若田宇宙飛行士 帰還後記者会見 起こし

今回もNVSさんの中継から起こさせて頂きました。ありがとうございます。以下敬称略。

―読売:リハビリの話があったが近況を。体調の変化は。
若田:昨日から技術的なデブリーフィング。帰還後から機能リハビリ毎日2時間。17項目の医学実験の被験者。このための1日数時間の医学検査。平衡感覚など滞在前後でほとんど変わらず回復。軌道上の運用設備が良好で、行く前とほとんど変わらない体力。規則的な食事運動が体力の維持向上に大切だと感じた。


フリーライター林:船長として一番大変だったこと、嬉しかったことは
若田:ひとつの目標に向かって一丸となり連帯感を持って物事にあたるときパフォーマンスを発揮できる。円滑なコミュニケーションが必要な条件。筑波はじめ世界各国の管制局ともコミュニケーションを維持するのが苦労した点のひとつ。機器故障などトラブルもあったがチームワークで大きな問題に至る前に問題を回避しミッションを進められた。嬉しかったのは一緒の食事。クルーでちょっと仕事から離れ和気藹々とした時間が楽しい思い出。


―産経:若田さんに続くコマンダーを排出することに必要なことは。どのような取組みをするか。
若田:日本人飛行士の中にはすぐにでもコマンダーとしてリーダーシップを取れる資質を持った飛行士が沢山いる。そのための機会を獲得していく努力を私をはじめとしてしていくこと。クルーだけではなく筑波の運用管制チームにも世界でリーダーシップを取っている人が沢山いる。運用を通してハードやソフトだけではなく人的な資質を高められた。ISSを通して得られた人の力、日本はより主体的にリードしていけるのでは。


ウクライナの政情不安。ISSの今後についても不安視されているが軌道上でどのように見ていたか。
若田:ニュース等を通して宇宙でもモニタしていた。飛行士の間でも議論をすることもあった。閉鎖環境で6人がひとつの目標に向かって仕事をしていく、家族のようなもの。仕事への影響は全くなかった。宇宙での仕事は人類の種の保存としての危機管理への取組み。世界中の叡智を結集しその目的のために科学技術立国が取り組む礎を築いた計画。後戻りの影響は大きい。協力の精神を大切にしこれらが宇宙以外の分野へも波及して欲しいという強い希望を持っている。


NHK:船長の任務を無事果たされた率直な思いを。
若田:船長として最も留意してきたのは安全な運用、健康管理。無事終了することができホッとしている。日本の国旗が付いた宇宙服を着て仕事をし多くの日本の皆さんの期待をかけて頂いていることを感じながら仕事をした。ハーモニー、和の心を大切にし日々の仕事をきちんとこなすことに気を付けてきた。私1人の力で出来たことでは無い。「こうのとり」「きぼう」など有人宇宙分野での日本の技術・信頼、ISSを支える日本のチームへの信頼あって私が初めてこのような仕事が出来た。チームの一員として嬉しく思っている。


―FM・NACK5:若田さんの出身地、さいたま市宇宙劇場プラネタリウムさいたま市長や多くの市民が集まり、お帰りなさいイベントが開かれた。「大変大きな誇りである」「宇宙を身近に感じることが出来た」との意見があった。若田さんの後輩であり未来のリーダーでもあるさいたま市の、日本の子供達へのメッセージを。
若田:さいたまの皆さんからの多くの応援を感謝している。埼玉で生まれ育ち色んな方にお世話になったが、航空機や宇宙にあこがれ目標をかなえることができたが、さいたまの皆さんに支えられこの道を進むことが出来た。1人1人皆さんが素晴らしい力を持っている。自分がこの分野ならどんなに辛くても頑張れる、多くの皆さんに貢献できる、そういう分野を見つけて自分の道を頑張って欲しい。夢から明確な目標を定め、失敗して諦めず努力することでその過程は将来の目標に至るための糧になる。目標に向かって頑張って欲しいと思う。


フリーランス秋山:超小型衛星放出を含め、実施されたミッションでこれは自信があるというものを
若田:多岐にわたる作業だったのでそれぞれが日本の科学の粋を集めた作業だったのでひとつというのは難しいが、超小型衛星放出は「きぼう」の能力を最大限に生かす作業だったと思う。エアロック・ロボットアーム・「こうのとり」を結集し、新しい利用方法を見いだした。タンパク質結晶実験など新たな薬品に繋がるデータ、世界をリードしていける分野だと思う。4Kカメラによるアイソン彗星撮影など、最新鋭の技術を用いて宇宙から地球や天体を見たりしたのも日本の技術をアピールできる良い機会だったのではないか。


―(海外メディア):
若田:日本はロボット分野で優れた技術を持っている。「きぼう」ロボットアームも様々な成果をあげている。新しい形で色んなロボット技術を駆使した実験が出てくることを期待している。その意味でこれまで経験することの無かったロボットの作業だったので楽しく行えた。(これはキロボの話?)


