初期機能確認期間の運用状況に関する記者説明会 起こし

今回もNVSさんの中継映像から文字起こしさせて頂きました。ありがとうございます。


また、今村さんも記者説明会の様子をレポって下さっています。非常に読みやすくまとめて下さってますのでこちらも是非。

「はやぶさ2」初期機能確認期間の運用状況に関する記者説明会 [ただいま村]

今回の配付資料は以下のページにて公開されています。

小惑星探査機「はやぶさ2」初期機能確認期間の運用状況に関する 記者説明会

登壇者:
プロジェクトマネージャー 國中均
ミッションマネージャー 吉川真
(以下敬称略)

運用状況について

國中:H-IIA26号機で打ち上げたのが去年12月3日。探査機分離以降約2日間のクリティカル運用を行いいくつかのオペレーションを行い、大変スムーズに執行しすぐさまクリティカル運用完了を宣言した。引き続き初期機能確認として搭載機器のスイッチを順番に入れて機能性能を確認する作業を実証中。大変順調に推移しており、2月末までを予定して作業中。残り1カ月ほどかかるが、より高度な協調運転などのデータ取り、試験運転に取りかかる。現在探査機の状態は大変万全。今後は3月を目処に巡航運転フェーズに入る。イオンエンジンで軌道変換を行い、本年12月頃に地球スイングバイを計画している。小惑星遷移軌道に移行し、引き続きイオンエンジンの噴射を行い2018年に目的小惑星に到着することを目指す。小惑星に到着後1年半をかけて精密なリモートセンシング、着陸点の決定、着陸、インパクタでクレーターを生成しそこに着陸という大変高度なオペレーションを計画している。これは「はやぶさ1号」の経験を踏まえてより高度なミッションを行うということ。より戦略的、計画的に小惑星の観測、試料採取を行い、1年半という短い期間でこれだけのミッションを実施しなければいけない。そこに向けてどのような順番で観測し着陸点を決めるかという段取りを決めるための相談、計画を立て、それに必要なソフトウェアの開発に本年度中に着手。ここまでは探査機を開発することに全力を投入してきたが、これ以降は小惑星観測に向けての作り込み。カプセル着陸を予定しているオーストラリア政府との交渉もある。キュレーション(サンプル受け入れ施設)の充足、分析するためのフレームワークの取組みも。


はやぶさ2の状況。昨年12月23〜26日にかけてイオンエンジンの試験運転を実施。4台あるイオンエンジン(ABCD)について1台ずつプラズマの点火・イオンジェットの加速を行い、正常な推力を計測し健全な状態であることを確認。1月7日〜10日にかけてKa帯によるダウンリンクの確立。日本の探査機としては初めての深宇宙におけるKa帯通信を実証。残念なことに国内にはKa帯受信設備が無く、NASAのDSN(ゴールドストーン局・キャンベラ局・マドリード局)の協力を得て実施した。周波数に比例して伝送量を増やすことができ、「はやぶさ1号」のX帯(8GHz)を用いていたが、Ka帯は32GHz。4倍の伝送量を確保。8kbpsが32kbpsに。「はやぶさ2」ではこれをオプション機器として開発しており、従来のX帯で十分な観測が行えることを前提にシステム開発を行っているが、これでより太いパイプラインでデータを降ろせることがほぼ確実になった。大変な朗報と受け止めてもらいたい。


年を明けて1月中旬にイオンエンジンの複数台運転および長時間運転を実施。巡航運転に向けて探査機が自律的にイオンエンジンを使いこなし加速し続けるということを目指した。複数台のエンジン、具体的には1月12日からAC、CD、AD、1月16日にはACDの組み合わせで探査機が地上からの監視なしで、危険であればエンジンを停止させることも含めて自動運転の作業を行った。特に1月19日〜20日にかけてはADの組み合わせで監視無しの24時間自動運転に成功。さらにACDでは28mN(1台約10mN)、ほぼ満足できる推力を発生出来ることを確認。エンジンは4台搭載しているが、2015年の1年間は2台運転ができれば地球スイングバイが可能。これはH-IIAが大変良いタイミングで打ち上げてくれたことにも関係する。当面は2台運転で十分であるため、ADでもって24時間運転を行っている。Bについては他よりもむしろ性能は良いが、バックアップに回してACDの使い回しで当面の軌道変換を行っていく。


