【話の肖像画】はやぶさの挑戦(上)宇宙航空研究開発機構教授・川口淳一郎 [産経]
−−カプセルは大変貴重な分析対象。それをすぐに公開したのはなぜですか
川口 そんなに早く出さなくてもという意見はあったが、やはり皆さんがスポンサーなんです。誰のための宇宙開発なのかという観点が一番大事。最優先はもちろん分析だが、保管のためにお蔵入りさせたら国民の目線から見たときにつながりが分かりにくい。
これは大正解でしたね。
−−はやぶさの場合、ゴールは地球への帰還ですね
川口 地球に戻らなければ、それまでどんな苦労を重ねていようが国民からは理解されずに終わる。関係者の中ではノウハウとして残りますが、それ以外から見ると結局は失敗でしたね、ということになってしまう。そういう恐ろしさがある。
−−成功と失敗の線引きに世間との違いがある
川口 われわれはやっぱり視野が少し狭いんですね。専門分野にいますので、各要素では「こんなに良くできたじゃないか」と思うのかもしれません。だけど世間の評価はあるとき厳しく、時には意外なほど寛大だったりする。われわれの視点が及ばない観点で見ていただくことが多い。
「失敗だ」という評価を下すのもものによりけりで、工学実証を目的とした「はやぶさ」のようなミッションで大雑把にそう断じることは逆に成果を有耶無耶にすると思っています。なのでこれだけ詰め込んだ挑戦的なミッションを、傷だらけになりながらも一通りこなしてみせたことはやはり大きかったですね。