全球降水観測計画(GPM)に関する説明会 全文起こし

今更ですが、1月14日に行われた記者説明会をNVSさんの中継から起こさせて頂きました。以下敬称略。

司会は私、広報部報道グループ長の阿久津です。本日から前任の坂下に引き継ぎ私がグループ長となりました。

小嶋正弘プロジェクトマネージャー:

GPM計画とGPM主衛星搭載の二周波降水レーダーDPRについて。GPMはわかりにくい計画でもあるので「雨雲を、味方にせよ」というミッションのキーメッセージを付けた。雨とは暴風や豪雨など人々の生活に災害をもたらす一方で、人間活動に必要なものでもある。日本は水に恵まれた国だが海外から多くの食料を輸入している。海外で十分な雨が降り良い生育が得られるかどうかが重要である。「あなたの体は世界の水でできている」というサブメッセージを付けている。
我々が開発したのはDPR。親しみやすいよう「雨雲スキャンレーダー」というニックネームを与えた。GPM計画は主衛星が中心であるが、主衛星のみでは変化の激しい雨を十分な頻度で観測できないため国際協力で各国の衛星データを用いる。各国の衛星は既に打ち上げられデータを提供している。最後の重要な1ピースであるGPM主衛星がいよいよ打ち上げられる。


プロジェクト概要。日本が開発した二周波降水レーダー(DPR)、NASAが開発したマイクロ波放射計(GMI)の2つのミッション機器を搭載した1機の主衛星と、マイクロ波放射計あるいはマイクロ波サウンダーを搭載した複数の副衛星群で気候変動や水循環変動の解明、地球全体の雨を非常に高い精度、高い頻度で観測する国際協力ミッションである。主衛星はJAXANASAの共同開発。DPRはNICTと共同で開発したものである。分担としては衛星バスはNASA。設計寿命は3年2ヶ月、質量は3850kg、軌道高度407km、軌道傾斜角65度。通常の観測衛星は軌道傾斜角は90度近い太陽同期軌道を取るが、本ミッションは雨を観測するため太陽非同期軌道。DPRはNICTと共同開発、GMIはNASA。今年2月28日未明に打ち上げ予定である。打ち上げ後の追跡・管制はNASAが行い、観測して得られたデータ処理はNASAJAXAが協同で行う。
GPMの国際協力パートナー。レーダーを搭載しているのはTRMM、GPM主衛星。メガトロピーク衛星・GCOM-W1・MetOp衛星・NOAA衛星・NPP衛星・JPSS衛星、これらはレーダーを搭載せずマイクロ波放射計あるいはマイクロ波サウンダーといった受動的なマイクロ波観測装置を搭載した衛星である。
何故衛星で雨を観測するのが重要かというと、過度あるいは過小な雨は人間生活に大きな影響。年間降水量の振れ幅は大きくなってきている。少し振れるだけでも私達の社会に大きな影響がある。地上に設置された雨量計の密度。日本や欧州、北米、オーストラリアの一部は非常に非常に密に観測がされているが、全世界の陸域の30%しかカバーできていない。人が立ち入れないような険しい地域、紛争地域などでは地上観測データは得られず衛星が唯一の情報源となる。

1997年に打ち上げられたTRMMがGPMの先駆けのミッション。GPMと同じく日米協力ミッションであり、打ち上げから16年で設計寿命を大幅に超えて今も観測を行っている。TRMMで日本は初めて雨を観測する衛星搭載用レーダーを開発し、いかに有用かを実証した。
TRMMとGPMの違い。TRMMは熱帯から亜熱帯までを観測する軌道。GPMでは南北65度の緯度まで拡大することで地球全体の95%までを観測。緯度が高いと弱い雨や雪がかなりの比率を占めるため、感度を向上。TRMMでは0.7mm/hまでだったものがGPMのDPRは0.2mm/hにまで向上。TRMMでは見逃していたような雨も正確に測定。またTRMMでは1つの周波数だったがDPRでは強い雨と弱い雨に対応した2つの周波数に。また2つのレーダーで同時に観測することにより推定精度の向上。また主衛星と連携した副衛星群のデータを用いることで観測頻度を向上。主衛星は副衛星群のハブとなる校正器の役割を果たすため非常に重要。副衛星群を用いることで、3時間で地球全体をほぼカバー。
主衛星の概要。衛星の地球指向面に日本が開発したKu帯とKa帯の降水レーダーを搭載。その反対側にNASA開発のGMI。またデータは中継衛星を中継する設計思想になっているため中継用アンテナを背面に搭載。パドルも普通とは異なっており、太陽非同期で軌道高度も低いためこのような設計に。DPRの2つの観測センサのうちKuPRは観測幅が245km、KaPRは125km。GPMのデータはTDRS経由でNASAに集積され準リアルタイムでJAXAに送られる。JAXAで高次処理を行い降水マップなどを作成し気象庁や土木研究所、AERなどで利用される。
DPRの役割と重要性。高精度・高頻度で三次元的な観測が可能であり副衛星群の観測精度を向上させることが出来、世界の基準となる。TRMMの降雨レーダーはは空飛ぶ雨量計と呼ばれているがそれを更に高度化した次世代の雨量計。衛星搭載用の降水レーダーは世界でこれら2つしかない。世界で唯一のミッション機器。
DPRの概要。Ku帯レーダーは重量約400kg、2.4m×2.4m。Ka帯レーダーは一回り小さく約300kg。観測の原理の説明はは井口博士に。

