はやぶさ帰還ニコ生中継・準備編 [野尻blog]

作家・野尻抱介さんが「はやぶさ」を見届けるためにウーメラへ出向いた際のレポが上がっています。

 小惑星探査機「はやぶさ」とのつきあいは打ち上げの3年前、小天体探査フォーラムで中の人と知り合ったのがはじまりだ。そのはやぶさがオーストラリアに還ってくる。この10年の集大成としてぜひとも現地で出迎えたかったが、いかんせん先立つものがなかった。「ネットがあるさ」と自分に言い聞かせ、おとなしく日本から見守るつもりでいた。
 だが、当日の月齢が新月だと知って欲求がぶりかえした。降るような星空のウーメラ砂漠で、はやぶさの最期を見届けたい。
 悶々としながらTwitterのタイムラインを見たら、ちょうどドワンゴの川上会長がいた。いちかばちか「20万円くれたらオーストラリアではやぶさの取材します!」とねだってみたところ、意外にもOKがもらえた。
 実はそれ以前から公式ニコ生ではやぶさ特番をやる話があって、私はスタジオ側にゲスト出演することになっていた。その段取りを勝手に変えて、スタッフに迷惑をかけてしまった。わがままを言った以上は相応の仕事をしようと思って、はやぶさの帰還プロセスを徹底的に調べた。

さて、ニコ動に「はやぶさ」カプセルから受信したビーコン音がライン録りでアップされています。


なんと元気な産声…。

おかえりなさい、はやぶさ探査機 [三菱電機]

こちら三菱電機の読み物コーナー。

 はやぶさ探査機の大気圏再突入で、幸運なことがふたつあった。ひとつは時期が深夜の時間帯であったことである。カプセルも本体も、大気圏再突入によって、厚い大気との摩擦によって高温となり、明るく光る。言ってみれば、巨大な人工流星になるのである。これは、私のような流星を研究している者にとっては、格好の研究材料である。というのも、流星は通常、組成も構造もわからないために、光り方から推定せざるを得ない。人工物は、組成も構造もわかっているから、それがどんな現象を引き起こすかを見ることで、逆に天然自然の流星の構造や組成を解く鍵が得られる。

 もうひとつ幸運だったのは、再突入時期がちょうど新月期であったことだ。つまり月明かりが全くない条件である。オーストラリアのアウトバックで、新月期となれば、日本ではもう滅多にお目にかかれない満天の星空に出会える。まぶしいほどの中天にかかる天の川は、その明かりで影をつくる。かなりの天文ファンでも見た経験が少ない黄道光や対日照といった現象も見られるのだ。

 実際、われわれが拠点としたクーバー・ペディは、その夜、完璧とも言える快晴に恵まれた。5時間前にセッティングを終え、星明かりの中ではやぶさを待った。中天には南十字がくっきりと輝き、車のボンネットには天の川が映えている。まぶしかった金星も、地平線に近づくにつれ、まるでカクテルライトのように緑、青、赤、オレンジ、黄色と秒単位で色を変えながら沈んでいく。東の地平線からは、はくちょう座が上ってきて、天の川沿いに、北十字はくちょう座)から南十字までが輝く。銀河鉄道の夜の始発から終着駅まで一望できる。そんな中、次第に予定時刻が近づくと、緊張が高まってきた。10分前からカウントを始める。5分前、3分前。。。そして、23時21分。突入時刻1分ほど前には、みな無言でシャッターを切りはじめた。


 22分を過ぎた頃だろうか。南西の空にオレンジ色の光点が出現した。
「来た! 来たぞー!」
「おお、明るい!」
「すごい! 予定通りだ。」


 深夜のオーストラリアの静寂の夜に、歓声とシャッター音とが響き渡る。私は必死に、ばらばらになりながら輝くはやぶさ探査機本体に先行するカプセルを注視した。カプセルの切り離しは、地球大気圏再突入のわずか3時間前であった。そのため、カプセルと本体との距離は、それほど離れていない。両方がほとんど同時に大気圏に突入してくるのである。そのため、万が一、本体の破片が減速する先行のカプセルに衝突したりすると、たいへんなことになるのである。

「当たるなよ、当たるなよ!」

渡辺淳一先生も現地で「はやぶさ」を迎えられたようです。

文字通り目に見えないようなサンプルも見逃さない作業。