エンジンの推力が重心を外れると姿勢が傾く。これはリアクションホイール(RW)で補正しながら姿勢制御を行い正しい方向へ運転していく。さらに推力の方向を調整し、RWの回転数が変動しないよう運転する「IESアンローディング」という機能も事前に調整した上で24時間運転に挑戦している。
1月19日に臼田局からの運用でイオンエンジンの加速を行った。深夜に可視がなくなる。心配であったので数時間はさんでDSNのゴールドストーン局から追跡し地上から5〜6時間監視。その後は可視がなくなり、20日夕方に日本から可視となり、同日19時に24時間に達し計画的にイオンエンジンを停止した。その時の管制室の様子を映した写真である。現在「はやぶさ2」は地球から2200万km、光の速度で往復145秒。コマンドを送り返事が返ってくるのに2分半ほどかかる位置関係。
サンプラーホーン展開画像。これは皆様の寄附金で追加させていただいたCAM-Cで撮影したもの。皆様のご協力のもと探査機に十分な機能を搭載することが出来た、その成果として確認できたもの。


質疑応答

−TBS:現在の軌道から小惑星へ向かう軌道に移るのは12月?


國中:そうである。現在はEDVEGAフェーズであり、地球スイングバイを実施するための1年同期軌道に乗っている。とはいえイオンエンジンの加速無しでは地球スイングバイはできないので完全な同期軌道ではない。全部3年半かけて小惑星へ向かうというふうに考えている。


イオンエンジンBも動いている?


國中、大変性能が良い状態である。


−「はやぶさ1号」でイオンエンジンに問題が起きたがどのタイミングでどのような問題があったか、またそれと比較して4台動いているという意味への所感を


國中:1号は初期機能確認の段階でAが健全で無いと判明した。推力が安定せず、自動・自律運転にかけるには心許ない状況であった。残りのBCDを使って軌道変換モードに入った。もともと3台を使い切れば往復できるという設計のもと予備1台を加えた4台で冗長系を組んで開発し運用に挑んだが、最初から1台無いというのは危ない状況であったと思う。イオンエンジングループとしては今回4台とも健全な状態で打ち上げるということを最大目標に挙げて開発してきた。初期チェックアウトは大変クリティカルである。イオンエンジンは湿気や真空度によっては良いオペレーションができない。良い真空であるとは限らず、特に打ち上げた直後は人工衛星自らガスを出す。温度を上げるとさらに揮発性ガスが出てくる性質がある。ベーキングといい、打ち上げ直後に温度を上げてガスを積極的に出す作業に関して1号の時は十分な知見が無く、Aを落としてしまうということがあったと我々は考えている。今回はその知見を活かし、12月19日、22日にイオンエンジンベーキングを行いその後単体試験を実施した。具体的にはイオンエンジンが搭載されている+Xパネル近傍を50度Cまでヒーターを付けたり姿勢を変えて太陽光を当てたり、またイオンエンジンからプラズマだけを発生させるなど複数の作業で暖めた。これにより非常に十分にガスを出し切って「枯らす」ことができた。このような工夫をしてイオンエンジンの試験に取りかかった。この点では1号の経験が非常によく活きて万全な状態でイオンエンジンを軌道変換に投入できたと評価している。往復運転に必須な3台に加え予備機を含めた4台で余裕を持って往復航海に乗り出せた。