質疑:

NHK:GPM主衛星のみでカバーする観測エリアの割合は。

約90%はカバーしている。

―9機体制とあるが、日本は副衛星群のデータも利用できるか。

それぞれ協定を結んでおり、お互いに交換し高精度な観測に役立てる枠組み。

―GPMが稼働した後TRMMはどうなるか。

燃料が尽きるまで運用を継続する。今の状況ではしばらくは継続可能。互いの校正もできるのでメリットがある。両方ともNASAが運用する。いつ頃まで可能かは太陽活動による大気の変動に影響されるが、最新の予報では2015年3月まではもつと聞いている。

―GPMが打ち上がった時点で連携する衛星の数は

TRMM・GPM主衛星・メガトロピーク・DMSPは16、17、18号・GCOM-W1・MetOPはAとB・NOAA16、18、19・NPP。これらをあわせ12機。

―共同:副衛星群はGPM専用というより、他の目的で打ち上げられたものを利用するという形?

その理解が正しい。それぞれの機関がそれぞれの目的で開発・運用しているがそれらが雨を観測するのに非常に有用なのでお互い協力してデータを交換してやっていく枠組み。

―主衛星が副衛星の基準となるというのを具体的に

GPMの軌道は傾斜角65度で、他はTRMMを除くと全て極軌道。物理的に軌道がオーバーラップする。他の衛星群は受動的な観測。DPRは自分で電波を放射して雨粒に反射して帰ってくる電波の強さから雨を測る。観測精度そのものが高いことと高さ方向の分布も測れることから、受動的な観測で得られたデータの精度も高めることができる校正源となる。


情報通信研究機構NICT) 電磁波計測研究所所長 井口俊夫氏:

DPRの性能と役割について。概要については小嶋プロマネの説明でほぼ尽くされているので、DPRが世界的に見ていかに凄いのかを簡単に。レーダーとはRadio Detecting And Rangingの頭文字で作られた造語。電波で物体の存在をを検知しその距離を測るというもの。送信機・受信機・アンテナからなっており、アンテナからパルス電波を出し標的から反射し返ってくる信号を見て物体の存在を知り、返ってくるまでの時間を測ることで距離が分かる。反射体が大きいと返ってくる電波が強くなるので、雨の強さで受信強度も変化する。そこから雨の強さを推定する。
どのようにレーダーで雨を測るか。雨粒から返ってくる電波の強度は大粒の雨からなっているか、細かい粒の雨が一杯降っているかで降水量は同じでも反射強度は違ってくる。この誤差が大きいので、例えばNHK天気予報の降水レーダーでも4色でしか表されていない。何mmとは書かれず強弱で表現される。レーダーでは正確に推定できないため。DPRで新しいのは、2周波にすることによりこれらの違いを雨粒の大きさをある程度推定し反射強度から降雨強度を推定する精度を各段に良くしようというというもの。
また感度が0.5mm/hから0.2mm/hにまで上がったという話が先ほどあった。これは非常に大きな進歩で、実際の雨は弱い雨の方が頻度は多いが、弱い雨がもたらす降水量は非常に少ない。強い雨は滅多にないが降水量は非常に多い。見逃す雨がほとんどなくなる。
またフェーズドアレイアンテナ。アンテナを機械的に動かすのではなく電子的に走査して電波の送受信の方向を高速で切り替えるというもの。電波が行って返ってくるのをそのまま待つと1/1000mm秒以上かかる。そうすると毎秒300〜400回しかパルスを打てなくなり、サンプルが減るため雑音が増える。DPRでは毎秒4000回。最初のパルスが返ってくる前に違う方向にパルスを打ち、しばらくして最初のパルスが返ってくる時に受信の方向を切り替える。送信と受信を高速で切り替える。また2周波で精度を上げるということは、KuとKaの2つの電波の視野をぴったり合わせる必要があるが、その調節はフェーズドアレイアンテナでは容易に可能となる。軌道上にあっても地上からの操作でビームの調整が可能。さらにKaは観測幅を狭めることでより精密に構造を観測できる。TRMMで開発したフェーズドアレイの技術は地上のレーダーにも利用しようと大阪大学東芝に委託して設置したレーダーでは10秒に1回の頻度で上空の3次元の構造が得られるようになっている。
2周波の何が良いか。感度が上がっているので雪のような弱い反射体からも信号があり観測可能。上空において氷であるか雨であるかもKa・Kuで反射特性が異なるので、その性質を利用し高度によってどこまでが雪でどこまでが雨かも分かる。マイクロ波放射計のようなパッシブなセンサで雨を測定するアルゴニズムにとって非常に重要な情報をもたらす。副衛星から得られた情報から推定するアルゴニズムの精度向上に役立つ。3次元構造が明らかになると世界各地の雨粒の特性の違いが明らかになり全体のシステムとしての精度が上がる。長期的な温暖化・大気汚染の影響、気候モデルの改良にも役立つだろう。
GPMにおけるDPRの役割。小嶋プロマネから説明があった通り、マイクロ波放射計で観測し、約1分の時差でレーダーで同じ雨を観測することで雨の三次元構造が分かり、輝度温度との関係をしっかり作ることができる。これらをデータベース化しマイクロ波放射計から降水強度を推定するアルゴニズムの精度を向上すさせる。これにより全ての副衛星から得られる降水強度の精度を各段に向上。最終的にはGSMaP(全球降水分布図)の精度向上に非常に役立つ。気象予報にも役立つだろう。

