小惑星探査機「はやぶさ」の帰還運用の再開について [JAXA]

うおっ!

宇宙航空研究開発機構(以下:JAXA)は、平成21年11月9日にご報告いたしました、小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジンの異常について、その対応策を検討してきました。その結果、今後の運用に対する見通しが得られましたので、イオンエンジンの状況を注視しつつ帰還運用を再開することとしました。

JAXAでは、4つのイオンエンジンについて、中和器の起動確認や流量調整等を実施してきました。その確認作業において、スラスタAの中和器とスラスタBのイオン源を組み合せることにより、2台合わせて1台のエンジン相当の推進力を得ることが確認できました。

引き続き慎重な運用を行う必要はあるものの、この状況を維持できれば、はやぶさの平成22年6月の地球帰還計画を維持できる見通しです。

今後もはやぶさの地球帰還に向けて、注意深く運用を続けてまいります。運用状況については,適時報告いたします。

おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! スラスタAの中和器でBの中和器を代用だと!? いずれにしてもこれで再び帰還への道筋が出来たことになります。鳥肌立った。

はやぶさリンク:はやぶさ、帰還に向けてイオンエンジン再起動 [松浦晋也のL/D]

記者会見の起こしがアップされています。凄いことになっています。

はやぶさイオンエンジン用の電源を3台搭載しており、それぞれ、AB BC CDに電力を供給できるようになっている。と、同時に、異なるエンジンのイオン源と中和器を使って運転を行うことも想定して、電源を結合する回路も搭載している。

11月11日に、イオンエンジンBのイオン源とイオンエンジンAの中和器を使っての運転を行ったところ、6.5mNの推力発生と安定した運転を確認。軌道計画的にも2010年6月の帰還が可能になった。

イオンエンジンは、イオン源と中和器への推進剤の供給を、ひとつのバルブでコントロールしている。重量軽減のためにバルブを減らしそのような設計となった。このため、使っていないエンジンAのイオン源と、エンジンBの中和器からも生ガスが噴出している状態。
しかし、推進剤のキセノンは推定であと20kg残っている。残る加速に必要な量は5kgほどなので十分対応可能。

川口 帰還に必要なデルタVは2200m/s。すでに2000m/sは達成。残るは200数十m/s。現状では2010年6月の帰還は可能。しかしさらなるトラブルが起きると2013年帰還となる可能性もある。

現状はAB2基のエンジンの使える部分を使って推力を得ている状態。これは地上試験を行っていない。打ち上げ前に、このような運転があり得ることは想定していたが、そもそもこのような運転はアースの関係で地上での試験ができなかった。

今回は運がいいと思っている。はやぶさが太陽に近づきつつあり、電力に余裕が出てきつつあったからこそ、この運転が可能になった。もっと地球から遠いところで今回の故障が起きていたら、この方法は使えなかったろう。

読売:現状で推力はどれほどなのか。

國中:6.5mN。今後エンジン2台で噴射を行う運転は考えていない。今後このまま来年の3月中旬まで6.5mN噴射を続ければ帰還可能となる。

川口:はやぶさの現在位置は、地球からの距離は約1天文単位。本当に火星の近くにある。

毎日 こういったトラブルを想定して回路を積んだのか。

国中 そうだ。

毎日 他のスラスターでもこういう運転はできるのか。

国中 そうである。ただし、今回エンジンBのイオン源と中和器Dの組み合わせて試験運転してみたところ、うまく動かなかった。

朝日 スラスターと中和器の位置がノミナルと変わるわけだが、推力方向が変化してしまうことはないのか。

国中 実際そういう現象も観測されている。ただし推力ベクトルの角度のずれは1°以内で、イオンエンジンの首を振るジンバルで修正可能な量。ビームのよれがおきるという現象は、宇宙プラズマ物理にとっても貴重な知見である。

時事通信 エンジンAを使っていなかったのが幸運だったのだろうか。

川口 Aの中和器が健全にリザーブできていたことが今回の運転につながっている。

不明 Cを運転していないのはバックアップ用か。

川口 その通りだ。Cも劣化の兆候があるので長時間運転は難しいと見ている。

不明 いつが2013年へと帰還がずれこむタイムリミットとなるのだろうか。

川口 Cは推力がないので、それほど加速できない。例えば来月にでAとBによる現状の運転が不調になると2013年になるだろう。しかし不調になるのが来年2月3月ならCだけで6月に間に合うだろう。年内に再度故障が起きたら2010年帰還はアウトと思ってもらいたい。

