月探査機打ち上げ、日中の格差はプログラム的探査の有無 [日経BP]

中国の月探査は、最終的には2020年代に独自の有人月探査実施することをも視野に入れた長期計画の一環である。今後2012年頃に無人着陸機、2017年頃に月の土壌を持ち帰るサンプルリターンを実施することが決まっている。

一方、日本の「かぐや」は単発ミッションであり、この先何をするのか、日本が月で何をしたいのか、今まさに文部科学省・宇宙開発委員会で審議中である。

中国が実践しているのは、長期の見通しに基づいて探査計画を連続的に立ち上げる、「プログラム的探査」だ。日本でも小惑星イトカワを探査した探査機「はやぶさ」の成功以降、プログラム的探査の重要性が指摘され、長期の探査計画を立ち上げようとする努力が関係者の間で続けられているが、今のところ実現には至っていない。

プログラム的探査は、計画的に探査に必要な人材を育成することも可能にする。今後、中国がプログラム的探査を実施することで、日本以上に層の厚い宇宙科学関連の人材を擁することになる可能性は大きい。嫦娥1号の打ち上げは、その第一歩だと考えるべきである。

まったくです。 SELENE2は2012年を念頭に検討されていますが、これはあと5年であります。 あくまで検討の段階なので2010年代前半と報道されてますが、事前実証の小型ミッションなども含めるとのんびりし過ぎではないかと思えてきます。

嫦娥1号は、子細に見ていくと保守的かつ手堅い設計を採用していることが分かる。探査機本体は、長征3Aロケットで静止軌道に打ちあげるために開発した、「東方紅3号」通信衛星の構体(衛星バスという)「DFH-3」をそのまま流用している。月も地球も、太陽からの距離はあまり変わらないので、探査機にかかる熱的条件はほとんど同一である。このため、衛星バスの熱設計を大きく変える必要はない。衛星バスと打ち上げロケットとの適合性も確認済みであり、開発の手間が省ける。またDFH-3は、1994年以降5機の通信衛星に使用されており、軌道上で十分な運用実績を持っている。

確かに、以前から思ってましたが嫦娥1号は月周回観測実証機という印象を持ちますし、予備機まで用意してあるあたり周到しているなと感じましたね。

日本の「かぐや」が14種類のセンサーを搭載し、15種類の観測ミッションを実施するのに対して、嫦娥1号は搭載センサーを5種類まで絞り込んでいる。本体サイズでは、かぐやは2.1m×2.1m×4.8mである。嫦娥1号は2m×2.2m×1.7mなので、かぐやの半分弱の本体に、かぐやの1/3のセンサーを搭載していることになる。一方で重量はかぐやの3tに対して、嫦娥1号は2.35tと、サイズほどの違いはない。

この辺は、逆に言えば5種類の観測機器を搭載した「嫦娥」に対し「かぐや」はその3倍にあたる15(14+1ともいう)種類もの観測機器を1.3倍以下の重量に収めたということになりますね。 まあベースになっている衛星バスの違いとかもあるかもしれませんが、そもそもセンサの性能は文字通り桁が違うという話ですし。

月に限らず、宇宙探査には時間がかかる。大型計画になると、開発開始から打ち上げまで10年以上かかることも少なくない。

これが太陽系探査となると、長期間の惑星間空間の航行が加わるので、結果が出るまでにさらに時間がかかることになる。「はやぶさ」の場合は、1996年から探査機の開発が始まり、打ち上げは2003年、現状では帰還が2010年となっている。足かけ15年の長丁場だ。

この場合、一番問題となるのは、人材の確保である。次の計画なくして、探査継続に必要な科学者や技術者、さらには計画に参加する企業をつなぎ止めることは不可能だ。

次にいつチャンスがあるか分からない状態では、関係者のモチベーションが保てないし、また研究者としても技術者としても、人生設計が成立しない。さらには、実際に探査機を作るメーカーとしては、収益が出ない。

探査に取り組む人材なくして、宇宙探査を続けることはできない。従ってプログラム的探査は、宇宙探査のの進展にとって必須条件と言っても良い。

嫦娥1号は、中国のプログラム的探査の出発点である。宇宙開発に乗り出した当初から中国は一貫して実利用を重視し、宇宙科学には興味を示してこなかった。今回の嫦娥1号においても、「月の資源探査」と「国威発揚」という実利が強調されている。

しかしながら、計画的に次々と探査を実施する方向に足を踏み出したことで、中国は今後急速に宇宙科学分野でも力を付けてくる可能性が高い。

中国政府は現在、211計画という高等教育機関へのてこ入れを行っており、その中に宇宙科学の振興も含まれている。プログラム的探査に乗り出した中国は、今後急速に宇宙探査に関わる人材が充実していくことになろう。

現時点でこそ日本は宇宙科学分野で一定のアドバンテージを保っていますが、決してノンビリ構えていられる状況ではないということですね。 先日も中国はISS参加希望を表明してましたが、このように中国が政府の強力なバックアップによって割り込んでくることも十分考えられます。