−そこについて一言感想を言うならば


國中:先ほどの写真には私はカゲになってよく写っていないが、「やったな」という感覚。




−日本放送:数多る改良の中で最も成果を実感している部分は


國中:私はプロジェクトマネージャーとして全体を監督する立場にあるが、その前にイオンエンジンの技術者でもある。1号のこともありより完全なものを提供したいと考えていた。寿命もさることながら推力増強も目指し、1号の7mNから10mN、電流でいうと130mAから170mAまで増強した。約170mAのイオンビームをテレメトリで確認し、大変高性能なものをようやく4台まとめて宇宙で実現できたと自負している。



宇宙作家クラブ今村:地球からだんだん離れていっているが、地球スイングバイまでの間で一番離れるのはいつ頃で、どれくらい離れるか。


吉川:手元に数字が出ていないが、太陽座標でいうと現在の距離は2200万kmなので、図を見ると5000万kmくらいのオーダーではないか。




宇宙作家クラブ鈴木:会津大学の寺薗先生からの質問を代読。アウトリーチについて1号では後半になるにしたがって加速度的に質も量も高くなり大きな成果に寄与したと感じているが、「はやぶさ2」の場合はこの先どのようなプランを展開していくか。


國中:現在のところ打ち上げと初期運用に注力しているため、アウトリーチに対する努力が少ないというご指摘だろうと思うが、今後はアウトリーチについても展開していきたい。スイングバイも関心を高めるためいくつかの企画を想定している。各方面と相談して展開していきたい。


吉川:1号では自発的に色々な所からアウトリーチが出てきたという側面があり、それはそれで良いとは思うが、2でもなるべく多くの人に関心を持って頂きたいと思っており、そのために1号での経験を活かして2でも広い範囲のメンバーで構成したアウトリーチのチームを作っていて、内部で色々な議論をしながら情報を発信していきたいと思っている。




NVS斉藤:目標の小惑星の愛称の提案はもうされているか。地球スイングバイ後にという取り決めなどがあるか。


國中:なかなかナーバスな質問。色々な説明会で私が伺っているのは、1号の時はイトカワという大変いい名前を付けてしまったので、正直苦慮している。皆で考えたり、どう決めたら良いか各方面で相談しており、なるべく早く皆様のご期待に応えられるようにしたい。


イオンエンジンに関して、1号では発生電力などによって稼働台数をコントロールしたり人力でコントロールする面が多かったと聞く。今回の説明では自動で台数を決めて動かしたという文言があったが、コントロールする力がかなり備わっていると考えられるか。


國中:先ほどIESアンローディングアンローディングや外乱トルクを発生させない自動運転、異常な数値が出た場合に探査機が判断して人間の力を介せず自動停止させる、タイムラインで予定時刻に点火させるという機能は1号の機能を更に増強させて搭載したもの。全てコンピュータ制御であるが、実地で試験する必要がある。エンジン自体は4台全て健全であることを確認し、概ね自動でエンジンを操作できる機能を確認したが、より詳細にデータを見て調整する必要があるので2月末までは調整運転の期間を取らせて頂いている。3月から本格的な巡航運転に取りかかる段取りでいる。




−時事:1号の時は4台それぞれ特徴、癖があったと思うが、「はやぶさ2」のこれまでの試験運転では4台とも性能・機能的に均等であったり、運用しやすい状態か。


國中:ABCに関しては粒が揃ったものを作り上げることが出来た。機材の作り込み、部品の国産率向上。またエンジンだけではなくキセノンガス供給装置も1号よりかなりきめ細やかに流量制御できるようになっている。流量は変動すると当然推力も変動するが、その部分が大変首尾よく働いているので、推力は大変安定して運転できている。




宇宙エレベーターニュース秋山:Ka帯通信について。現在は対応している国内局が無いということで、臼田局の改修や増強はどうなっているか。それが可能な場合、NASAのDSNのようにどれと通信しているか分かるというような仕組みを作る予定はあるか。


