対談 山根一眞 × 野口光一 CGの新技術が可能にした映画で見せる「はやぶさ」の生き様 [JAXA]

映画原作の著者である山根さんとVFX担当の野口さん。どうでもいいですが最初野口聡一宇宙飛行士と空目しました。

野口:今回の映画では、2009年に公開された「アバター」で注目された「リアルタイム・プレビズ」という新しい技術を、邦画として初めて導入しています。これは、ミニチュアの「はやぶさ」の模型を手持ちで動かしながら撮影監督の阪本善尚さんがダミーのカメラを操作し、その時の模型の動きとカメラワークをCGへ反映させるという技術です。これにより、「はやぶさ」の生きているような動きが可能になったんです。さらに、「はやぶさ」の機体の光の反射具合やハイライトを忠実に再現するため、実寸大の模型を作りました。その「はやぶさ」の模型をスタジオに吊して、宇宙ではどのような動きをするかを模擬し、照明を当てながらいろいろな角度で撮影してCGの元になるデータを取得したのです。

なるほど、実物大模型でカメラアングルをシミュレートして実際のCG製作に反映したんですね。そういえば「はやぶさ」もそういう航法してたような。

野口:「はやぶさ」が旅をした宇宙空間での光源は太陽しかありません。例えば、太陽電池パネルは常に太陽に向いているのでずっと明るいんですが、探査機の底面や側面など太陽の光が当たらないところは常に暗い。地球やイトカワに近ければ惑星からの太陽光の照り返しがあって多少は探査機が見えると思いますが、そうじゃない場合は光が当たらない部分はずっと暗いわけです。そこで、深宇宙をとにかく暗く描こうということでやってみました。

確かに実際のコントラストはかなり強いはずですよね。ただイトカワ接近時は反射光もあるはずなので、底面が照らされたりするんでしょうかね。ミネルバのカメラには太陽電池パドルの裏側が写ってましたし。

野口:この映画は全般的に説明カットがないと思いますが、それは「説明なしで見せよう」ということにしたからなんです。

山根:歴史物の映画にしてもそうですが、各々のシーンの詳しい説明がなくても、全体を通して分かればいいという作品もありますよね。大胆に説明を切り捨てたにもかかわらず、感動的な物語に仕上がっているのが、この映画のすごいところです。

野口:この映画は「ドラマを中心にしたい」という思いがありましたから。

専門的な部分は大胆にも説明無しで見せるそうです。自分的にはそれでも全然OKですが!

山根:全部、事実です。ただ、一部映画ならではの演出もありましたね。たとえばイオンエンジン担当のJAXA教授とNECの技術者が対立するところ。役のモデルとなっているのはJAXAの國中均先生とNECの堀内康男さんですが、実際には映画のようなあれほど激しいやり取りをしたことはなかったはず(笑)。別のシーンでは、NECの技術者がプロジェクトマネージャーを「大嫌い」と言っていますが、もちろんあれも事実とは異なります。でも脚本家の西岡琢也さんによれば、映画は、人と人が対立する「見せ場」がないと成り立たないため、あえてああいうシーンを設定したそうです。あくまでも映画ということで、國中先生も堀内さんも納得されているようですし。

やはりかなり熱血気味に仕上がっているようですよ。先日の渡辺謙スペシャルでも國中先生と堀内さんがお揃いで出てましたが、実際は「クロス運転は危険だからしないでほしいんですよ」「うーんでもなあー…」みたいな感じだったとか。

野口:映画を作っていて疑問に思ったんですが、行方不明になった「はやぶさ」からの電波を探すときに、臼田宇宙空間観測所の人がモニターを見て探していましたよね。あれ、コンピュータで自動検出するようにはできなかったのですか?

山根:そのことは、「小惑星探査機 はやぶさの大冒険」を出版した後に臼田を訪ねて聞いていて、それを東映の製作チームの一部の方には伝えています。自動検出ができない理由はこうです。
 「はやぶさ」に搭載した送信機の送信周波数は水晶発振器によるものですが、温度変化があると水晶発振器の周波数はズレてしまう。行方不明になってからの「はやぶさ」は内部の温度がかなりの低温になっているため、送信周波数が不安定であることは明らかでした。ラジオで例えれば、受信側がどこにダイアルを合わせれば「はやぶさ」の電波をキャッチできるかが分からなかった。そこで、ある周波数の幅を1000刻みにして、それぞれにダイアルを合わせて、モニターで「はやぶさ」からの電波の「山」が出ていないかを数分間見ることを続けたそうです。
 そもそも「はやぶさ」の電波は3億kmも離れたところから届く超微弱な信号です。しかも、送信出力はタクシー無線程度。宇宙にはいろいろなノイズがあるので、その中でほんの少しだけ出てくる電波を探さなければならず、コンピュータまかせでは難しいのだそうです。

野口:だからアナログの方法で、目で見て探さなければならなかったのですね。モニター画面をビデオで録っていたのはなぜですか?

山根:「はやぶさ」からの信号は、モニターにはほんのわずかな「山」として表示されるので見逃すことも考えられますし、トイレに行くためにモニターから離れることもある。そこで、画面の波形をビデオに録り続け、後で早送りをして確認していたそうです。臼田のチームは40日間以上「はやぶさ」からの電波を探し続けたわけだけど、この作業を1時間も続けると頭痛がしてくるほどで、臼田の人は「当時の日々は地獄だった」とおっしゃっていました。映画では、長嶋一茂さんがその地獄の作業を演じていますが、彼が「はやぶさ」の信号を見つけた瞬間の表現が見事で、涙が出ちゃいました。

うすださんの中の人をもってしても1時間で頭痛…めちゃくちゃハードですね。これが1年も続かなくてホントによかったw