ISASコラム 小さな衛星の大きな挑戦 惑星分光観測衛星の世界 第8回:望遠鏡の力を借りて、姿勢の制御を / 小さな衛星の大きな挑戦 惑星分光観測衛星の世界 [JAXA]

 これは確かに厳しい要求ですが、今まで科学衛星で実現したことがない、というほどの精度でもありません。ただし、「ひさき」のコンセプトである標準バスを使って実現するとなると、話は違ってきます。5秒角の指向精度を実現するためにはさまざまな問題をクリアする必要がありますが、その一つに構体の熱歪みという問題があります。

 フルオーダーメイドの衛星であれば、なるべく熱歪みの小さな材料で衛星をつくるといった対策があり得ます。しかしながら、このようなアプローチは熱歪みが小さい専用バスを特別に設計するということになりますから、「ひさき」で採用している標準バスという考え方にはなじみません。

 この誤差を検出するための仕掛けが、視野ガイドカメラと呼ばれる装置です。望遠鏡が捉える惑星像は、最終的な観測装置である分光器の入り口(スリット)に比べて大きいため、スリットに入らない部分の像が分光器の入り口付近に映ることになります。視野ガイドカメラは、この“はみ出している”像を捉えて、望遠鏡制御用の計算機に送ります。計算機はその像の重心位置を計算し、およそ3秒に1回程度、姿勢制御系へ知らせてくれます。ですから、その重心位置の目標値をあらかじめ教えておけば、どのくらい姿勢を修正すればよいのかを姿勢制御系は知ることができる、というわけです。

このスリットが何ぞやというと、ファーストショットのプレスリリースにある月面写真拡大図で黒く写っている横線の部分です。黒い部分がスリットを通り実際に分光装置で観測されるエリアで、そこより外の部分はスリットからはみ出しており、はみ出した像を視野ガイドカメラで捉えて対象天体の重心位置を計算することで熱歪みによる誤差を修正しているそうです。これはデジカメで星を望遠撮影する時、ある程度方角仰角をセットしてからまず広角で撮影して追い込んでいくようなものでしょうか。このへんASNAROなどの地上観測衛星ではどのようになされているのかも興味あります。