國中:臼田と内之浦に64mと34mを持っている。距離が遠くなるとより大きなディッシュが必要となり、臼田局が非常に重要な設備になってくる。臼田は1985年の「さきがけ」「すいせい」の時に建造したもので30年になる。寿命の問題もあるので、JAXAとしては臼田後継として臼田局を作り替える計画。少しではあるが予算措置もあった。具体的なプランは検討中。X波、Ka波の設備を整えていきたいと希望している。運用中の探査機を広報するシステムについては私の知る範囲では今のところまだ考えていない。




−毎日:一般の人に巡航運転という言葉が分かりにくいと思うので、3月以降何が変わってくるのかということを教えて欲しい。また観測機器のチェックについてはどのように健全性を確認していくか。


國中:英語で言うとクルージングフェーズ。計画を立ててイオンエンジンを噴射して必要な軌道変換が出来たかをチェックし、ノルマの達成状況を鑑みて次の新しい起動計画を立て、ノミナルの軌道計画に近づけていくという作業。このようなPDCAサイクルを繰り返し。ウィークリーにイオンエンジンを噴射し、ウィークリーに軌道計画を立てという作業をこれから向こう3年半にかけて行っていく。このようなモードを巡航運転フェーズと呼んでいる。観測機器については現状では通電して消費電力が正常であるというところまでをチェックした。カメラ類は地球近傍で月を撮って正常に輝度が出ていることをチェックするなど、小規模なことは行っている。赤外分光計などは温度を下げないと機能しない。先ほど説明したガスが出きらないうちに観測装置を冷やしてしまうとそこにガスが凍り付いてしまう。そのため段取りを踏んで冷凍化する必要がある。低温を保たないと性能が出ない機器はまだ十分な試験を出来る段階には無い。また自由気ままに姿勢を変えることもできないので、見たい星がちょうど観測装置の前面に来た時に撮影するということを計画している。時期とタイミング、エンジンの動作状況をを見計らいながら、巡航運転中に時間を見つけて詳細な機能性能確認を行うことを計画している。




フリーランス青木:個々のイオンエンジンの推力が7〜10mNとあるが、ばらつきがあるということか。

國中:キセノンガスを十分入れた方が点火しやすいということがあり、そのような最大性能が出ないところで試験を行ったという経緯がある。最大性能の出ない、外れた所で運転しているので、いくつかのエンジンについては10mNではなく7mNと実測されている。その後の3台運転では最大推力が出るところで運転したので28mN、1台平均で10mN近く出ている。性能としては全く遜色ない。


−2号機ではイオン源と中和器それぞれ長寿命化されているのか。


國中:そういう取組みを行った上で打ち上げを目指している。


−2号機ではクロス運転の機能が最初から組み込まれているか。またそれは2台〜3台と自由に組み合わせられるか。


國中:そういった1号の機能も全て取り込んでいる。しかしながらその機能は使わずに帰ってくることを皆様にお知らせしたいと思っている。




フリーランス大塚:初期チェックで概ね順調だったと思うが、あえていうならここが少し上手くいかなかったという部分は何かあったか。


國中:あまり思い当たらなくて難しいが、これまで日本からの可視が夜だったので人の手配が大変だった。さきほど地上局の話もあったが、やはり探査機単独で動いているわけではないので、地上系の設備や運用を行う人がいる。私が特に心配しているのは、小惑星近傍に到着してからは1年半しかなく、その間DSNのサポートも受けながら24時間連続でオペレーションして沢山のデータを取ってそれを分析することになる。8時間3交代で1年半やり切らなければならず、それに樽技量を持つスタッフを揃えないといけない。沢山の人で探査機を支えるということと、データを分析してどこに何があるか、どこが面白い場所かという科学的データを積み上げて着陸点を決めないといけない。どうやって人を揃えて育てて3年半後に備えるか、大きな陣容で臨めるか、ハードウェアではなく人間、組織を作り上げることが一番心配している事柄。そこへ向けてJAXAはもとより研究期間の方々から努力やエフォートを投入して頂かないといけない。是非ともご協力頂いて万全な体勢で他国に負けないような小惑星探査をしたい。


