「放射性物質可視化」に関わる記者会見 超広角コンプトンカメラ『ASTROCAM 7000HS』 起こし

今回もNVSさんの中継動画から勝手に起こさせて頂きました。ていうか前回発表された試作機からわずか半年で製品化の目処ってハンパないスピード感ですね! しかも相当に小型軽量化されています。コンプトンカメラ周りにはMHIが関わっていたんですね。センサの枚数でカスタムメイドできるというのも面白いです。さすがにその部分がダイレクトに価格に反映されるようですが、数千万円なら従来品と大きく変わらない価格帯で投入出できそうですね。しかも可視化性能が強烈ですからこれは捗りそうです。従来のピンホール型との違いは以下に詳しく。
っていうか「ASTROCAM」ってネーミングはやはりASTRO-Hから取ってるんでしょうかねw

登壇者:
三菱重工業株式会社 航空宇宙事業本部 誘導・エンジン事業部 電子システム技術部 主席技師 黒田 能克
電子システム技術部 ソフトウェア設計課 主席チーム統括 米田 宗弘
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所宇宙物理学研究系 教授 高橋 忠幸



高橋教授:本日は我々が開発し福島で実証を行った超広角コンプトンカメラ(今年3月にプレスリリース)を実用化する試みの目処が付いたのでご報告。どのような展開で本日の発表に至ったかをお話ししたい。
JAXAは3月29日に「「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化に向けた実証試験について」というプレスリリースを行った。次期X線天文衛星ASTRO-H搭載を目的とした非常に高性能なガンマ線検出器を開発してきた。福島での事故が起こり、東京電力からその技術を使って速やかに現地での放射性物質分布の可視化をできないかという問い合わせがあり、この国難に皆で立ち向かわねばならないとの認識でASTRO-Hの技術を使い大急ぎでカメラを作った。


新しいコンセプトに基づいたガンマ線検出器で、「超広角コンプトンカメラ」と名付けた。その名の通りほぼ180度という非常に広い視野をカバーし、かつセシウムヨウ素といった放射性物質の固有なガンマ線を識別でき、敷地や家屋に広く分布した放射性物質を画像化可能。サーベイメーターでは困難であった高所や山の中でも使用できると期待。
左の写真が試作機。大急ぎで作ったもので、手作り感満載と言われた。一般に使われている検出器はピンホールカメラといって遮蔽して小さな穴を開けたもの。コンプトンカメラの原理は半導体検出器で散乱されたガンマ線がエネルギーを失っていく過程を測定することでエネルギーや方向が分かる。ビリヤードをしていて球の動きが分かればどう突いたか分かるというようなもの。実際には円弧状に制限されるので複数のガンマ線のクロスした点にガンマ線源があると分かる。


当時飯舘村で環境放射線分布の試験を行った。我々と原子力機構と東京電力の3者。原子力機構は別の装置を持っており、現場で歩きながら測定。我々の装置の測定結果と比べた。当時は公開しなかったが、これは超広角コンプトンカメラで画像を撮るのと同時に測定したスペクトラム。横軸がエネルギーで縦軸がカウントレートのヒストグラム。特徴的なのは、放射性セシウムからは固有のエネルギーを持ったガンマ線が出ること。これがどこから飛んでくるか分かれば分布が分かる。魚眼レンズで撮った普通の写真にコンプトンカメラで撮像した画像を重ねる。605、662、795、802というセシウム特有ラインのガンマ線。ほとんどがセシウムから来ていると分かる。赤いところは強度が高く、青いところは強度が低い。実際サーベイメーターで測ったものと我々のカメラで撮ったものが一致。点線は視野を表している。少なくとも1回で我々の前方にどう分布しているかが分かる。


(前回の)記者発表で皆さんからよく聞かれたポイントとして実用化時期や測定時間、可搬性などがあった。我々は現地に行っていたので非常によく理解できた。こればかりをやっているわけではないが、この大変な時にどうやってお役に立てるか考えつつなかなか次のステップが踏めなかった。その後5月に富岡町に行き測定試験をした。写真に畑と道路があるが、草むらの根っこの所に放射性物質が分布していることが分かる。どう改良すればいいかだんだん分かってきた。


