HTV「こうのとり」と他国補給船の比較
以前ドラゴン宇宙船との比較記事を書いてみましたが、改めてATV・ドラゴン・シグナス揃って比較してみたいと思います。超円高も落ち着いてきましたしw
ちなみにロシアのプログレス補給船については費用が不明なため除外していますが、サイズ以外の機能的にはATVとほぼ同じです。
主要諸元
補給船名 | HTV(日本) | ATV(欧州) | ドラゴン(米国) | シグナス(米国) |
---|---|---|---|---|
打ち上げロケット | H-IIB | アリアン5 | ファルコン9 | アンタレス |
打ち上げ時最大重量 | 16.5t | 20.750t | 7.51t | 3.5t(4.5t)*1 |
機体重量(物資除く) | 10.5t | 13.0t | 4.2t | 1.5t(1.8t) |
ISSへの最大輸送能力 | 6.0t | 7.667.t | 3.31t | 2.0t(2.7t) |
与圧部最大搭載量 | 5.2t | 5.5t | 3.31t | 2.0t(2.7t) |
非与圧部最大搭載量 | 1.5t | - | 3.31t*2 | - |
ISSからの回収能力 | - | - | 1.5t | - |
廃棄物資搭載量 | 6.0t | 6.3t | - | 1.2t |
特徴 | 大型船内物資・船外物資搭載などが可能 | 自動ドッキング、リブースト、推進剤補給などが可能 | 物資回収が可能 | 与圧モジュールを増強可能 |
まずこれらの補給船は大きく分けるとランデブー&把持方式と自動ドッキング方式に分けられます。この中で自動ドッキングを行うのはATVのみで、HTV・ドラゴン・シグナスはISS直下10mに相対静止しカナダアーム2により把持され共通結合機構(CBM)に結合されます。それぞれ利点があり、自動ドッキングだと結合はほぼ自動で完了します。把持方式ではアームによる作業などが発生しますが、1.2m四方の広いハッチを使用でき大型物資の搬入が非常に楽です。自動ドッキングを行うアンドロジナスドッキング機構は直径0.8mの円形なのでこの点が有利となります。またトラブルが起きた場合、相対静止後に把持する方式ならば自動でゴツンとドッキングさせるよりリスクが低いと言えます。
2つめの違いは船外物資を搭載可能という点。従来はスペースシャトルが担当していました。この中ではHTVとドラゴンがそれを可能としていますが、ドラゴンは機体後部のドラム状の内側に搭載する形になっており取り回しに若干難があります。HTVは専用の「曝露パレット」(いわばトレイ)を設けており、柔軟に大型物資を扱える仕様となっており、現時点ではほぼ全てをHTVが担っています。
3つめの違いは物資回収が可能かどうかという点で、この中ではドラゴン宇宙船のみがそれを可能としています。従来はスペースシャトル(引退)とソユーズ宇宙船で行ってきましたが、ソユーズは有人のためスペースが限られているので約60kgしか回収できません。1.5tの物資を回収できるようになったことはISSの運用上利便性が非常に向上したと言えます。
他には廃棄物資を搭載し大気圏再突入時に燃焼廃棄するというミッションもあります。ISSからそのまま放り出してスペースデブリにするわけにもいきませんし、ISSに溜め込み続けると大変です。必死こいてゴミを地上に回収してもあまり意味は無いので、これは使い捨て型の重要な役目と言えます。
ISSへの輸送費用
2013年8月15日現在の1ドル97.8円、1ユーロ129.7円換算。
COTSの契約ではドラゴン=16億ドルで12回の打ち上げを行い最低20tの輸送、シグナス=19億ドルで8回の打ち上げを行い最低20tの輸送となっています。これを踏まえて以下のように計算しました。
補給船名 | HTV | ATV | ドラゴン | シグナス |
---|---|---|---|---|
1ミッションあたりの推定合計費用 | 140億円(H-IIB)+140億円(HTV) =280億円 |
4.5億ユーロ(584億円) | 16億ドル/12回 =1.33億ドル(130億円) |
19億ドル/8回 =2.38億ドル(233億円) |
カタログ上での物資1tあたりのコスト | 280億円/6t =46.6億円 |
4.5億ユーロ/7.667t =0.587億ユーロ(76.1億円) |
1.33億ドル/3.31t =0.4億ドル(39.1億円) |
2.38億ドル/2t =1.19億ドル(116.4億円) |
実運用での1tあたりのコスト | 280億円/平均4.95t =56.6億円 |
4.5億ユーロ/平均6.7t =0.67億ユーロ(86.9億円) |
1.33億ドル/1.67t(20t/12回) =0.79億ドル(77.3億円) |
2.38億ドル/2.5t(20t/8回) =0.95億ドル(92.9億円) |
上の表2段目はカタログスペック。3段目は実際の運用での数字もしくは契約上の数字です。HTVとATVではそれぞれ4号機までの平均輸送量と発表された製造費用、ドラゴンとシグナスはNASAとのCOTSの契約に基づく輸送量と契約費用で計算しています。シグナスは現状まだ初飛行前なので未知数な部分は残ります。例えば契約上は8回の打ち上げで20t以上の輸送ですが、現在のシグナスが搭載可能なのは2tまでなので、与圧カーゴを増強することなどが前提の計画になっているものと思われます。(なお、ドラゴンはSpX-3フライトにてこれまでで最大である2.25tの物資を搭載しています。)こうして見ると、HTVはFalcon9などに比べやや割高なH-IIBを利用しながらもかなり効率良く運用されていることがうかがえます。
ここであえてカタログスペックを別に記載したのは、物資を搭載するにあたっては比重や容積などの収容能力に左右されるため単純な質量換算と実際の運用性とは異なってくるためです。実際の契約条件から見えてくる部分もあると思いますし。
またこれらはひとくくりに「ISSへの輸送費用」としていますが、上の方にも書いたとおり各補給船にはそれぞれ特色があり、例えばATVは推進剤を補給できますしドラゴンは物資回収が可能で、HTVは大型船外物資を輸送可能です。ATVは自動ドッキングが可能で、HTV・ドラゴン・シグナスはCBMに結合されるため大型ハッチを使用することが出来ます。このようなことから単純にどちらが安いかなどではなく、役割分担して運用されていくことでしょう。