「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化に向けた実証試験について [JAXA]

うおっ、凄いですねこれ!

 宇宙航空研究開発機構JAXA)は、次期X線天文衛星ASTRO-Hに搭載予定のガンマ線観測センサの技術を応用し、ガンマ線を放出する放射性物質の分布を可視化する新しい装置「超広角コンプトンカメラ」を試作しました。この装置は、広い視野(ほぼ180度)と核種に固有なガンマ線を識別する能力を生かして、敷地や家屋に広く分布したセシウム137(Cs-137)やセシウム134(Cs-134)について画像化できることから、サーベイメーター等を用いた人力による従来の調査では困難であった、屋根などの高所に集積する放射性物質も画像化することが期待されます。

核種まで判別できるとか… このコンプトンカメラは2014年打ち上げ予定のX線天文衛星ASTRO-Hの観測センサの一つである軟ガンマ線検出器からのスピンオフで開発されたもので、ざっくり言うと従来のピンホール式と比較し視野角・角度分解能・エネルギー分解能が段違いに向上しているようです。詳しくはリンク先の添付資料に色々載っていますが、↓の記事がとても分かりやすく解説されています。

JAXA、「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化実証実験を実施 [マイナビ]

今回の超広角コンプトンカメラは、2014年(当初は2013年)にJAXAが打ち上げを予定しているASTRO-H(JAXAの衛星や探査機でお馴染みのひらがなの名称はまだ公募されていないのでつけられていない)に搭載される検出器(観測用センサ・カメラ)の1つである「軟ガンマ線検出器(SGD:Soft Gamma-ray Detector)」のコンセプトをベースに、同じくASTRO-Hに搭載される4つの検出器の内の1つである「硬X線撮像検出器(HXI:Hard X-ray Imager)」の要素技術を組み合わせて試作された、原理実証モデル(試作機)である。

高橋教授は会見で、東京電力から相談を受けたこともあり、「日本には優れた技術がたくさんあり、それを現在の困っている方たちの少しでも役に立ちたいと思い、急遽ASTRO-Hに搭載するために開発中だった技術を応用して試作しました。コンプトンカメラに使われている技術は世界でも唯一で、性能も最高のものです」としている。

例によってニコ生での会見中継を拝見しましたが今回のはあくまで「原理実証モデル」ということで突貫で作られたものですが、今後も現地の作業で使われる方針らしい。実用化するにあたっては、勿論これは宇宙用センサの流用なのでかなり高価ですから廉価な地上モデルを開発する必要がありますし、JAXAは専門組織では無いので民間の協力も仰いでいます(あくまでASTRO-Hプロジェクトチームですしね)。目処は数年。
またこれはセンサの一部を組み込んだだけですので撮影には感度によって20〜60分かかりますが、センサ全てを組み込むと1/10程度にまで短縮できるそうです。また相対的な閾値も設定できるとのこと。
ちなみに現時点ではまだ直接線量を割り出すことは出来ないとのこと。というのもこれはエネルギー(電子ボルト)を検出しているため。また視線方向のエネルギーを積分しているので、つまりポイントごとだけでなく視線方向に重なって見えるものも強く反応してしまいます。なので、線量割り出しを実現するには現地の地形などの状況を考慮しつつ計算方法も考える必要があるそうです。
ただしこれだけはっきり可視化できればそれだけで非常に有用なのは間違いありませんね。例えば線量計は周囲から飛んでくる放射線を全て捉えますが、このコンプトンカメラはエネルギー発生源を直接検出しますから汚染箇所を直感的に特定できますし、除染作業も非常に捗るのではないでしょうか。いやあ、こんな凄いものが出てくるとはびっくりしました。