川口 エンジン停止の時は「来るものが来た、これはもう2013年帰還か」と思った。イオン源と中和器のクロス運転を可能にする電源回路の存在は知っていたので、対策の検討会ではイオンエンジングループに検討を依頼した。イオンエンジングループは自信を持っていたかも知れないが、私は淡い期待を持っていた程度だった。最初BとDで動かしたがうまくいかなかった。

国中 電力収支が厳しかったので、100W近くの電力を消費する通信機をいったんとめてAとBを運転、データを記録して通信を復帰してから送信するというやりかたで、動作試験を行った。通信復帰の途端に、はやぶさからの電波のドップラーシフトが不連続にジャンプしたので、「これは動いたぞ」と思った。その後、データをダウンロードして正常運転を確認した。

不明:CとDの運転はできるのか。

川口 おそらくイオン源の寿命はまだまだある。問題があるとしたら中和器A。AとCの運転は試験をしていない。時間がないので組み合わせ試験よりもイオンエンジンの連続運転を優先した。地球帰還にはあと2000時間の運転が必要である。
産経 Dが止まったということはどういうことか。

国中 中和器の電圧が上昇したというのが観測された事象。中和器は電圧をかけて電子を放出している。中和器が劣化すると同じだけの電子を放出するのに必要な電圧が上昇する。電圧の限界値が50V。イオンエンジンの定格は1万4000時間だが、Dはすでに1万5000時間運転している。Bは9500時間。まだまだ、惑星探査用のエンジンとしては長寿命を目指して研究を進めねばならないと思っている。
中和器Aはイオン源Aとの組み合わせて10時間、11月11日以降、イオン源Bの組み合わせて180時間運転している。

宇宙作家クラブ 加速量達成後、地球へのカプセル投下にための最後の軌道修正はどうするのか。

川口 イオンエンジンで行う。1m/s程度。この修正に1日から数日かかる。

最初から不調だったスラスタAの中和器は通常通り使えるため、中和器の使えなくなったBのイオン源と組み合わせて1つのイオンスラスタに。2つ合わされば炎ですね分かります。にしても何という超絶技巧運用… こんだけコピペしといて何ですが、異様に濃い内容の会見になっています。必見です。
そもそも今更ながらこれまで中和器について誤解していたようで、中和している対象はイオン源ではなく探査機そのものなので中和器は基本的に噴けさえすればいいものなのだそうです。先日頂いたせれーねさんのコメントがまさにそうでした。お見それしましたm(_ _)m いやホント、川口先生じゃありませんが「はやぶさ」に向かって「無理」なんて言葉を迂闊に使えないですねw 一体どう対処するのかと思っていたら、こんな事態を見越してダイオードを追加しておいただなんて。

とりあえず現状としては、この状態を年内維持できれば3月で地球帰還に必要な増速を完了できると。そして現時点での運転時間はA:190時間(中和180時間) B:9500時間 D:15000時間。キセノンの使用量は2倍になるものの残存量は十二分にあるそうなのでこっちは大丈夫ですね。電力的にも今のタイミングなら問題無し。

朝日 計画にかかったこれまでのコストを知りたい。

川口 ここまで打ち上げや運用費用も含めて計画遂行の総額は約210億円。事業仕分けされないようにしなければいけない。運用費は年1億円程度なので、3年伸びると3億増える。

いやもう全く本当に。ここまでやってきて仕分けられたら発狂ものですw

毎日 帰還日は決まっているのか。

川口 今のところ言わないことになっている。勘弁してください。旅行する人が大変になったりするので…

帰還ツアー見透かされてますねw

エンジン停止の小惑星探査機「はやぶさ」 - 再び地球を目指して運用を再開 [MYCOM]

こちらの記事ではイオン源と中和器の組み合わせ図が載っていて解り易いです。Cとの組み合わせも未実施ながら可能とされています。

小惑星探査機「はやぶさ」が地球への帰還を再開 [Robot Watch]

大塚さんもナイスレポをされています。上の記者会見起こしの内容がスリムに纏められているのでコチラもお薦め。

また後継機「はやぶさ2」について、前回の記事でも触れたが、取り巻く状況はさらに厳しくなっている。その後、開催された行政刷新会議のワーキンググループ(いわゆる「事業仕分け」)において、JAXAの2012年度以降打上げの衛星について、1割の予算縮減を求める評価が出てしまったのだ。概算要求にすら入っていなかった「はやぶさ2」にとっては、だめ押しと言っていい。

しかし、この事業仕分けについては、法的な強制力はなく、財務省との折衝の中で、これが覆される可能性は残っている。しかも、文部科学省事業仕分けの対象となった所管事業について、国民に広く意見を求める姿勢を見せている( http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm )。まずは意見を出すことが重要だろう。賛成にしろ反対にしろ、国に対して、積極的に声を出してもらいたいと思う。

うむ、大いにうむ。