―朝日:ウクライナ関係、どんな話があったか。今後の利用についての見通しは。
若田:各宇宙飛行士の経験談など。私は1回目の滞在の前にウクライナでサバイバル訓練を行った。それぞれ経験してきたウクライナのこと、ウクライナでの仕事や家族などのこと。政治的な話題は少なかったと思う。2020年まで運用という合意があるのでこれには影響ないと理解。2020年までの運用をきちんと実行しながら先に繋げる努力が必要。忘れてはいけないのは1998年11月に第1部分のモジュールが打ち上げられてから15年、この間我々が積み上げてきた礎をさらに展開していくため各国が対話を通して努力していく必要。クルーの間では、ひとつの目標に向かってフロンティアを切り開けていくために必要なチームワークの精神を培えるような会話が多かったように思う。


―共同:ロシアとの関係だが、大局的に見て米露の関係は距離が明確になってきた印象がある。欧州などISS参加各国では日本が地政学的にやや距離がある話しだが、安全保障上の当事者ではないという意味で日本の役割はあるか、日本としてどう対処していくべきか。
若田:私はお答えする立場に無いと思うが、宇宙飛行士の経験から話せば宇宙活動は人類共通の目標に向けての営み。冷戦構造の中で米ソが競争しながら進めてきた様々な計画、その後のISS計画は冷戦時には考えられなかった。国際協力が実現してここまで順調に来られた事実を忘れてはいけない。宇宙以外にも大きく波及して欲しいという強い希望。日本は高い技術を持って参加している。ハーモニーの精神を大切にしながらISS、さらにその先へ、宇宙探査へ向けて日本が果たすべき、果たすことの出来る任務を積み重ねながら貢献していくべきではないか。


―読売:SpaceXのドラゴンが随分遅れた事あったが、補給物資の遅れなどの対処は。船外活動のチャンスは機会が無かったが心残りは。
若田:ドラゴンの遅れはこれに限らず、当初12月に予定していたシグナスも若干遅れた。安全にミッションを遂行するために必要な措置として多少の遅れがあるが今回もその一例だと思う。実験計画の遅れ、食料を節約したりする必要があるが、計画変更にフレキシブルに対応する。みんなの士気を維持できるよう食事時間などを使いコミュニケーションし結束維持に努めた。船外活動について、船外活動に限らず仕事は色々あり、タイミングや責任分担のバランスなど色々な要因がある。挑戦的な仕事もあり充実したミッションになった。


NVS:ライブ中継を拝見して非常にお元気そうに見えた。ソユーズでの(初めての)帰還はどうだったか。
若田:これまでスペースシャトルなど経験したが、星出・古川飛行士からはパラシュート展開・着陸などかなりダイナミックだと聞いていた。予想通りダイナミックな運用だった。意外にもパラシュート展開はかなり激しく揺れた。ソユーズの構造・安全設計などはっきり実感できる飛行経験だった。着陸後の1Gへの適応などはこれまでのシャトル着陸後とほとんど変わらない印象だった。これは宇宙での規則正しい運動が理由だと思う。


―時事:次の目標は?
若田:現在搭乗の決まっている油井・大西さんの飛行を成功させるため経験を生かして支援していくことが最大の目標。金井飛行士もいつアサインされても良いように準備が整っているので新人宇宙飛行士を支援していきたい。コマンダーとしての経験を生かし第2・第3のコマンダー輩出のため努力していきたい。ISSでやり残した仕事も沢山あると思っているし、現役を維持した上でこれまで通り仲間の宇宙飛行士の支援をしていきたい。地球低軌道以遠の月や小惑星・火星などフロンティアを展開していく中で日本の技術・リソースを生かし貢献していけるよう飛行士の立場で取り組んでいきたい。


―まだまだ飛びたい?
若田:生涯現役で頑張りたい。米露の飛行士には50〜60で飛んでいる人もいる。茨の道かも知れないがこれまでの経験を生かし日本の有人宇宙活動発展のために努力していきたい。


―テレ朝:2012年に星出さんが戻ってきた時に「いつまでもいたかった」という感想があったが、若田さんの感想を。
若田:宇宙での生活や仕事は新しい発見の連続だった。ISSで良かったと思うのは眼前に広がる青い惑星。故郷の惑星を我々が持っているということ。火星に行く時は母なる大地を2年半見ること無く生活しなければいけない。精神的なタフネスがISS滞在とは違う挑戦ではないか。ISSはそのために一つ一つ積み重ねていくための素晴らしい能力を持った実験・研究施設だと思う。獲得できるデータ・経験・技術を積み重ねていくべきだと感じた


日本の映像技術は素晴らしい。私達クルーが見たものをみなさんにお伝えできる。ただやはりもっと多くの方々に実際に宇宙に行って地球のすばらしさ、三次元的に広がる星々、宇宙の広大さを実感してもらえる機会が増えて欲しいと思う。より身近に感じて頂ける努力をしていきたい。民間宇宙旅行の話もあるが、より多くの皆さんに宇宙を経験して欲しい。


以上

まだ帰還後間もないですがとてもお元気そうでした。現役続行宣言も出たので非常に楽しみです!