は何も触れてないんですよ。

ところが、「HAYABUSA BACK TO THE EARTH」では本体も突入してばらばらになってしまうシーンをぜひ入れたいと。どうしようかと考えたのですが、川口先生は「いいだろう」ということなので、こちらは最後にばらばらになるシーンが入ってます。これだけ物語的になった探査機ミッションというのもなかなかないですよね。

あのシーンまで入れたのは大正解でしたね。本物はそこまで辿り着けるかどうかという状態でしたが、結果的にほぼ完璧に再現してしまいました。

的川 一般の人たちに比べて、政治家、お役人さんはどうもそれほど宇宙に関心がないというか……日本の将来にとって、宇宙が非常に重要な分野だと思っている、というようには私には感じられないですねえ。残念ながら。

アメリカにしろ中国にしろ、宇宙先進国の元首というのは、必ず宇宙開発について演説で触れますけど、日本の総理大臣の演説には出てこない。

川口 宇宙開発が始ってまだ50年くらいしか経っていません。(ひとつのプロジェクトに)何十年もかかるというのは錯覚です。宇宙開発そのものの目的、ゴールにポリシーがないからですよ。ポリシー、国として宇宙開発に何を期待するかということがはっきりしていれば、それでいいわけですよ。

即物的な、資源の調査だったり、地球観測だったりすぐ役立つものばかりを期待していると、あまり惑星探査なんかするなよ、になっちゃいますよね。役に立つもの以外はいらないと思ってしまったらもう先はないです。

宇宙開発で何が大事かというと、すそ野が広い総合科学技術活動ですから、研究開発だけじゃなくて、ほかの産業にも刺激を与えていく、インセンティブなんです。

そこへ引っ張っていくための政策なんだ、というように考えない限り、宇宙開発を進める理由がないと思いますよ。投資リスクがあるなら国際協働もあるかもしれません。どんなメリットがあるかを政策として意識しないと続けられなくなりますよ。

日本はその辺が希薄ですよね。まあ毎年のように首相が入れ替わっているような有様じゃもはやこれに限った話ではないかも知れませんが。