−3月以降のところで太陽光圧関連の項目がある。1号機で行った姿勢制御関連のことかと思うが、具体的にどのようなことを行うか。


國中:軌道決定するためには探査機に加わるが威力を精密に分析しておかなければならない。探査機に加わる最も大きい力は天体の重力。その次がイオンエンジンによる動力。その次に大きいのが太陽輻射力。比率でいうとそれぞれ100倍、100倍、100倍。太陽輻射力は日所に微力なので地球にいると感じないが、宇宙では3番目に大きな力。それは探査機表面の反射率や形状に依存するので地上で測るのも難しい。探査機の姿勢を傾けるなどで様々な角度から計測しないといけない。非常に微少な力なので、大変時間のかかる作業になる。軌道がどれくらいずれたか、姿勢がどのように乱れたかを計測する。姿勢制御が不十分となり太陽輻射力を用いたというより前の部分であり、精密な軌道決定のために必須な作業。もう1つ、1号から増強して4台搭載したRWであるが、セオリーではスキュードという四角辺の斜辺に沿った搭載方法。今回はちょっと変わった方法で、XYZZという軸で搭載している。Z軸に2台。1号では唯一生き残ったZ軸だけで地球帰還を果たしたという知見があるからである。2号ではZ軸の1台を温存していこうと思っている。イオンエンジンなどの難しい運転を行っていない時はRWのXYZを停止しZの1軸だけで姿勢制御を行い、その際に太陽輻射力を積極的に利用して姿勢制御を行う。その点でも輻射力の計測は重要である。




−共同:イオンエンジンの連続自律運転は他の組み合わせで実施する予定はあるか。実際に自律運転に移行するのはいつ頃か。


國中:Bは温存していこうと思っているので、ACDの組み合わせで想定している。そのためAC、CD、ADの組み合わせで確認を行った。当面Bを使う計画は無い。頻繁に切り替えれば良いじゃないかというご指摘もあるかもしれないが、1号、2号に共通しているのはエンジン4台に対し電源3台ということである。そのためリレースイッチで切り替えて動作させることになり、現在リレースイッチはACDに接続されているがBには接続されていない状態。機械的なリレーなので、これを頻繁に行うのは多少不安がある操作。宇宙ではあまり無駄な操作はしないのがセオリー。ご多分に漏れず「はやぶさ2」でも必要がない限りはリレースイッチの切り替えはしたくない。そのためこのような作戦をとっている。2月もイオンエンジンとその他機器を使った協調運転の試験が目白押しなので、2月になってもイオンエンジンの運転はほぼ自動で行われる。今日現在も探査機と地球の通信時間は往復2分半かかる。地上で危険を認識してもそれは何分も前に起きたこと。何か危険があってもその対処はあらかじめ組み込んである。実質的には既に自動・自律運転は出来ていることになる。ただ3月からは巡航運転フェーズなのでそこからは本格的なフェーズであるということは間違いない。


−24時間連続自律運転はACやCDでも行ったということか?


國中:全部は行わなくても十分な性能は備わっていると考えている。ADで24時間自律運転を行っているので、その他も問題ないと判断している。



−今年12月に地球スイングバイを予定しているが、次の山場はこのスイングバイということになるか。


國中:精密に地球近傍のスイングバイポイントまで誘導なければいけない。イオンエンジンと併せ、微少な制御についてはRCSというガスジェット系も使うかもしれない。また精密軌道決定。これはJAXAの軌道決定技術、DSNのサポートによる軌道決定も組み合わせて行う。さらにDDOR、干渉計を使ったデルタドアという技術による軌道決定などふんだんに盛り込む。これらはなかなか難しい技術。このあたりが醍醐味、山場になる。




赤旗:自律運転について、1号ではすべて可視で指令しなければならなかったが2号では自律で出来る、という理解になるか?