質疑

―時事:フェーズドアレイは気象に限らず色んなところで既に使われているが、2周波は地上で実用化した事例はあるか?

無いことはないが、ほとんど大学など実験的なものになるかと。偏波機能を用いたレーダーが比較的よく用いられている。偏波機能とは雨粒がひしゃげていることを利用し雨粒の大きさを推定するものだが、真上から見ると真ん丸であるため衛星からはそれほど使えない。

―雨と雪の区別はどのように。

上げてみないと難しいところだが、航空機の実験である程度出来ることは証明されている。氷と水で減衰が異なる。電子レンジで解凍はなかなか進まずに溶けたところは急に暖まるという現象があるが、これは水はマイクロ波を非常によく吸収し、それに対し氷はほとんど吸収しないため。この性質を利用している。

―放射計を用いずレーダーだけで区別できる?

そのつもりだ。レーダーだけで出した氷と雨の境目がどこかという情報をマイクロ波放射計に与えることが重要。マイクロ波放射計は雨の部分の高さを仮定しないと正確な降雨強度が出ない。統計的・地域的な性質で今までよく分かっていない部分があった。

―地上に雨が届いているかどうかは見えるか。また地上から何mまでの雨が見えるか。

これは非常に良い質問。上から見ると地表面のエコーは物凄い強さで返ってくるためこれが非常に邪魔になる。直下視では高度分解能が250mなので500m程度までは見える。運が良ければ250m。地表の高度は地表のエコーでマスクされるため見えない。アンテナを横に225kmほど振った時、ビームの端と中心の高さが海上で1.5km〜2kmの差となる。陸域だと山などがあるため山のエコーも入ってくる。コンタミネーションやクラッタと呼ぶが、邪魔な信号が入ってくる。そのため、真下か端かにもよるが、高度1kmまでしか見えないということもある。陸域で顕著。DPRでは19kmまではきっちり観測することが保証されている。

―地表まで降っているかどうかは分からない?

そうであるが、地上から500mで降った雨が突然消えるということは有り得ないので。砂漠では無いことはないが、地域的に限られた希な現象。今回の目的としてはそこまで重要ではない。

―極域はどこまで見えるか。

軌道傾斜角65度なので、最大南北66度までがDPRの観測範囲。GMIはもう少し広く見える。


JAXA地球観測研究センター 技術領域リーダー 沖理子氏:

GPM/DPRで目指す科学的成果は大きく3点。1点目は降水の長期変動はどうなっているか。気候変化に関する知見の発信をしたいと思っている。背景としてあるのはTRMM降雨レーダーの観測が16年継続されオーバーラップが1年ほど見込めることで、GPMに続く貴重な衛星搭載レーダーの観測データが蓄積されることになる。スライドはTRMMで出した海上と陸上の実観測データ。我々は統計的な解析を行い、海上については降雨の増加傾向が統計的に有意であるという論文をパブリッシュしたりしたが、TRMMは熱帯域に限られているということで、GPMにも継続して例えば温暖化に関する豪雨の地球的規模での変動がどうなっているかをGPMで確認していきたい。
2点目は降水の科学についての知見を得ること。ここを長く説明する。降水システムの構造がどうなっているか。TRMMは熱帯海洋上など観測データの無いようなところで観測を多く得たということに価値がある。降雨がどうなっているかに加え、DPRでは降水粒子の分布、固相か液相かも得られる。どのようなことをDPRに期待するか、TRMMの例で。昔は地上雨量計で観測することしか出来なかった。地上レーダーでもカバーされる範囲は少ない。熱帯では一周期が大きいと言われていたが、点的な情報としては午後にスコールが来るということが知られていただけ。ところがTRMMのレーダーで測ってみると全熱帯的な日周期を非常に明らかにすることができた。海岸線に沿ったマレー半島の情報が非常にローカルな現象で、陸と海では午前と午後で雨の卓越しているところがクリアに分かれていることが分かり、ヴィクトリア湖は周辺が午後降雨卓越だが中心は午前降雨卓越で、海と同じような性質を持っていることが分かる。TRMMの持つ解像度が従来のマイクロ波放射計の数十kmより遙かに細かい数kmというオーダーで得られることによる。また日周期が得られる軌道を選んでいるからである。
雨の高さや広がり、強さ、日変化の違いというものを考慮して総合すると、陸上と海上、また季節によって降水がもたらす気象現象がどのように違っているかということを明確に区別できる。例えば日本では、北半球の夏では我々が経験するように熱帯性の雨に支配されている。冬は温帯低気圧性の雨に支配される。このような全球的な降水システムのありようが分かる。
梅雨前線が南北で雨の性質がどのように違うかという成果。対流性の雨か層状性の雨かを立体構造の情報から得られる。南側では熱帯性の雲クラスタからの背の高い対流的な雨、北では停滞前線に伴う層状的な雨が多いと分かる。これは日本が温帯で中緯度と熱帯のまさに境界線に位置しており、例えば温暖化などで梅雨前線の位置が少しずれたりすると我々が経験する雨の性質が大きく変わる。これを注意深くウォッチしていくことは特に日本にとっては重要である。
全球的な広がりで見ると、TRMMで観測した範囲は熱帯の積乱雲といった雨であり上下方向に大気をかき混ぜるような雲・降水システムに重要性があるが、温帯にとっては今度は南北の温度、傾度をかき混ぜることで温帯低気圧が発生する。すると降水をもたらすシステム自身が大きさや組織化が変わってくる。TRMMで次々とクリアに分かってきたが、中高緯度の降水レーダーについては我々はまだ持っていない。TRMMで分かったような降水システムのあり方が中高緯度でも明らかになっていくことが期待される。立体構造を含む降雨機構の理解。
3点目は準リアルタイム降水情報の発信。これは科学のみならず技術も含まれており、かつ実利用分野に近づいている。DPRのデータを用いマイクロ波放射計全体の精度を上げる効果が全球降水マップの作成に活きてくる。先ほど説明したものはレーダー単体によって期待できるものだが、我々はどこにどれだけの雨が降っているかという情報を生活に役立てたいという側面がある。複数の衛星の合成し準リアルタイムで発信することが実利用に役立ってくる。スライドは我々はTRMMのデータで現在試験的にEORC地球観測研究センターで公開しているものだが、フィリピンに被害をもたらした台風30号の例。このように全球的な降水の推定を行いデータを公開している。先ほど井口所長の説明にあった通りTRMM/PRのデータベースを利用できている範囲が熱帯域に限られるが、GPM時代には高緯度に広がり高精度化することにより社会への貢献が期待できる。
期待されるサイエンス。熱帯から中高緯度までの降水観測で分布と年々変動の実態把握をし情報発信する。その中には降雨・降雪の区別、雨の元となる雲の中の降水粒子の情報、雨の立体構造・長期のデータ、そして極端現象。温暖化などにより極端現象が増えるとも言われている。TRMMで15kmを越える雨も観測されており、そのような極端現象を捉えるため過去のデータに基づきどの高度まで必要かという議論の結果、19kmまで観測すれば全て現象として捉えられるだろうということで確定された数字である。また雨がどうなっているかということをモデル検証の充実、モデル予測精度向上に繋げる。ここが重要と考えている。雨のシステムがどうなっているか、全球水エネルギー収支の高精度化は気象モデルの改良に繋がっていく。すぐにとはいかないが予測能力が向上する。また降水データ同化すると数値天気予報にインパクトがある。GSMaPの高精度化によって洪水予報、農業、水資源管理など実利用に役立てると期待する。


気象庁予報部数値予報課データ同化技術開発推進官 佐藤芳昭氏:

ユーザーの立場でお話しさせていただく。まず数値予報について。天気予報や気象情報、警報などの基礎資料が数値予報である。防災のためばかりでなく、日々の我々の生活にも重要な情報。適切な発表と精度の向上こそが皆様への貢献。気象情報作成の流れは様々な観測およびそれらを利用して作成した数値予報、様々な観測の実況監視の情報、数値予報で予測された資料などを我々気象庁の予報課の中で様々解釈し日々の天気予報や気象警報、気象情報を発表しネットや報道を通して国民の皆様にお届けしている。
数値予報。地球大気を細かく分割し、そこに気圧・気温・湿度・風など気象要素の値を割り当て、流体力学方程式など物理法則に基づいてその値の時間変化を計算する。現在の地球全体を覆う数値予報モデルは格子数約8000万・24時間予報の計算量は240兆回というとんでもない数になるためスーパーコンピュータを用いる。ある時間の大気状態から始め時間発展させ未来の大気状態を得るというものが数値予報。
問題となるのは最初の情報。ある時点の大気状態は実は分からないということがある。これを理解するために様々な観測を利用し気圧・気温・湿度・風などの情報を各格子に割り当てる必要がある。その精度が数値予報の精度に大きく影響するので様々な観測が重要。航空機や地上観測、衛星観測の情報を利用する。
続いてマイクロ波イメージャの利用。数値予報で利用している観測は沢山ある。そのうち静止衛星地球観測衛星があり、DMSP衛星・TRMM衛星・GCOM衛星を既に利用している。スライドはマイクロ波イメージャのデータ分布。00UTC(09:00JST)の前後3時間のデータを利用した場合、ほとんど地球全体を覆っている。そのうち緑の部分はGCOM-W1「しずく」であるが、これがかなりの面積を占めている。「しずく」の利用で全球のかなりの部分をカバーしている。しかし、もう少し細かく3時間のデータで見てみるとかなり抜けがある。全球の大気の解析は現在6時間ごとに行って前後3時間、6時間で全球を覆うことができるが、日本周辺の予報だけをする数値予報システムでは3時間ごとに処理している。この抜けのタイミングが合ってしまうとその時間はマイクロ波イメージャのデータは利用できない。スライドは実際の例。「しずく」がかなり覆っているが抜けがあることが分かる。こういったデータは利用できない状況がある。スライドはAMSR2による降水予報改善事例。AMSR2無しより有りの方が予測精度が良くなるという資料。データ空白時間が減少し水蒸気の解析精度が向上、結果として降水予測精度が向上。GPM計画がうまくいくと更にデータ空白が減り、更なる精度向上が期待できる。
降水レーダーの利用。スライドはTRMM/PRとメソモデルという比較図。PRでは海上の降水粒子の3次元分布が単一のセンサで均質に観測できる。このデータと数値予報モデルを比較し数値予報モデルの弱点が理解できる。今後の我々のモデルの課題を見つけ改良することによって更に天気予報の精度向上を期待。スライドはPRと数値予報モデルを比較した例。左が観測、右がモデルでシミュレーションした例。分布を見ると降水の反射強度は細かい違いはあるが強さという意味では概ね妥当ではあるが、高いところの固体降水、要するに雪やあられや雲氷の反射因子が強すぎるという問題がある。この比較によって分かった問題点を改善することで若干の改善が見られる。これについてはまだまだテストが必要。GPM/DPRではさらに2つのセンサを利用することで降水粒子の実際の粒径分布が得られ、降水物理過程に関する知見の拡大に繋がり、それをシミュレーションに入れ込むことでも数値予報モデルを改善できるのではないかと考えている。将来的には3次元情報の利用により初期値の解析精度の向上も期待できる。
まとめ。気象庁の数値予報で様々な観測データを用いて現実大気をコンピュータ上に正確に再現することで精度の良い予測が可能となる。GPMの観測データ増強により観測空白時間帯が減ることは誤差の縮小に繋がり予測精度の向上が期待できる。さらに最新センサによる知見は降水物理過程の現象解明に役立つ。そのような情報を用いて数値予報モデルを改良することで、将来的な予測精度向上につながると期待できる。

質疑

―時事:AMSR2との比較のところだが、データ空白が少なくなり特別警報を出す時のメッシュの予測精度が良くなるということか

そうだ。数値予報の精度が良くなっていくことでそれらの精度も良くなると期待している。

―離島対策で雨量計を沢山設置しているなどあるが、地上観測網がなくても離島地域でもこれを使えば…

宇宙からと地上からそれぞれ役割がある。地上の正確なところはやはり地上から測らないと分からない。宇宙からは逆に地上では無いものが見える。例えば海上の情報。レーダーの弱点、我々の持っているナウキャストなどはレーダーで覆っている観測と地上の降水計とを組み合わせることでより精度を高めるというようなことを行っている。互いに補いながら精度向上。

―雨と雪の区別だが、南岸低気圧による首都圏の降雪などの精度は上がるか。

そのように期待したい。実際問題としては観測でどこまで得られるか、予報でどれくらい得られるか。南岸から上がってくるところでタイミング・高度など複雑。できる限り精度向上できるよう努力したい。

NVS:「しずく」が上がってから気象庁の数値予報に導入するまで1年ちょっとと結構早いと思ったが、GPM/DPRに関してはどのくらいのスパンで数値モデルまで持って行くか?