ちょうどJSTにおける先端計測分析技術機器開発プログラム・放射線計測領域で、今回の原発事故に対応して最先端のセンサを持ち込み実用化していくプログラムが公募された。我々はここに応募し、実用化事業を認めて頂いた。ステップ1としてASTRO-Hに搭載予定だったものをAという装置やBという装置からかき集めて作ったもので、カメラが2台あった。実用化に向けての課題として「高感度化」「軽量・可搬型」「使いやすいソフトウェア」。大型化による高感度化を行った。並行して元の超広角コンプトンカメラの技術を使って可搬型機「ASTROCAM-7000」を試作した。実用化に向けた改良機の試作は我々JAXA三菱重工名古屋大学共同でJSTプログラムの中で行った。現在各要素技術の試験が終わり目処が立ったので三菱重工による商品化(ASTROCAM-7000HS)を企画した。


放射性物質見える化カメラの開発・販売について

米田氏:製品概要をご説明。プロトタイプ機ASTROCAM-7000(会見場に展示)。これを改良したASTROCAM-7000HSという商用機を販売する予定。放射線を測定し放射性物質の分布を可視化する。放射線が飛んでくる方向を特定することで可視化を行っている。また、放射性セシウムヨウ素といった種類を判別できる。JAXAが中心となり開発に成功した超広角コンプトンカメラを応用したもの。福島県で有用性が実証されたコンプトンカメラの商用機として製品化。それにあたって実証実験での課題として挙がった可搬性・利便性の改善を反映している。ガンマ線が飛んでくる方向とそのエネルギーを同時にリアルタイムで計測した結果を計算し可視化する。可視光カメラの画像に測定結果を重ね合わせ放射性物質の分布を表示する。判別できるのはセシウム134・セシウム137・放射性ヨウ素他多数。


商用機ASTROCAM-7000HSの外観図。特徴は宇宙での高感度ガンマ線観測技術を応用したもので、半導体検出器を用いコンプトン散乱の原理を応用し可視化を行っている。180度という広い視野で放射線の種類ごとに可視化。本製品の位置づけはホットスポットを簡単に可視化し、除染前後の放射線のモニタや除染に伴う放射性廃棄物の管理、原発施設でのモニタリングなど幅広い用途に適用できる付加価値の高い製品であること。強みは3点。1つ目はコンプトン散乱の原理を応用した高感度センサ。2つ目は180度という超広角・広範囲。3つ目は耐ノイズ特性。測定対象以外の放射線(環境バックグラウンド)の影響を受けにくく確実にホットスポットを可視化可能。


商用機での改良点は大きく4つ。1つ目は測定時間の短縮、当社が得意としている電子機器の高密度実装技術によりセンサを複数重ね合わせることでセンサ感度を向上。2つ目は冷却機構の内蔵。測定が長時間行えるようにセンサを冷やすための冷却機構を内蔵している。3つ目はデザインの一新。最後、に使いやすく操作性に優れた測定用ソフトウェアを付属。


他社製品との比較。数社より同様のカメラが発売されているがこれらはガンマ線計測をピンホールカメラ方式で行うもの。一般に公表されている情報に基づき比較した図(非常に広い角度・距離)。コンプトンカメラの原理を応用した特徴が現れている。


今後の展開

黒田氏:現在実用機の設計・開発中だが2月には製品版が完成し年度内の販売開始を考えている。JSTプログラムでの結果を踏まえて現地試験を踏まえ設計にフィードバックしより良いものにしていく。福島第一原発事故に伴う復興作業の確実・迅速な実施が必要。そのためのツールとして放射性物質の分布を可視化する装置へのニーズは高い。各省庁・地方自治体・電力会社への提案を進めていく。短期間の利用など多様なニーズに応えるため、リースも検討中。


VTR

25倍速の映像。観測された輪っかの交点が放射線源としてリアルタイムに識別される。


質疑:

