崖っぷちの「はやぶさ2」、一体どこへ向かうのか? 新宇宙開発計画案、公表される(その2) [日経BP]

 しかし、いざ「はやぶさ2」構想の内部審査が始まると、宇宙科学関係者から「自分の学者生命にかけてこのような意義の低い計画は認められない」というような反対意見が出たのだ。JAXA首脳部は困惑し、「計画を前に進めるにあたっては、まずは科学コミュニティ内部の意見を統一してもらいたい。でなければ予算獲得にあたっての国民からの理解が得られない」として計画から一定の距離を置くようになったのだった。

 まず、注意しなくてはいけないことは、一般に科学者の間で「あの研究の意義がある、ない」という議論は日常的なものであることだ。そして、その意見が一つに収束することもまずあり得ない。皆、自分の研究に絶対の自信を持っており、科学者の良心として自分の意見を貫徹しなくてはいけないと考えているからだ。

 しかし、財政当局を説得して百億円を超える予算を獲得しなくてはならない宇宙科学計画では、そのような“科学者の常態”は、外部からは意見不一致にしか見えずに大きな不利となる。

 結果として、ISASは四分五裂が常態の科学コミュニティの意志を外部に向けては統一して予算を取っていく役割を担ってきた。ISASが科学コミュニティの意志の統一を演出することで、はじめて予算を獲得でき、日本の宇宙科学は大きく進展した。逆に見ると、科学コミュニティはISASに庇護されて「科学の自治」「学問の自由」を謳歌してきたのである。

 2003年に宇宙三機関統合でJAXAが発足し、ISASJAXA宇宙科学研究本部となると破滅がやって来た。文部科学省が予算不足を理由に、ISASが科学衛星打ち上げ用に運用してきたM-Vロケットを廃止してしまったのだ。コワモテの体育会系組織として科学コミュニティの意見を統一して予算を獲得してきたISASだが、ロケットを失ってしまったので押さえが効かなくなった。

つまり省庁統合とそれに伴った主導権の再編によってトップダウンどころか科学コミュニティの押し合いへし合いに振り回され、持て余す様相を呈しているということですか。

 それでも、この2年ほど「はやぶさ2」計画がじりじりと前進して来たのは、「はやぶさ2」を進めるサイエンスチームの人事で、かなりポリティカルな動きがあったためだ。各観測機器の主任研究者(PI)は軒並み「はやぶさ」での運用経験者が退き、新しいメンバーとなった。今年9月にはプロジェクト・マネージャーの交代を含む計画管理体制の大幅刷新が行われた。ありていに言えば、反対者を説得しチームに組み入れることで「科学コミュニティの意志統一体制」を作り上げたのである。

先のプロマネ交代も何やらかなりの力業の結果だったようです。ここまでしなければ通らないというのも、ねえ。ちなみに先日の松浦さんが出演したニコ生によると、野田首相は満額付けるように指示を出していたそうです。目を通して頂けたかは分かりませんが、自分も直訴した甲斐はありました。まあ「はやぶさ2」に限らず、今後もこういう混乱は続くでしょうねえ。たまたま今回が「はやぶさ2」で非常に注目を集めているだけであって。個人的な印象ではSELENE-2やALOS-3なども似たような状況ではないでしょうか。