GPM計画とはマイクロ波放射計とレーダーであり、放射計については既存の技術が使えるためAMSR2同様もしくはもう少し短くできればと思っている。レーダーについては我々の数値予報モデルの不足している部分や開発が追い付いていない部分があるため長いスパンの課題となっている。

―現在TRMMのPRは数値モデルに組み込まれているか。

PRは組み込まれていない。マイクロ波放射計は利用している。PRは数値予報モデルと比較しモデル改良に繋げようという利用を行っている。

―DPRも研究が熟成したら数値予報モデルに持って行くというステップか。

そのように考えている。

東京新聞:この衛星が上がることで台風の進路予測の精度向上も期待できるか。精度が高まるということだが天気予報の的中率が上がるかどうか定量的に言えるか?

申し訳ないが定量的には申しづらい。台風の精度についてはまず状況が把握できるということは将来的な予報の改善には繋がっていくと思う。すぐに目に見える形というのは難しいが、数値予報モデルの精度が向上すれば台風予報の精度向上にも繋がっていくだろう。


土木研究所 水災害リスクマネジメント国際センター(ICHARM)上席研究員 岩見洋一氏:

衛星による降雨観測データを用いた洪水予警報システムへの利用。まず我々ICHARMについて。ユネスコの後援組織として2006年3月に設立。世界では洪水渇水土砂災害などが起こってり、これらを防止軽減するため研究・研修・情報ネットワークの構築を行っている。現在は主としてアジアの洪水関連のリスク軽減のための研究を順天的に取り組んでいる。スライドのグラフにあるように、我が国のみならず世界で水災害が大きく起こっている。2010年のパキスタン、2011年のタイのチャオプラヤマ洪水、2013年はインド北部での洪水などが頻発している。水災害を防止軽減するためにはハード対策としてインフラ整備として洪水調節池・放水路などを作ったりダムで調節したりなど。ソフト対策として洪水予警報システムを作り迅速に避難行動するなど。このような有効な対策を立てるためには雨や河川水位の基本データが必要。我が国については地上雨量計やレーダー雨量計など気象観測網が非常に発達しているが、途上国においては地上観測データが非常に不足している。このため洪水予測やリスク評価、有効な対策を立てることができない。資金も不足しておりハード整備には長い時間がかかり、ソフト対策のためのシステム構築にもコストがかかるという状況。さらにシステム運用のための人材育成も必要。また途上国には我々が国際援助を行ってきた歴史がある。それらが水災害で被害を受けてしまう。これは避けねばならない。
近年の技術革新として、グローバルデータが整備されてきている。具体的には地球地図という標高・地質・土地利用などを全世界でデータが公開されている。衛星による降雨観測データもあり、これらは無償でダウンロードできるようになっている。もうひとつは計算機能力の向上。グローバルデータなどの情報を元に流域をメッシュで分割し、そこに降雨を入力。水は土壌へ浸透するものや地表面に流れ出るものなどがあるが、係数を決めて時間ごとに計算。この分布型モデルを計算するには非常に時間がかかるが技術革新により短時間で動かせるようになってきた。そこで地上雨量計の他に衛星観測データも入力し、操作しやすい分布型モデルをIFAS(総合洪水解析システム)として開発。途上国に無償提供し操作方法の実習も実施している。
スライドはIFASの概念図。左上はグローバルデータと呼ばれ地形・標高・土地利用といったもの。それらを入力し河川流域のモデルを作成。川は標高の低いところに流れるため、自動で作成。右上は雨量データ。地上雨量計・衛星観測雨量データ(GSMaP)。GSMaPは観測から4時間後に入ってくるようになっている。解像度は1度、約10km。これらをメッシュに分割したモデルに入れ、地上に出てくる雨などを計算すると河川の流量・水位の時間的変化がグラフで出力される。ある値を設定しており、危険レベルを超えると自動的にEメールで警報を送信したりディスプレイ表示されたりする。これらを防災担当部局が受信し、避難勧告の呼びかけを行う。これらのシステムをIFASと呼ぶ。
スライドはIFASの河道網の自動作成機能。土地の高さが標高データとして与えられている。低いところは川が流れるということでコンピュータが自動的に川の位置を計算。そしてメッシュに分割されており、隆起の大きさによってメッシュの大きさは変わる。地表にタンクが敷き詰められているような状況。地価にもメッシュのタンクがあり、2階建て構造になっている。上のタンクにたまった水が下に染み込む場合、横のタンクに繋がって出て行く場合、これらは土の種類や土地利用の状態などで係数が決まってくる。係数を一つ一つ与えると川からどれだけ出てくるかが計算される。
スライドはフィリピンのパンパンガ川とカガヤン川についてIFASで流量を計算した結果。グラフに○で書かれたものが観測された流量データ。赤色の実践がIFASで計算されたものカガヤン川の場合、IFASで計算したものは観測値より若干低く出ている。青のデータは地上雨量を入力したもの。地上雨量が密にあるところは地上雨量が有効であるが、衛星データも非常に有効である。
2010年に起きたパキスタンの洪水。2000人が亡くなり2000万人が被災した、被害総額100億ドルという非常に大きなものであった。これを機にパキスタン政府が洪水予警報システムを作りたいとの話があり、ユネスコのプロジェクトが立ち上がった。私どももそのお手伝いをさせて頂いている。日本の場合だと50平方kmに1つは雨量計があるが、途上国では5000平方kmに1つあるかどうかという状況。観測が非常にプア。どこでどれだけ降っているかよく分からない。特にインダス川が流れており、その支川にカブール川がある。その上流はアフガニスタンになっており、政情が非常に不安定。なかなか人も立ち入れない。こういう場所の雨量データは今まで無かった。JAXA提供のGSMaPだとこのような場所の雨域が写る。このようなデータを入力するのが非常に有効。このような国際河川の場合、他国のデータも宇宙からだと分かる。こうして再現計算を行いシステムを組み上げたものがスライドの計算結果である。私どもはこのようなお手伝いをしている。
日本での検証結果。鹿児島県の川内川と熊本県菊池川の事例。○が実測値、赤がGSMaP。斜線を引いたバンドがちょうど衛星が降雨観測を行っていたタイミング。川内川では実際に雨が降った時と降雨観測を行っていたタイミングが一致しており、非常に再現性の良い結果が出ている。菊池川では降雨観測の谷間に実際の雨が降った例で、赤い線が非常に低く出ている。実際の降雨より低く出る例。今回GPM主衛星が上がることで観測範囲が広がり、観測精度・頻度がさらに高まる。GSMaPが更に高い精度となることを非常に期待している。国際協力においても非常に大きな意味。
IFAS研修。去年の夏にフィリピン・タイ・ベトナムバングラディシュ・ケニア・ナイジェリア、アフリカの方々が研修を行った。9月にはジャカルタでASEANN10ヶ国を対象とした研修を行っている。衛星を利用した洪水計算システムの更なる利用者拡大を期待している。

