衛星からのデータが人々の食生活を支える: しずく: 宙への挑戦 [NEC]

──なぜ、水温が重要なのですか?

為石:水温によって獲れる魚が異なるからです。
魚は変温動物なので、水温によって体温が変わります。どの水温なら最適な体温が保てるかは、魚の種類によって違います。カツオは20度くらい、サンマなら13度くらいです。
したがって、たとえば20度の水温帯があれば、そこにカツオの魚群がいる可能性が高いということになります。

昔は、船に装備している水温計で海水温を測りながら漁場を探していたのですが、衛星データの活用が実現してからは、より広い範囲の水温を把握できるようになりました。いわば、「水温の地図」をもとにして、最も近い漁場に短時間でアクセスできるようになったわけです。

──「しずく」からのデータが漁業にもたらす効果についてお聞かせください。

為石:数値の面から言えば、船の燃料が大幅に節約できることです。正確な水温分布図を見て、目的とする漁場を知ることができれば、ピンポイントでそこに到達することができます。つまり、無駄な燃料を使わずにすむということです。

こんな数字があります。衛星データの活用が始まった80年代中頃の漁船の燃料使用量をそれ以前と比較すると、年間で約16パーセント下がっています。これは、国内の巻網船、サンマ置網船、延縄船、カツオ船、イカ釣り船など全ての漁船が、衛星情報を利用したとして、節約できる燃油量を金額にすると、およそ264億6000万円になります。衛星1機にかかるセンサ費用がおよそ200億円ですから、それを超える効果が出ているわけです。

NASAのAQUAに搭載したAMSR-Eと同じくAMSR2により海水面からのマイクロ波放射を直接観測し水温のデータを取得できますが、これが漁業では効果覿面で、「しずく」は科学目的だけでなく既に実用面でも期待の高い衛星のようです。
またコメント欄でも情報頂きましたが、耐用年数を大幅に超えアンテナの潤滑部が劣化し観測を停止したAQUAのAMSR-Eを低速回転で運用再開する検討が進められているようです。2機による観測でより有用なデータが得られそうですね。