日刊工業新聞:製品の価格帯のイメージは。市場規模・販売目標は。
黒田氏:製品は開発途中なのでジャストの数字を申し上げるのは難しい。大体は数千万円だが幅がある。製品の特徴としてセンサを重ねている。コンプトンという新しい原理で撮像しているが、短時間で撮りたい、時間がかかってもいいなど様々な要求があり、センサの総数を変えることで対応する。ここがこの製品の命で、センサの枚数が価格を大きく左右する。レンジが広い。製品開発を終えればまたご説明したい。市場は我々としては年に数十台規模ではないかと思っている。
―試作機から測定時間はどれくらい変わったか。
黒田氏:プロトタイプ機ASTROCAM-7000の1/10を狙っている。簡単に言うと10分かかっていたのが1分を切る時間で画像を得られる。
高橋教授:我々が作ったものはシリコン2枚にカドテル3枚のカメラを2つ使っている。これを飯舘村に持って行くと30〜40分で見えてくるという状況だった。プロトタイプ機ASTROCAM-7000にはシリコンが1枚入っているので半分の性能だが冷却性能や可搬性に特化している。最終的にはシリコン8枚・カドテル4枚で1枚あたりの面積が大きくなっている。単純に見ても20倍の感度性能。時間に換算すると1/10以下。


宇宙作家クラブ:高橋教授へ。本来ASTRO-Hではどのような観測に用いられるセンサか。
高橋教授:ソフトガンマ検出器というものはこのコンプトン技術を用い更に沢山捉える。宇宙から来るガンマ線は非常に限られており、1万秒経っても観測できないようなものをそれより遥かに多いバックグラウンドから探すもので、ASTRO-Hではこれに加え狭視野のコンプトンカメラを開発している。これは独自の技術。観測対象は例えば巨大なブラックホールに落ち込む寸前の物質から放出されるガンマ線超新星残骸。ブラックホールでどのような現象が起こっているかは未だ宇宙物理の謎であり、それに対して10倍以上の感度で観測しようというもの。


NHK:黒田さんへ。用途として最も想定しているのは除染? これを使うことでこれまでの除染作業はどのように効率化できると考えるか。また自治体にとって数千万円は高額だと思うが、リースはどのようなイメージで考えているか詳しく。
黒田氏:このカメラは従来の物とは全く違い、180度全部見える。比較図、例えば50m×50mのエリアを確認する場合、ASTROCAM-7000HSでは2回(約2分)で撮影。他社のピンホールカメラだと視野が狭いので何度も測る必要がある(約250分)。除染作業の迅速化に寄与できるのではないか。ピンホールカメラだと視野が狭く前に進んでいいのかというのもあると思う。これだと横・下・真上すべて一度に見えるので進行方向にどういう放射線源があるかすぐ分かる。様々な作業が効率的に早くなる。価格帯については少しでも下げるべく努力するが、時間との戦いもあるので苦慮している。その1つとしてリースという考え方もあるので、レンタルして我々のメンバーがサポートに入るというのも検討中。
―高橋教授:除染については会社が色々ありそれぞれやり方があると思うが、除染前にしっかり撮像しておいて、現れている箇所を重点的に除染し、除染後にもう一度撮って取り残しがないか確認する。ホットスポットの候補地が分かっていれば迅速に除染が進むと思っている。


―毎日:前回の説明会で、画像からは放射性物質までの距離が分からないため線量計で1つ1つ測らなければいけないウィークポイントがあると伺った記憶があるがそこは改善されたか。
高橋教授:デジタルカメラにしても距離が必ずしも分かるわけではない。人間は両目を使って遠近を測るが。ただしこの図でいえば明らかに建物横の側溝に沿って放射性物質があると分かるし、人間が考えてやればいい。また私はここまで小型化できるとは思っていなかったが、ここまで小さくできると複数台持っていって三角測量の原理で距離情報を得られるのでは。また我々のカメラは180度撮れるので、2台持っていかずともA点で撮ってB点で撮って組み合わせることで3次元的な情報も分かるだろう。初めてできるようになることなので、学術的な興味として非常に面白い。完成後に試験を行えれば実際にその可能性を確かめてみたい。
―スペック表によると数μ〜10μSv/h以上とある。福島第一で使うとなると実際にはもっと高線量だと思うが、そこでは使えないのか。

