月の表と裏の違いをもたらした超巨大衝突を裏付ける痕跡を発見 [産総研]

おお!?

 月の起源について、最も可能性が高いと考えられているのは、地球に巨大な天体が衝突し、そのとき生じた破片が集積して月になったとする巨大衝突説である。この説では、できたばかりの月の表面は融けた溶岩の海で覆われている。月の「高地」は、この溶岩の海が冷えて固まる際に浮上・集積してできた岩石で構成されている。一方、「海」は「高地」の形成後に内部から噴出した溶岩が窪地に溜まって形成されたと考えられている。図1に示すように、暗い領域の「海」は月の表側に広く存在するが、裏側にはほとんど見られない。また過去の月探査から、表と裏では「海」と「高地」の比率だけでなく、地殻の厚さや放射性元素の分布もまったく異なることが明らかになっている。この表側と裏側の非対称性は月の「二分性」と呼ばれているが、その成因は明らかになっていない。過去に「表側で発生した巨大な天体衝突が高地の物質を吹き飛ばして、直径3000 kmもの巨大な衝突盆地(図1左のプロセラルム盆地)が形成され、その結果として二分性が生じた」という仮説が提案されていたものの、実際に衝突が起こったことを示す物質科学的な証拠は見つかっていなかった。

 図2に示すように、月表面の主な鉱物は、それぞれ特徴的な可視赤外線反射スペクトルを持つ。2007年に日本が打ち上げた月探査衛星「かぐや」には、この反射スペクトルを測定し、詳細な月表面組成を調べることができる観測装置スペクトルプロファイラが搭載されている。スペクトルプロファイラは2007年12月から2009年6月までの間に、月面上の約7000万地点で200億点以上の反射スペクトルデータを測定した。

 産総研では、この膨大なデータを決定木を用いてクラス分類することで、特定の鉱物のスペクトルだけを抽出する方法を確立した。今回、低カルシウム輝石を約20%以上含む物質に着目し、月表面上での分布を詳細に調べた(図3)。低カルシウム輝石はさまざまな岩石に含まれる鉱物であるが、今回発見された濃集地点は大規模な衝突によって地殻だけでなくマントルの一部まで溶融して衝突溶融物が生成され、再固化する際に産出されたと考えられる。また、低カルシウム輝石はアポロ計画で取得された「雨の海」からの放出衝突溶融物にも多く含まれ、そのスペクトルは「かぐや」が測定した低カルシウム輝石に富む地点のスペクトルと一致している。

 図3に示すように、低カルシウム輝石に富む物質は、雨の海の周縁部、南極エイトケン盆地の内部、月の表側全体を覆うプロセラルム盆地周縁の3つの領域に集中していた。「雨の海」と「南極エイトケン盆地」は地形的な特徴などから、直径がそれぞれ約1000 km、2500 kmの衝突盆地であることが知られている。こうした大規模な衝突により、マントルの一部まで溶融し、衝突溶融物が再固化する際に低カルシウム輝石を産出したと考えられる。一方、「雨の海」と「南極エイトケン盆地」以外の表側全体の分布点は、プロセラルム盆地(図1左)を形成した超巨大衝突によるものと考えられる。直径3000 kmにも及ぶプロセラルム盆地を形成するためには、数百kmサイズの天体が衝突する必要がある。そのような衝突があったとすると、そこに存在していた「高地」はほぼ完全にはぎとられたはずである。また衝突によって地殻がはぎとられ深部の圧力が減少すると、溶岩がより噴出しやすく(海が形成されやすく)なる。つまり、月の二分性はプロセラルム盆地をつくった超巨大衝突によって生じたと考えられる。

産総研で開発していた地球観測データの解析手法を「かぐや」の観測データに応用してみたところ、今回の巨大衝突実証に繋がったそうです。というか表半分の地殻を剥ぎ取るような巨大衝突って凄まじいですよね。あの地殻津波動画みたいな感じでしょうか?

12/10/29: 「かぐや」データで、月の超巨大衝突と表・裏の違いを裏付ける研究成果が発表される [月探査情報ステーションブログ]

こちらの解説も非常に解りやすいです。

今回の研究は、「かぐや」データが第一級の科学的成果をもたらすのに十分なだけの非常に優れたデータを取得していることを改めて示したものといえます。「かぐや」は膨大なデータを取得しており、解析にもかなり時間がかかっていますが(すでに探査終了から3年経過しています)、その膨大なデータを効率的に解析する手法が開発されたことにより、今後、教科書を書き換える、あるいはもっとより詳しい成果で埋め尽くすような新しい研究結果が次々に出てくるものと期待されます。

「かぐや」が全球で観測した物凄い量の観測データを蓄えてますもんね。それを一つ一つ分析するマンパワーには限りがありますが、新たな手法で大規模な分析が加速すれば今後更にどんな成果が出てくるか非常に楽しみです。