時代を駆ける:川口淳一郎/2 夢のようなフィナーレ [毎日]

先日の続き。

 地球帰還の数カ月前から、最後の関門であるカプセルの分離が計画通りにならないケースに備え、さまざまなシナリオを練りました。はやぶさがカプセル分離の指令に反応するか、電池は生きているか、パラシュートが開くか、回収に欠かせない位置情報を知らせる電波が出るかなど、最後まで不安でした。

 《ところが、すべてがうまくいった。カプセルからの電波の発信も確認された》

 「電波が出た」と聞いたとき、「うれしい」よりも「うそじゃないか」と思いました。電波はきっと出ないだろう、カプセル回収まで数日かかるのが当然、と考えていましたから。さらに大気圏突入から30分で、ヘリが実際にカプセルを確認した。あれはもっと驚きでした。

最後はホント、色々不安視されてたのが嘘だったかのように完璧なリエントリでしたよねえ…。またぞろ誰かの書いた小説のコピペじゃないのかと思うほどにw

 国内外から「そんなことできるのか」と言われた、背伸びをした計画でした。個人的に「できすぎ」と思う一方、「よろめきながらもちゃんとできた」と見せられたことが痛快でもあります。「日本にこれだけ難しい探査を実現できる能力も体制もある」と示すことができたし、今後の提案も信用してもらえるでしょう。何よりも日本を元気付け、希望を与えると思います。

その通り。何より大事なのは、未知の小惑星に手が届くのだということをその手で実証して見せた事。もちろんNASAやオーストラリアを始めとした各国機関の協力に対する感謝も忘れてはならないでしょう。

のぞみとメイブン、はやぶさ2とオシリス-レックス [松浦晋也のL/D]

 「のぞみ2」がなかったのは、科学観測の価値ではない。科学的価値は、はからずもアメリカがメイブンで追従したことにより証明されている。
 「のぞみ2」が立ち上がらなかったのは、主に予算のせいだった。

 「はやぶさ2」がなければ、同じことがおこるだろう。

 小惑星に対するアメリカの興味は、火星大気観測に対する興味より明らかに強い。アメリカは一昨年の科学探査機セレクションに小惑星からのサンプルリターンを行う「OSIRIS(オシリス)」を提出した。この時オシリスはセレクションに落ちた。選ばれたのは月の重力場を精密計測するGRAIL(グレイル)である。この選択には、多分にブッシュ有人月探査計画の意向が働いていたようである。月周回軌道で、有人宇宙船を安全に運用するためには、月の重力場の精密計測データが必須である。

 しかし、一度落選したぐらいでは、アメリカの探査機計画は消えない。現在オシリスOSIRIS-REx(オシリス-レックス)という名称で復活してきている。目標天体は、「はやぶさ2」と同じ1999JU3だ。そしてオシリス-レックスは、NASAの次期探査計画のセレクションで最終候補に残っている。最終選定は2011年中旬に予定されており、ライバルは金星探査機「SAGE」と月面サンプルリターンの「MoonRise」だ。
 有人月探査計画がなくなった今、アメリカの月への興味は、明らかに薄れてきている。

 私の予想だが、アメリカは日本の出方を見守っているのだろう。「はやぶさ2」が消えても、はやぶさ2の目指すサイエンスの価値は消えない。だから、「はやぶさ2」がなくなればアメリカは「オシリス-レックス」を選定する可能性が高いと考える。
 アメリカにとってオシリス-レックスは未だやったことのない“危ない”ミッションだ。すでに一度やった実績を持つ「はやぶさ2」が動き出せば、「それは経験者の日本に任せておけ」ということになる。となれば、通信網など別の利便を日本に提供し、その見返りとしてサンプルを手に入れることを考えるだろう。それはアメリカにとって日本を対等のパートナーと位置付けることを意味する。
 しかし「はやぶさ2」がなくなれば、アメリカにとってオシリス-レックスは、「リスクをとってでもやるだけの科学的価値のあるミッション」となる。

明らかにNASAは狙ってますよね。こんな局面で「どうぞどうぞ」を発揮するなんてタチの悪い冗談です。