國中:1号でも自律運転がなければ運用できなかった。1号は初めてだったので、探査機に乗せた状態でのエンジンの性質についてあまり理解していなかった。1号では元来探査機が持っている自動・自律機能をふんだんに使って打ち上げ以降に組み込み自動自立運転を行っていた。「はやぶさ2」では始めからその知見・知識があるので、イオンエンジンが本来持たなければいけないコントローラーに自動制御機能を盛り込むとともに、さらにその上から探査機のコンピュータがエンジンを安全のために重複して監視するという二重三重の監視機能を設けて作り込まれている。自動・自律運転が出来たかできなかったかというと1号でも出来ていたが、それをより計画的・戦略的に使ってより安全な航海ができるように作り込んだので、初期運用期間が打ち上げからまだ2ヶ月も経っていないが、この段階でこの場でご報告できるのは1号からの大変な進歩だったのではないかと思う。1号では5月に打ち上げて、運転できるようになったとご報告したのは8月以降だったのではないかと思う。


−地球スイングバイまでにこれから基本的に2台で運転するが、どれだけの日数を運転するか。


國中:ノミナルで2ヶ月ほど。




フリーランス森山:何度か出ているIESアンローディングがどういうものなのか


國中:IES=Ion Engine System、アンローディングはリアクションホイール(RW)のアンローディング。RWとは回転する円盤で、この反動で姿勢を安定化する。「はやぶさ2」ではおよそ3000rpmが適正な回転数。姿勢を乱す外乱が加わると、回転数を増減させて姿勢を元に戻すという機能があるが、先ほど申したように太陽輻射力などで姿勢が乱れてくる。すると(トルクが蓄積され)RWの回転数がだんだん上がっていったり下がっていったりし、それが適正な範囲を超えると良くないので、必要に応じてガスジェット(RCSなど)を噴射して回転数を戻す、これがアンローディング。これは燃料の消費を伴い、あまり行いたくない。もう1つの方法がIES。先ほど説明したのがRCS(Reaction Control System)アンローディングで、それと対になるのがIESアンローディング。イオンエンジンには推力方向を調節する2軸のジンバルに載っており、本来はイオンエンジンの推力が探査機の重心を押すようにすれば外力が加わらないが、わざと推力の方向を重心からずらせば回転力が発生する。これをうまく使うと、RWの回転数を安定化させることができる。これをIESアンローディングと呼ぶ。ただこれは2軸しかコントロールできないため、Y軸・Z軸以外のX軸については調整できない。そのためRCSアンローディングを全く使わないということはできないが、RCSアンローディングによる推進剤の消費はかなり抑えられる。




宇宙作家クラブ上坂:「はやぶさ2」を応援されている皆様はいまの「はやぶさ2」の状況を知りたがっていると思う。特に軌道情報が出てくる計画はあるか。


吉川:軌道決定グループが数値を出しているが、どこまで精度を上げるかによっては時間がかかるが、図にする程度なら問題ないので公開していく方向で考えている。どこまでの計画を出すかについては難しく、イオンエンジンをどれくらい吹けたかによってその次の軌道計画が変わってくる。どのような出し方が最も誤解が少なくて済むか議論している。概略は出せるが、スイングバイの日付が正確に出ないということも有り得るのでそこが難しい。いずれにしろ皆様にお分かり頂けるよう出していきたいので、もう少しだけお待ち頂きたい。


種子島で打ち上げた後に國中さんがカメラを向けられた時に「今はまだ笑えない、その状況では無い」というようなお話をされていたが、今はどうか。


國中:是非とも皆さんにお伝えしたいことは、我々が目指す1999JU3へ向けての航海が始まったということ。それに耐える探査機を宇宙に投入できたというお話をした。準備が整った。その意味では今日はちょっと笑わないといけないのかなと思うところ。申し上げたいのは今まさに航海が始まったところなので、是非ともこれ以降も応援頂きたいと思う。