質疑

―時事:直接の質問ではないが、土壌水分量を直接衛星で観測する方法はないか?

ある程度の湿り具合までは分かるかも知れないが、それを適用するのは難しい。土壌水分量が飽和している状態で計算する場合とドライで計算する場合では結果が異なるので初期値をどう設定するかが大きな問題になるが、モデル上は試運転がある。実際に知りたい時期の前に例えば1年分、何度か雨を降らせてみる。そうすることで大体現状に近い状態に設定されるので、それを初期値として使っている。

―広域で雨に強いエリア、弱いエリアなど地質の違いをデータとしてシステムに取り込むことはするか。

これは先ほど説明した土壌データ・土地利用データ、森林と市街地で流出係数が違うし、砂か粘土かでも変わってくる。このようなデータを与えて計算している。

全体質疑

NHK:最終的にGPMで測定されたデータはGSMaPの形で各国に提供されるのか。

小嶋:レーダーから求められる雨量、マイクロ波から求められるデータもユーザーに提供される。気象庁ではどちらかというとレベル1という換算前のマイクロ波放射計の輝度温度のデータを使用するとのことなのでそのようなデータも提供する。それらを統合した形でGSMaPというグローバルな降水マップをJAXAで作成しそちらも提供する。

―打ち上げが上手くいけばいつ頃からデータ提供が始まるかの目安は。

現在の目標は打ち上げ後半年で一般ユーザーに提供する計画。

―利用者は協定を結んでいる国に限られるのか、それに限らず自由に使えるのか。

基本的に自由に利用できる。

―データ利用はインターネット経由で?