高橋教授:線量が高い所でも十分観測できると思う。ただしあまりにも線量が高いと10枚・20枚という層があると真っ白になってしまうので、逆に1枚に削り込むことでフィルタをかけるようにできる。逆にこれが特徴でもある。やってみないと分からない部分もあるが、感度は時間が関係する。長い時間見れば低いところでも見えるようになる。色々やり方がある。先ほど三菱重工側から色々バリエーションがあると説明があった部分。

―黒田氏:やってみないと分からないが技術的には可能。我々も環境を理解してないという部分があるので。
―高橋教授:現地に行ってどのようなことが求められているか調べてから。μSv/h環境でどうかは自信を持って言える。調整の結果を踏まえてお話しした方がいいかと。
―黒田氏:大変放射線が厳しいので。我々は宇宙をやっているが衛星にとっても宇宙放射線は大変厳しい。我々は耐放射線LSIを開発しているが、その組み合わせでどこまで行けるか。宇宙より遥かに強いところもあるかも知れない。


マイナビ:黒田さんへ。商用機でサイズ・重量はどれくらいコンパクトになるか。
黒田氏:プロトタイプは6〜7kg、量産機は8kg。ピンホールカメラは何十kgもあるがそれよりも大変軽い。サイズは285mm×200m×375mmで収めたい。
―スタッフを派遣する、使いやすいソフトウェアというような話があったが、特殊なトレーニングが必要か。
黒田氏:量産機ではマンマシンインターフェイスを相当良くしようと思っており、特殊な技術は必要としないようなソフトウェア。ソフトは今年度に間に合うかは分からないが、過渡的にサポートが必要かも。


―朝日:高橋さんへ。超広角を実現したのはシリコンとカドテルを組み合わせたことが技術的に大きいのか、それとも他社も同様だが要素を付け加えてこれだけのものを実現したのか。他社とは例えばどこがやっているか。
高橋:これまでコンプトンカメラの原理を用いて商用機が出たことは無い。色んなフィールドがあるが、医療などでも次世代技術として各国で研究されているもので、実は日本が一番乗り。コンプトンカメラの実現には色々な方法がある。散乱と吸収という2つの過程をどのような検出器で実現するか。我々が最も苦労したのは散乱も吸収も全て半導体イメージャで作ったこと。散乱は「すざく」でやったが、吸収させるところは我々は10何年かけて開発してきた高いエネルギー分解能を持つガンマ線イメージャ。そこから数百チャンネルという電極が出て、信号を処理する機械もアナログLSIを使い完全にコンパクトにする。今までは人の高さくらいあった。これほどコンパクトにできたのは日本の優れた半導体センサあって初めて実現できたもの。商業としても初めて。日本の優れた技術が全ててんこ盛り。科学衛星というのはそういうものを要求する。それが今回物凄く役に立った。
広い視野角を得るためには各レイヤーのギャップを極力小さくする必要がある。今までよく医療用などで使われるのはピンホールカメラ。鉛の遮蔽がある。セシウムガンマ線はエネルギーが高く5cmくらいの鉛じゃ無いと遮蔽できないので感度を上げようとするとどうしても重くなる。有効面積は穴の大きさによるが小さくしないとイメージが撮れないというのもあり、セシウムに適用するのは極めて難しい。新しい原理が必要。それがコンプトンカメラ。


フリーランス大塚:高橋先生へ。今まではピンホールタイプのガンマカメラ。以前原発のロボットを作っている先生に伺ったときに前方からガンマ線が来るので周りを遮蔽しないと駄目だと。鉛が大変だと困っているという話だったが、コンプトンカメラは原理的に遮蔽が不要か。後ろから来ても問題ないか。
―高橋:後ろから来たということが分かれば問題ない。これがコンプトンカメラの非常な特徴。ただ周りから来たときにそれなりの工夫をしないと感度が上がらない。そこはソフトウェア研究。
―HSはハイスピードという意味か。
黒田氏:仰るとおり。