GSMaPは我々のサイトで利用できる。ユーザーの方々に利用しやすい形で迅速にデータ提供を行う計画。

―何ヶ国からどのような利用をしたいと問い合わせは。

沖:GSMaPの登録者数は700〜800のオーダー。国別で81ヶ国。分野としては研究・教育など様々。農業関係の資料として使いたいというのもある。登録時に記入される簡単な利用目的が記載されている。

―産経:基本的な質問で恐縮だが、小嶋さんに伺いたい。TRMMの次の世代としてGPMが1年ほどオーバーラップするという話だが、TRMMもGPMのコンステレーションの一員として機能していくという理解でいいか。

小嶋:おっしゃる通り。

―共同:基礎的なことだが何点か。準リアルタイム降水情報とはどの程度のタイムラグを想定しているか。

沖:GSMaPが観測後4時間後であり、これはリアルタイムと呼べないので準リアルタイムと呼んでいる。イメージとしては6時間以内。更新は1時間毎。

マイクロ波を用いた副衛星の観測が受動的ということについて

井口:赤外線カメラで人間の体が見られるのは人間から電磁波が出ているからであり、同じように雨粒からはマイクロ波が出ている。海はあまりマイクロ波を出さないが雨粒からは出てくるので強く受かる。これらを見ている。全体の雨粒に比例した温度で観測されるので立体構造は分からない。雨粒がいっぱいあっても高いところに分布していると単位体積あたりの粒は少ないので弱い雨になるが、低い雨なのにいっぱい雨粒があると実は強い雨が降っている、というような違いが出てくる。雨の高さを仮定しないと出てこない。受動態のセンサーではその情報がうまく得られない。気候モデルや周辺の温度などを使って高さを推定している。レーダーと一緒に測ることで高さが正確に出る。データベース化することで受動的に測った信号とレーダーで得た信号の対応付けができて精度が上がる仕組み。

―確認だが、副衛星を使うことで得られる最大の利点はエリアの抜けが無くなることか。

沖:同じ地点での頻度が増える。

―ライター喜多:準リアルタイムで1時間ごとにほぼ全球の物理量が得られるというものは他にあるか。地震情報や雲の情報など。全球的にかなり正確に把握される初めての物理量が降水量だという言い方はできるか。

沖:そう言われればそうかもと思いかけてきた(笑) 雨の場合は隣町で降っていてもこちらでは降っていないというように時間と空間の変動が激しいので多くの衛星を用いて高頻度に取得しようという発想なのでそうなっている。

佐藤:気象の分野では静止衛星のデータは日本だけでなくアメリカやヨーロッパの衛星などを用いて雲の動きは毎時単位で出している。気温のサウンダーは7〜8機あり結構な頻度で観測している。数値予報にも取り込みながら初期値を作るのに用いている。ただ水蒸気は先ほどありました通り非常に変動が激しい。変動が激しいものほど高頻度に観測しなければいけないが、仮想の水蒸気量や降水量はなかなかカバーできなかったか、カバーしても抜けがあった。

―「人類が初めて手にした高頻度な全球観測網」というキャッチフレーズは付けてもいいだろうか? …ではそれはまた後日(会場笑い)

佐藤:静止衛星による雲の観測は全球で行われているが、両極はそれだけではカバーできず極軌道の衛星を利用するなどかなり多くの衛星を使っている。雲としてはあるが、低い水蒸気や雨の原因になるところは頻度が低かったということでこの計画に期待している。

―「雨雲を、味方にせよ」というキーメッセージについて、どのような議論があって決まったか補足を。

小島:なかなか一般の方には分かりにくい計画。もともと副衛星があり主衛星があり国際協力で、レーダーやマイクロ波放射計がどのような役割を果たすかなど。一言でどう伝えるかという議論があった。災害を観測するとともに水資源の管理や農業など役に立てるよう、雨雲を私達の日々の暮らしの向上に役立てるために使えるミッションであることを伝えたいと考え、このようなキーメッセージを作った。

―時事:予算を教えて欲しい。日本側、アメリカ側、それ以外にも運用費などが各機関であるかどうか。

小島:JAXA側の総開発費はで打ち上げ費用を含め226億円。NASA側の正確な数値は把握していないが、NASAのホームページを参照すると大体550億円をこのプロジェクトに支出しているようだ。

―この550億円は衛星バス部以外にも運用費なども含んでいるか。

衛星バスとGMI開発費とデータ処理・運用システムの開発費。JAXAの経費にもデータ処理システム開発費が入っている。DPRはJAXANICTが共同で開発しており、NICT側もR&Dフェーズで供出しご協力頂いている。

井口:ざっと30億円。

NVS:GPM打ち上げが午前3時となっているが、これは他の雨量観測衛星の軌道を考慮したものか。

小嶋:GPMの軌道は太陽非同期。基本的には観測軌道から来る打ち上げ時間帯への制約はあまり無いが、打ち上げ時の衛星への日照条件や軌道投入直後のバッテリ消費などを考慮しNASA側が出した条件を元にして打ち上げサービスを行う三菱重工が計算し、この時間が最適であると判断され決定した。

特に今回の説明会ではGPM副衛星とのコンステレーションの意義がよく分かりました。TRMMの後継機として高性能化するだけではなく、準リアルタイムで全球の降雨現象ををカバーする観測網のコアとして機能させようというわけですから、喜多さんがおっしゃるようになかなかこれは壮大な計画ですよ。wktkしてきた。